滋賀でアールブリュット体験をハシゴ。
ボーダレス・アートミュージアムNO-MAの次に訪れたのは、滋賀県立美術館。
企画展、「つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人 ―たとえば、「も」を何百回と書く。」を鑑賞。
説明によると、「日本のアール・ブリュット界のレジェンドともいえるつくり手の作品を一堂に展観」とのことで、レジェンド45人の約450点が展示されている。
足を踏み入れると、動きもせぬ作品群から、ものすごいエネルギーがずーんと迫ってきた。
自分のための記録に何枚と撮らせていただきましたが、写真からこの迫力が伝わるだろうか。ぜひ実物を見てほしい。
松本寛庸さんの作品。とにかく緻密。色の塗り方も非常に丁寧
NO-MAの方の感想と同じになってはしまうのだが、やはり強すぎるほど強い衝動と意思のパワーに、まずは圧倒される。ダイナミックな描き方のもあれば、細密画みたいのまでいろいろだが、どんなに細かくてもどこか勢いがある。これでなくてはならない、という決然としたもの。
それぞれに作者と作品のエピソードが紹介されていて、それも実に興味深かった。
上の写真は、志村けんさんの肖像だそうだ。
作者の平野信治さんは一時期、志村けんさんを熱心に描いた。ある時、支援者の尽力で、志村さんご本人にそれを手渡す機会を得た。そしてその翌日から、絵を描かなくなった、という。
別の方は、作品が注目されたとたんに「描きませんよ」と宣言し、いっさい制作しなくなった、という話もあった。
最初は人に見せたがらなかった、という人もいる。よくそういう話を聞く。
わたしはどうしても、人からのいっさいの評価や承認を求める気持ちのなさ、というものに、強く惹かれてなりません。自分だったら、他者を意識し、評価や承認を求めずにいられないから。そのせいで、表現することもおそれるからだ。
もちろん、なかには人からの評価や、人が自分の作品に喜んでくれることを喜ぶ人も当然いて、だからってそれで価値が下がって見えることはまったくないのだが。
上の写真の作者は伊藤峰雄さん。細かく描かれた文字は、よく見ると、全部、「伊藤峰雄」、ご自分の名前。なんでそれで、こんなにかっこよくなるのか。
最近の様子の動画がありました。いまでこそ作風がじゃっかん変わったが、相変わらずモチーフは自分の名前。白紙を渡されると、何の迷いもなくささっと描き、決然とした態度で「完成品」を職員に見せる。その迷いのなさ。幸福そうな表情。
なかには前々から知っていた作品も結構あり、「これが本物か!」と、本で見ていたときよりさらに強い衝撃を受けた。帰宅して確認したら、その本の企画・編集はボーダレス・アートミュージアムNO-MAだった(『アウトサイダー・アートの作家たち』角川学芸出版)。
本の中では、展示会での説明文よりもさらに詳しく作者と作品が紹介されている。
たとえば、上の写真。高橋和彦さんの作品の一部で、びっしりと描かれているのは人の顔だ。全員が同じ人物と言われればそうも見えるような。
本によると高橋さんは、知的障害者通所施設に通っていて、50代後半で突然絵を描き始めた。記憶のなかの光景か、なんなのか、ほとんど言葉を発しないのでわからない。ただ、小さく背中を丸めながら、幸せそうに微笑みながらゆっくりと描いているそうだ。
「自分を生きなくてどうするんだ」という気持ちにさせられた。
ところで滋賀県立美術館は、サイトによると「アール・ブリュットを収集方針に掲げる国内唯一の公立美術館」であり、「世界でも有数のアール・ブリュット作品のコレクション(731件)を有する美術館」だそうです。