最近YouTubeのおすすめに、エル・アル航空でのイスラエル入国に挑戦する動画が続けて上がってきた。なぜ「挑戦」かというと、セキュリティチェックが異様に厳しいからだ。
エル・アルはイスラエルの国営航空会社。去年3月、テルアビブと成田を結ぶ初の定期直行便が就航した(一時期、ハマスとの軍事衝突を受けて運休)。
1994年、第三国からではあるがわたしもエル・アル航空でイスラエルに行った。そのときのことをふり返ってみよう。写真ありません。文章ばかりです。。。
急なイスラエル行き
1994年3月、わたしは23歳のバックパッカーで、ひとりイスタンブールにいた。日本を出て2ヵ月、エジプトとトルコを周遊し、次にどうするか決めかねていた。そんなとき、宿で会った旅行者がイスラエルに行くというので、ついてくことにした。キリスト教の聖地巡りをしたいと、かねがね思っていたのだ。
その人とはその日会ったばかり。同宿の人たち数人で夜遅く飲んでる中で出た話で、すぐに荷造りして、数時間後にはイスタンブールの空港にいた。当日のテルアビブ行き航空券を無事購入。その際、ほかの航空会社では聞かれないような質問をいろいろされたのを覚えている。ただ、それほど長くはなかったはず。
フライト中も、入国時も、特になにごともなかった。というか憶えてない。
この時期は、前年のオスロ合意に基づいてパレスチナの暫定自治が始まる直前。分離壁もまだない、という時代だ。
移動はバス。パレスチナへも
移動はすべてバスだった。当時も鉄道はあったはずだが、調べるのは完全に人任せだったので、よくわかってない。
パレスチナ側のベツレヘムにも、バスで行った。検問の記憶がないので、なかったか、あったとしても簡単なものだったのだろう。分離壁こそなかったが、パレスチナ側に入るとはっきりと様子が変わった。あきらかに他の地域より貧しかった。
バスといえば、ある日、前の席の乗客が読んでいる雑誌(AERAみたいなのに見えた)に、でかでかと麻原彰晃の顔が載っていた。なぜここに麻原??? 記事はヘブライ語で一言も読めない。のちに、日本で地下鉄サリン事件が起きていたことを知った。
やられた、安息日
イスラエルでは、ユダヤ教の教えにもとづき、毎週金曜の日没から土曜の日没まで、安息日として公共交通機関がすべて止まってしまう。
それは知っていた。だから金曜に出かけたとき、帰りの最終バスの時刻をきちんと確認し、観光も早めに切り上げて余裕をもってバス停に戻った。
はずだった。
しかし最終バスはすでに去っていた。
なぜだ?!
つい数日前にサマータイムが始まり、時間が1時間早まっていることを忘れていたのだ。
ティベリア滞在中に、ティベリア湖、別名ガリラヤ湖として知られる湖沿いの、聖書ゆかりの地を訪れたときの話だ。タクシーに乗る財力はなく、半日観光して疲れた足で3時間くらいかけて歩いて帰った。
道中、何台もの車が我々のそばで速度を落とし、声をかけてきた。乗せてくれるのかな? ラッキー! と近寄ろうとすると、「ばーか」って顔で走り去っていく。あいつら、許さん。
皆さんも安息日とサマータイムにはご注意を。
空港で爆弾騒ぎ?
イスタンブールに戻る日がやってきた。またエル・アル航空。当時も出国審査の厳しさは知られており、かなり早く空港に行った。
着いてしばらく、見送りに来てくれた日本人旅行者と2人で混雑した待合ロビーにいた。警備の人だか軍人だかが頻繁に巡回し、隅々に目を光らせている。
突然、みんなが「わあ―っ」と叫びながら出口に向かって走り始めた。爆発物が見つかったらしい?! とりあえず一緒に逃げる。するとまた突然、「違った違った」って感じで何事もなかったようにみんなロビーに戻った。よくあることらしい。
30年前のセキュリティチェック
厳しかった。荷物は全部開けられ、山ほどの質問をしつこくされた。誰と一緒か、どこへ行ったか、何をしたか、などなど。英語が超絶話せなかったので、係員はかなりイライラしてたと思う。
やっとチェックが終わって出国の列に並んだとき、見送りの人が最後の挨拶に来てくれた。すると、さっきの係の人が飛んできて、「あんたさっき一人だって言ったじゃない! 嘘ついたね!」とものすごい剣幕で怒り出した。
「うそジャナイヨ~。ヒトリダヨ~。コノひとタダノみおくり~」って、カタコト英語で必死に弁解して許してもらった。
厳しさのわけ
イスラエルは国の中も周りも敵だらけ、ほとんど常に戦争中みたいなものだから、セキュリティが厳しいのは納得がいく。
それに加え、日本人に関しては、1972年に日本赤軍がテルアビブの空港で起こした銃乱射事件も影響あると聞いたことがある。26人が殺害され、80人が重軽傷を負った事件だ。
イスラエルでの実際の影響は、わからなかった。だが翌年に中東を旅行した時は、はっきりわかった。
シリアからヨルダンに陸路で移動するとき、どのバスからも乗車を拒否されたのだ。事件のせいで、日本人は国境でのセキュリティチェックに時間がかかる。迷惑だから乗せたくないんだと(国境越え以外でこのようなことはなかった)。それで仕方なくタクシーを使った。
長くなったのでこれくらいにしよう。
イスラエルは、情勢を思うと、非常に複雑な気持ちが湧いてくる国だ。
しかし、ほかにはない、独特の、特別な美しさを感じた国でもある。