各地に大きな被害をもたらした熊本地震。
4月14日の前震はなんとか耐えきった我が家も、16日の本震時には倒壊とまではいかずとも本棚食器棚は倒れ、散乱した中身が床を台所を埋め尽くし、屋内での寝食は不可能な状態に。幸い駐車場は広けて安全だったため、前・本震時には妻子とともに車中泊とあいなった。
「車でねるのたのしいいい!」
そんな逞しい長男(5)も本震後の朝には「あきた!」とのたまい、職場も都合よく震災休業となったことで
同じく熊本市内に居を構える兄一家と共に、安全な田舎の実家へ避難することになった。
仕事場はもとより、学校・幼稚園の再開の目途が立たないこの状況。不安を抱える大人たちをよそに、子供たちは無邪気に再会を喜び、田舎の広い家の中を「ヒーローごっこ」で跳ね回る。
甥(7)
「おれ仮面ライダーウィザード。ショウタイムだ!」
長男(5)
「じゃあぼくはゴーズト! いのちもやすぜ!」
姪(3)
「あたし、カニかいじん! かにかにー」
次男(1)
「まんま」
「中佐おじちゃんは、街の人ね」
うわー、ライダー助けてー。配役おかしくね!?
必殺技の巻き添えを食らうわ、興奮した一歳児が足元をうろちょろして危ないわ、居間の写真立てはひっくり返すわで、震災のことを考える暇がない。全くこういう時の子供というのは…
実にありがたいものだ
…?
ふと、長男の様子がおかしいことに気付いた。ついさっきまで必殺技を叫んでいた口を閉ざし、甥の呼びかけにも答えず、何やら考え込んでいる。
いきなりどうしたというのだろうか。とりあえず長男一人を居間から別の部屋に連れ出す。
具合でも悪いのか? 必殺技が痛いとこに当たったのか?
首を振る彼の手に、ひとつの写真立てが握られているのが目についた。おお、懐かしい写真だな。
「おとうさん」
そういう息子の目は不安と非難に満ちている。
「だれとけっこんしたの?」
……質問の意味がわかりませんが?
写真は間違いなく私と妻の結婚式のものだが。
……ああ、そういうことか! 腑に落ちた!
この女の人に眼鏡をかけて、髪をおろしたら……さあ誰だ?
「…わかいおかあさんだ!」
私が何か言う前に、長男は腰に腕を回ししがみついてきた。私の腹に顔を埋め、小刻みに震えながら。
「ぐへへへへへ」
気色悪っ!
「だましたな!だまされた!」
とんだ濡れ衣だが、そういえば今まで結婚時の写真を長男に見せたことがなかった。結婚式の女性の晴れ姿は、五歳児には別人に見えてもおかしくはない。
お父さんが別の人と結婚したと思ったのか?
顔を見せないまま頷く息子の頭に、そっと手を置いた。
口には出さないが、彼も今回の地震で不安を抱えていたのかもしれない。そんな時、いつの間にお父さんが結婚⇒別の人がお母さんに⇒お母さんがいなくなる!? と早合点したのだろう。その思い込みの激しさは誰に似たんだ。私かそうか。
「おかあさんとけっこんしといてね」
お母さんがお父さんを嫌いにならない限りは大丈夫です。
「おとうさんは、おかあさん好き?」
勿論。心配しなくても他の人と結婚したりはしません。
そう言うとようやく安心したのだろうか、顔を上げた息子の目にはいつもの光が戻っていた。しかし、その視線はなぜか私の後ろに向けられている。
…で、妻よ、いつからそこに?
妻
「ぐへへへへへ」
息子よ。
「なに?」
お父さん、死にたくなった。
「いきろ! いのちもやすぜ!」
写真の背景には、熊本城が映っている。
今回の地震で天下の名城も大きな被害を受け、しばらくは同じアングルで撮ることはかなうまい。
城が再建される頃には息子たちも大人になっているに違いない。あるいは結婚し、孫も生まれているかもしれない。
そうだな。
少なくともその時までは
命燃やして生きるとしよう。










