- ブレンデル(アルフレッド), アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ, モーツァルト, マリナー(ネビル)
- モーツァルト:ピアノ協奏曲集2
モーツアルトのピアノ協奏曲としては、有名な短調の2曲を先ず
最初に知り、もう一曲「戴冠式」をよく耳にしたものだった。
昔ラジオ放送で聞いていたのはそれくらいで、あとは無いに等しいほど
であった。
だから、20番より以前にもすぐれた協奏曲があるなんて、レコードで
初めて分かったのであり、正直言って驚いたくらいだった。
そんな中の一曲、第9番 変ホ長調 「ジュノム」を聴く。
ジュノムとは、フランスからやって来た女流ピアニストの名前。
当時21歳であったモーツアルトは、この女性のために書いて生まれた
のが、この協奏曲であった。
冒頭、華やかな舞踏会、いや何かのイヴェントの開始を告げるかのよう
に颯爽とオーケストラが短く奏されると、ピアノがそれに短く応える。
古典の協奏曲としては、こんな風にいきなり独奏が出るなんて、型破り
なことである。
ジュノムはかなりの腕のピアニストだあったらしいので、モーツアルトは
彼女に敬意を払っての演出だったのかも知れない。
続くオーケストラの提示部は快適そのもので、機知に富んだ楽想も感じ
られて、幸福感が一杯ちりばめられたようである。
その提示部の終りに、ピアノがトレモロで主題への序奏のように奏でる
のも特徴的。 その後は型通りであるが、カデンツァは比較的短い。
さて第2楽章だが、冒頭のオーケストラは なんと悲哀に満ちて寂しい
響きであろうか。 ふと、有名なヴァイオリンとヴィオラのための協奏
交響曲の第2楽章を思った。 最初の感じが似ている。
解説には、普通なら変ロ長調のところを、モーツアルトはここでハ短調
を選んだ、とある。 あれっ、ヴァイオリントとヴィオラの協奏交響曲も
変ホ長調だったから、もしかして・・・・と思って、その盤の解説を見てみる
と、第2楽章はハ短調と書いてある!
ハ短調独特の印象。 大好きになってしまった「大ミサ」もハ短調だよ。
第3楽章は、再び明るくなる。 ピアノの独奏から始まり、第1楽章よりも
華やかである。
ところが、後半では なんと突如ゆっくりとしたカンタービレのメヌエットに
転じるのである。 この独創的なこと!
華やかであり、典雅であり、いかにもフランス、パリの香を身につけた
女性が 目の前に思い浮かぶようであります。
演奏:ブレンデル/マリナー&アカデミー室内管弦楽団 (LP盤)