この文章は、昨年末の全日本選手権で初めて髙橋大輔の演技を見た平凡な学生が、一瞬にしてフィギュアスケートの魅力に取り憑かれた一部始終を記録したものである。
にわかやライト層に厳しい(人達もいる)界隈だとは聞いているので書くか書くまいかはかなり迷ったのだが、記念すべき、素晴らしき日のことを記憶に留めるため、記録としても残しておこうと決意した次第である。
まあ「にわかが何か言うとりますわぁ」くらいの感じで読んで下さると幸いだ。
どうぞ宜しくお願い致します。
自分が生まれて初めてスケートの試合をテレビで見たのは、2018年12月22日の全日本選手権、男子ショートプログラム。
遅すぎん?
あんな良い時間帯にやってるのに?
普通1回くらいは観たことあるんじゃね?
この日本においてそんな今時の成人おる?
(野球は1回だけあるけどそういやサッカーもちゃんと観たことないや...)
そもそもスキー以外のスポーツがてんで駄目で、球技の授業でチームに入れられては「足手まといなんだけど」「邪魔」と罵られた20年ちょい。
スポーツとスポーツ出来るヤツを忌避して生きてきた運動音痴は当然スポーツ中継など見る訳もなく。
特にフィギュアスケートに関しては、そもそもあまり良い印象を持っていなかった。
「なんだかなあ」と思う機会がほかの競技に比べてあまりにも多かったからだ。
趣味が多い自分はいろいろな界隈の波をぷかぷかと漂流しているわけだが、その渦中で同志たちや応援している対象そのものが、所謂「スケオタ」さんに襲われ戦を繰り広げることが度々あったからだ。誰のオタとは言わんけど...
まあ話の通じない人はどの界隈にもいるもんだ。慣れている。
フィギュアスケートそのものに関しては点数の不透明さに関する話、加えて上記の通り粘着質で盲信的な一部のファンの印象がとにかく悪かった。
そのため、フィギュアスケートに対してそれまで自分が持っていたイメージは
「めっちゃ飛んで回転数を競う」、
「ファンがなんかやべぇ閉鎖的な村社会」
くらいのもの。
単純かつ、割と否定的である。
そんな人間がまさか、
2日後のFSを進んで視聴・録画し(運命的に休みだった)、
四大陸選手権のライストを視聴したり(眠かった)、
ルールや点数について勉強したり(闇どころか漆黒だった)、
雑誌・出演情報を集め始めたり
(公式サイト様、ファンの皆様のTwitterやブログにお世話になりまくっております)。
いやあ、まさかこんなことになろうとは。
(今改めて書いたらお前引くほどどっぷりハマってるんやんけ)
それくらいの衝撃が、フィギュアスケートに欠片も興味の無かったこんな若輩者を一瞬で虜にしてしまう何かが、髙橋大輔さんの演技にはあったのだ。
自分は2018年12月22日まで「髙橋大輔」の名前も知らないまま生きてきた。
言われたら「聞いたことあるかも?」と思う程度の認知度。
つまりは正直に言うと、存在自体を知らなかった。
これを言うと家族に「興味無いこと以外見えてなさすぎだろ」と言われ、「しゃあねぇべや趣味の範囲外だったんじゃ」と返しているのだが、その問いかけたちこそが彼の存在と偉業の大きさを知るひとつの材料にもなった。
バイトが休みだったこの日、かの有名なスケートアニメのファンである妹が
「男子のスケート一緒に見ようよ」
と誘ってくれたのがそもそもの始まりだった。
「まあ見たい番組も無いしいっか。日本の大会らしいし知ってる人いるかも」
という軽い気持ちでテレビ前に待機。
妹曰く、どうやら宇野さんという人が優勝候補らしい。連覇がかかっている、と。
そういやソシャゲ課金勢てなんかのリツイートで回ってきたっけ。あの名言は自分でも聞いたことがある。
放送は第4グループから。
「えっ、めっちゃ足痛そう...」
そんな心配は無用で宇野さんは初っ端から4回転。普段の演技を知らない自分でも感じる鬼気迫るオーラ、曲も初めて聴いたけどなんだか素敵。そして、最後のガッツポーズ。か、かっこいい。
こんな素人でも「なんか他の人と違うぞ」と解る存在感を見せつけられた。なるほど、これがトップ層の人の迫力なのか。
初心者にとって、例えば選手紹介の字幕や、実況の情報は大事な情報源だ。
もちろん印象操作や余計なフィルターがかかる可能性を差し引いても。
「この人は世界の大会に出て5位だったのか」など単純に勉強になる。
実績の他には年齢、所属、ご家族がスケーターであるなどのプチ情報など。
スケート選手は平均年齢が低く、自分より年下が多いことに驚きながら興味深く見ていく。
所詮自分がオタク気質である限り一旦見始めるといろいろな情報を知りたくなるのだ。
「田中刑事はオリンピックに出たんだよ!」
「なるほど(東海オンエアファンの人だっけか)」
テレビが伝えてくる情報に加え、妹に選手情報を提供されながら、他の界隈の知識を総動員。
軽い気持ちで鑑賞していたら、どうやら昔引退した選手が復帰するとの話題が。
「レジェンド?なんか凄そう」
どうやらすごい人らしい。引退して、今年復帰したらしい。注目されているようだ。
初めてちゃんと見た髙橋さんは、
お顔から何まで全体的に華のある人だなあ、
ということだけは早々に分かった。
青い素敵な(これは好みだが)衣装に負けていない。
あとアップでわかった。
まつ毛が長ぇ。う、羨ましい。
「歓声やべぇや」と人気の凄さに驚きながら髙橋さんの演技が始まる。
西岡アナの「ひとつ大きく息を吐きながら、」で初心者ながら「緊張してんのかな?」と会場のただならぬ雰囲気を感じ取る。
そこからはあっという間だった。
そこまでは「ジャンプめっちゃ飛ぶやん」「いい曲だなあ」とか軽い気持ちで菓子を摘みながら見ていたのに、
なんか、急に目が離せなくなった。
ブレード、つま先から、指先、頭のてっぺんまで。
で、なんか、気付いたら、演技が終わっていた。
いや、嘘だと思うだろ、本当に。
呆然としている合間にも演技者への贈り物がリンクを埋め尽くす。
笑顔、歓声、歓声。
あとなんか、気付いたら、泣いてた。
たぶん、美しすぎて。
スポーツで泣くことって、人間ドラマとかそこに至るまでのストーリーを見せたり、知っているから泣けるもんじゃねぇの。
じゃあ、これスポーツじゃないのか。いや、スポーツであって、スポーツじゃないのか。
その時は混乱しかなかったけど現に泣いてるからしゃあない。
髙橋さんがどんな人かもこの時点では知らないし、彼にどんなストーリーがあったのかも全く知らない状態で、ただただ、演技を観て、泣いた。それだけ。
キス&クライ(そう呼ぶと妹が教えてくれた。オシャンティすぎん?)がワイプで移り西岡アナと本田武史さんがやりとりする中でだいぶ状況は整理出来た。
ひとつめにまず思ったのは、「格が違う」。
妹も世代的に髙橋さんの演技を見るのは初めてだったようで「表現力がえげつない」と呟く。
自分には『表現力』がどんなものかは分からないけど、落ち着いて考えると全身の動きがやっぱり「えげつない」のだ。
なんでこんなに全部「美しい」のか。
いやほんと理屈じゃ説明出来ない領域のものだ。
そこに確かに裏付けされた技術と経験、努力があるとしても、だ。
ふたつめに気づいて愕然としたのは、その演技の、音楽性。「音楽との一体感」とよく説明されるもので合っていると思う。けど、たぶんもっと上手い言い方があるはず。
そう思わせるような、何か。
音楽が流れて、音楽に合わせて演技をする、技をこなしていく。そんな常識を覆された。
あんなに良い意味で音楽の印象が残らないことがあるのか。
いや、違う。素晴らしい音楽、素晴らしい演技、どちらもが合わさってひとつのモノ、作品になっているんだ。
もう髙橋大輔が音楽じゃん。
で、ということは、音楽が髙橋大輔で、
この考えに至った時、鳥肌が経った。
ゾッとした。恐ろしすぎる。
もうこんなことを頭に巡らせている時点で、自分は髙橋大輔のスケートから逃れられなくなっていたのだと思う。
彼の演技後、丁度帰ってきた母親がリビングに来て、「どうだった?」と聞かれた。
「なんかめっちゃ凄かった」と答えて目を擦って鼻をかむと、「そっか」と母親は笑い、その後の気さく過ぎるインタビューでは涙を流しながら爆笑していた。
一緒にスケートの話などした事も無かった自分は知らなかったが、彼女はその昔フィギュアスケートの黄金期を生き抜いたとある世界女王のファンだったと後で聞いた。
「実はね、」と宝物をこっそり見せてくれるように教えてくれた。
時代は過ぎ去っていくが素晴らしい演技の記憶は薄れないということだろうか。
その気さく過ぎるインタビューでは、髙橋さんの人柄を窺い知ることが出来た。
飾らなくていい人そうだな、という印象を受けた。
笑顔がチャーミングだ。
ついさっき演技で人の心を奪っておいてここでも尚、『人間としての』魅力を存分に振りまく素敵な笑顔に、
「あ、もう、これはお手上げだわ。この人素敵だわ」
と白旗を挙げざるを得なくなった。
完全なる陥落。
興奮冷めやらぬ自分に母が妙に生暖かい眼差しを送りながら、
「一応分かりやすく言うと、オリンピックでメダルを取った人だから」
「世界一にもなってるし」と情報を与えてくれる。
「マジか!そりゃすげぇわ」
とは夏季冬季含めオリンピックなど1回も観たことない輩の言い草である。多分番組のどっかでその情報くらいは出ていても良さそうだが、字幕などをもしかしたら見落としていたのかもしれない。
マジで知らんかった。
オリンピック自体に関しては、なんか政治色強そうじゃん?なんかそういうの苦手で...と言い訳。
実際、友人でスポーツ番組やオリンピックを見るような人が一人もいなかったので話題にも登らないのだ。そう、類は友を呼ぶのである。
しかも自分はむしろ好きな番組が放送しなかったりで友人らと文句を言ってた方の立場だった。
逆に『オリンピックのメダルは凄い』程度の常識が自分にあってよかったとすら思う無知っぷり。いやはや、「知らない」とは本当に恐ろしい。
中継は続いていく。左上の表を「Levelとはなんぞや」「3回と4回でそんなに点数違うんか」「アクセル以外のカタカナ分からん」と純粋な気持ちで質問を投げかけ妹にご教授願いながら、ふむふむと演技を見ていく。
他の界隈の不信感から某放送局に良い印象を持っておらず、アイスコープとやらも最初は戸惑ったものの「ああ、ジャンプにも高さとか距離とかがあってそれによって点数も変わってくるんだな」と理解。
まあこのシステム自体今回から導入されたということを後で知るのだが。
途中でおおっと思った演技は妹イチオシの映画の曲で滑っていた18歳、山隈太一郎さん。
「めっちゃ爽やか...これが...高校生...」
こんな素人でも解る素敵プロ。
翌々日のFSもそうなのだが、個人的に爽快感が唯一無二だと感じた。
妹達と同い年だと気付きちょっと動揺。
放送を見ていて気づいたのは、選手情報に髙橋大輔の名がよく出てくること。
『憧れ』かあ、やっぱ凄い人なんだなあ。
とその存在の大きさを知ると共に、同じ舞台で滑れて良い刺激になるんだろうなあ、それってすごく素敵なことだな、と思った。
日本のフィギュアスケート界の発展にとってもそれはささやかだけれども重要な事だと思う。
見て学んで感じて、大切なものが受け継がれて行けば良い。
そんなことを思いながら夢うつつで番組を見終わった自分は、母・妹に呆れられながらも早速翌日の女子FS、翌々日の男子FSを録画予約するのであった。
さて、話が長くなってしまったが、ここまで読んでくれた人がもし仮にいるのであれば、お礼を言いたい。
こんな一介の新米ファンの文章を読んでくれて、本当にありがとうございました。
こんなにたくさんの人に愛されている選手の復帰後の大一番、5年ぶりの全日本選手権の舞台を偶然にもリアルタイムで見ることができて、自分は本当に幸運だったと思う。
髙橋選手の演技に衝撃を受け、いろんな場所に残されている素晴らしい演技を片っ端から見て、感動して、もしかしたら一生認知することのなかったであろう愛すべきたくさんのスケーターたちのことも知ることができた。
それ故にこの2か月間は毎日たくさんの新しい出会いがあった。
全てが巡り合わせだろう。
あの時感じたこと、いかに自分が衝撃を受けたか、書きたいことは大体書けたと思う。
拙いながらも、なんとか書き終えられて良かった。
考えることがあまりにも多すぎて、2ヶ月も後になってしまったけれども。
髙橋大輔に出逢えて、良かった。
長文失礼致しました。それでは。
