すごくおもしろかった。
ついつい企画展ばかり行って、そこで力尽きて常設展は見ずに済ませてしまうことが多いのですが、なんてもったいない。いますぐ常設展をめぐりたくなった。

 

 

 

奥野武範著の『常設展へ行こう!』は、「全国12の美術館・博物館に常設展についてインタビューした「ほぼ日」人気連載が、パワーアップして一冊の本になりました。」という本。

常設展はどうも、よほどコンセプチュアルな美術館でないと、企画展ほど意図やおもしろさがわかりやすくない印象をもっていました。
有名な国立西洋美術館の常設展も、原田マハの『美しき愚かものたちのタブロー』を読んでようやく面白みを感じたレベル。アートに詳しくない一般人って、こんなものじゃないでしょうか。彫刻とか抽象画とかになると、なおさらです。

この本で取り上げているのは、東京国立博物館や西洋美術館といった大御所中の大御所から、地方の公立美術館、それからアーティゾンや大原美術館のような私設の美術館まで12館。開設の経緯や収蔵のポリシーもそれぞれ。

学芸員という、いわゆるオタクの種族が嬉々として館と収蔵品の自慢話を延々とするのですが、我が子を愛でるような語り口には、こちらの顔もほころびます。嬉しそうです、本当に。

どこにも存在しない美術館で絵を見る架空のわたし(あ、絵を見てないな) by ChatGPT

 


各館のHPにもたいてい経緯やポリシーの説明文はありますが、そういう公な言葉より、パーソナルな言葉はずっとわかりやすい。心に届くものがある。彼らの言葉のおかげで、美術館の意義を知り、アートの新しい見方を知り、発見をし、理解を深めたことがたくさんありました。


そのいくつかを備忘録に。

”(シュルレアリスムは)「理性や慣習、決まりごとなどから、画家や芸術家……大きくは人間を解放し、無意識や夢、偶然性などを絵画に導入していくという試み”
横浜美術館、大澤紗蓉子

”(抽象画を観るコツについて)「まずは、知識ではなく感覚から入って、時間をかけて見ていけば、正しいとか間違いという軸ではなく、ご自身なりに行きつく場所がきっとあると思います”
”そうやって、「理解する」ことも美術の楽しみのひとつですけれど、必ずしも「わかる、わからない」という接点の持ち方じゃない方法で何かを感じてもらえたらと思います”
アーティゾン美術館 島本英明

”これは芸術なんでしょうか、それとも芸術じゃないんでしょうか……という問いに対しては、「その前に、あなたはどういうものを芸術だと思ってるんですか」と聞き返さなければならいでしょう”
東京国立近代美術館、成相肇

”芸術家と言われる人たちは、いつの時代も、つねに「作品とは何か?」と考え、格闘しているわけです。その時代の「答え」があり、それぞれの作家の「答え」がある”
DIC川村記念美術館、前田希世子

”美術を見るということは、美術作品だけで成立するのではなくて、自分は何を考え、どう感じるのか、何が気になったのかを知る……ということに深く関わっていて、それは自分を見つめることでもあると思うんです”
富山県美術館、麻生恵子


ネットでも読めます(本の方が「バージョンアップ」されてるということですね)。