今日はブラームスの交響曲第4番を聴く。
ブラームスの4つの中では最も好きなもの。借りていたSPレコードの
中にあった唯一のブラームスの交響曲がこの4番であった。
ワルターの指揮で、オケは多分ウィーンフィルだった。
「運命」や「未完成」と比べて難解だったが、繰り返し聴いているうちに
いわゆる「はまって」しまったものだ。
第1楽章の終りの方から非常にアッチェレランドしていく表現がたまら
なく良かった。
LPレコードを買うようになって、勿論ワルター盤を選んだのだが、その
アッチェレランドは跡形もなくないのには失望したものだ。
しかし、しばらくはワルターの演奏で聴いていた。
ある時、ケンペの第2番を入手して、終楽章の熱っぽさがすこぶる気に
入ったのが動機となって、ならば第4番も聴いてみようとケンペの4番を
買った。
そして期待に胸膨らませて聴いたのだが・・・・
がしかし、あまり気に入らなくて、多分その時の一回切りで そのレコード
は棚の上で眠ってしまった。
今日、ふとそれを聴いてみることにしたのだが・・・・・・・。
聴いてびっくり。 もうそれは針を落として あの第1主題が始まった瞬間
から自分の耳を疑うほど驚いた。
その旋律は実に含みのある柔和な表現で歌い継がれていった。
弦の旋律線は、木管の奏でる伴奏のヴェールに包まれて、これ以上弱け
れば旋律が消えてしまう限度ぎりぎりで、伴奏と一体となる絶妙さがすば
らしい。
アクセントやティンパニは極力抑えられて、あくまで柔和な線のふくよかな
流れを引き立たせているように感じられた。
しかし、それでもコーダではまるでSPのワルターを思い出させるような
アッチェレランドの気配を帯びた緊張感と迫力は圧巻。
第2楽章は、やはり第1楽章で感じた表現と同じで、殊にチェロが歌い出さ
れる主題・・・今スコアを引っ張り出して見ると、「何これ!?チェロがこんな
低域を!と驚くとなんとト字記号ではないか! ロ調に転じている下記の
旋律の優美なこと!
123432 1675・ 3215#43 2617
第3楽章 力強い主題が始まってしばらくした所で弱奏になり、驚くような、
一瞬 スッとテンポが落ちる。
これも今スコアで確かめると第2主題に入る直前である。驚くような効果を
発見した。
第4楽章 やや速めのテンポと思われる。
やがてフルートのソロ。これが感動的であった。スコアを見ると、Espress. と
ある。なるほど。そして<>が6箇所付いている。
これらを生かした見事な表現であった。
そしてこの先、TempoⅠ 4分の3に戻って4小節目、FFのアウフタクト
(ヴァイオリン)の切れの鋭さに、ハッと息を呑んだ。
様々な表情を見せるこの楽章も、早めのテンポと殊更に大仰な表現では
なくて進められ、最後は興奮のコーダで閉じられる。
この部分をレコードの解説には小石忠男氏が、これ以上はないと思える
賛辞でもって次のように記している。
「第32変奏以下はコーダである。これはブラームスの精緻な作曲技法の
頂点ともいうべき作品であり、同時に彼のゆたかな人間性と高貴な精神
性にあふれた、驚くべき傑作である。」
この大傑作、しかもケンペの演奏は極めて完成度が高いのではないかと
思える。
これをあの時、多分40歳半ば、今よりずっと感受性も豊かであった筈な
のに、なぜ聞き過ごしてしまったのであろうか。全く不可解なことである。
演奏:ルドルフ・ケンペ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団(LP盤)