転職千夜一夜物語 68

 

「起きて下さい!

同室の部員が声をかける。


独り暮らしが続いているので、人の声で起こされることは久しぶりだ。

そんな感慨に耽る間も無く、目を開けて少し頭を動かした途端に脳味噌が頭蓋骨の中で、存在感を思いっきりアピールするかの様に頭痛が走る。


『これ、全くダメなパターンの二日酔いじゃん』


朧げに昨夜を思い出すと、リバースはしてなかった様だった。


「朝食は下の食堂だそうです」


「あ、俺は食べません、と言うか、食べられません。もう少し横になっていていいですか?」


「そりゃ、そうですよね、アレだけ飲んだり食ったりすれば」


また僅かな眠りについた。


「起きて下さい、マラソンですよ」


(マジかよ、起きるのも億劫なのに)


「は、はい、」


重い頭、重い身体、重い気持ちをなんとか起こすとお約束の気持ち悪さ。



なんとか着替え、外に出ると、既にみんな駐車場に揃っている。


「じゃ、これから一周マラソンだ!気合い入れて行けよ」


「はーい」


みんなは何処からこの元気が出るのか?


スタートの掛け声と共に各自、走り出す。



湖の一周マラソンに近道は存在しない、モーターボートを使うか?いや無理。

スタート地点の物陰に隠れていて、みんながゴールしたのを見計らってゴールする?

これは私の良心が許さない。


私は、、歩き出した。



どれだけの時間が流れたのか、やっとの思いでゴールしたのだが、風光明媚な湖畔の風景は私の吐瀉物で見事に汚されていた。


帰りの車中、

『このブラスバンドに入るのは止めよう、仮に大学に受かってもだ、もっと楽しい別のサークルがいいや』とみんなが来週の合奏の予定を話しているのを寝たふりをして流していた。