「守るべきものは守る」――。TPP交渉に臨む際に、国民の懸念を念頭に置いた安倍首相の口癖だ。

 ところが、肝心の「守るべきもの」の具体的内容は一向に見えてこない。

 政府は、国民に言質をとられない細心の注意を払いながら、TPP交渉の守秘義務を盾に、無内容な「交渉」ポーズをとり続けているだけのことではないだろうか。

 実際、コメや牛肉などの5項目も交渉のテーブルに乗せるべきと発言したのは自民党のTPP担当者だ。

 国民生活に重大な影響のある医療分野をはじめとする非関税障壁の交渉過程も、国民に何も知らされていない。

 基本的な国のありように関わる大問題ばかりであるにもかかわらず、だ。

 ことほどさように、一旦「秘密」が大手を振って歩き出すと、ろくなことがない。

 ひるがえって、秘密保護法案が予定する「秘密」とは何か?

 法案では、秘密を指定する主体が「行政の長」とされている。一体、恣意的な運用がされない保障はあるのだろうか。

 国民の目・耳・口をふさぎながら、日中戦争と対米戦争を遂行する上で重要な役割を果たした戦前の国防保安法の経験に学ぶ時だ。

 同法による1941年の邦人検挙総人員は854人にのぼる。

 「要塞地帯法違反」が221件、「軍機保護法違反」が149件だったが、何も知らずに撮影禁止区域で写真を撮ったという事例が大半を占める。

 また、「陸軍刑法違反」149件の実態は、戦艦の造船所で働く行員同士が、鉄板の厚さや煙突の本数について雑談の中で話したというものが多いとされている。

 つまり、国民の中の反戦のたたかいの芽を摘み、萎縮させながら戦争に駆り立てたのが、国防保安法の中心的な役割だったということだ。

 憲法9条の明文改定と、集団的自衛権行使を政府見解で認める解釈改憲を、公然と主張する安倍政権が、なぜいま、秘密保護法なのか。こうした歴史からも、その狙いが透けて見えてくる。