三国の出演作品で特別に印象に残っているのが、「飢餓海峡」。


16㎜フィルムで撮影した荒い粒子の映像で、洞爺丸沈没事件などの戦後直後の混乱に乗じてのし上がっていくという犯罪を、その時代背景とともに描ききった演出も心に残る。


左幸子が、お客だった三国が残していった「大きな爪」を大事にしまっているというのが、事件を解決に導くきっかけになる。映画では、そんなに大男のイメージが出ていなかったと記憶している。


そんなこともあって、ミスキャストじゃないの?と思っていた。


でも、殺人犯という過去を持つ成功者という役は、三国によってこそ成り立つものだったのかもしれない、というより、2度目の観賞の後では、これ以外のキャスティングは想像できなくなっていた。


オート三輪で死体を運ぶシーンには、子ども心にドキドキした。そして、「オート三輪、向かいの大工さんも使ってるよな~」と、そんなことばかり考えながら見ていた気がする。


そして、印象に残るバイプレイヤーが刑事の伴淳三郎。その後の刑事役のロールモデルになったのではないかともいえる印象的な演技だった。


伴淳三郎に敵愾心を抱いていたとされる渥美清が、偶然にも同じような刑事役をTVドラマで演じていたと記憶しているが……。


忘れてならないのは、三国が「純粋に『生きたい』」との信念を貫き、戦地で「実弾を一発も撃たなかった」「銃をかつぐことのない人生を送ってほしい」と、平和への熱い思いを抱き、それを発信してきたことだ。
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