「こさかなー!」


げっ、また金村さんだ。


私の事を"こさかな"なんて呼ぶのは金村さんくらい。


だから私はわざわざ後ろを振り返り 誰なのか、なんて確認する必要が無い。


そして逃げるように声の聞こえる方とは反対の方に私は歩みを進める。

まあ実際、金村さんからは逃げているんだけど。



私は金村さんが苦手だ。


私の何が気に入ったのか、暇さえあれば私のところへやって来る。


私は多くの人に注目されるのが苦手だ。

それなのに金村さんがこうやって私のことを呼ぶ度、周りのみんなに注目されている気がして本当に嫌なんだ。


「えぃっ!こさかな捕まえた!」


「...!」


余計な事を考えていたからなのか

いつもは振り切れるのに今日は不運にも金村さんに腕を掴まれてしまった。

そんな私の気持ちは伝わらず、金村さんは遠慮なく私に話しかける。


「毎回逃げないでよ!こさかなと話したいのに...!」


「私は特に話したくない...」


「なんで?」


「なんでって...」



話したくはないんだけど、"なんで"なんて聞かれたら困る。


なぜなら、話しかけられるのが嫌という訳ではなく
名前を大きな声で呼ばれて注目されるのが嫌なわけだから。

でもそれを言ったところで
金村さんが話しかけてくるのをやめる訳ではきっとない。


金村さんの小さな疑問は、私にとって答えるのが難しいものだった。



「いい理由見つからないなら、私と話そ!」


「・・・!?ちょっと、金村さん...!」


金村さんは私の手を握ってどこかへ走り出す。


「走ったら危ないよ!」


「こさかなは真面目だね!」


そんな私の警告は聞き入れてもらえなくて、金村さんの足は止まらない。


階段を何段もこえて、屋上へと辿り着いた。



「なんで屋上?」


「ここなら二人きりだよ!」


「えっ?」


「たくさん人が居る廊下が嫌だったんじゃないの?」


そんな金村さんの言葉にくすくすと笑い声が漏れた。


何だかもうどうでも良くなった。


金村さんが私と話したくて必死なのがビンビン伝わってきて、その為に私の事を理解しようとしていたのが分かったから。


「金村さんは変わってるね。」


「そうかな!」


私から話しかけたのがよっぽど嬉しかったのか、弾むような声で金村さんは答えた。


「私の負けだよ、今まで逃げてごめん...」



「謝る必要なんてないし、勝ち負けなんてやってないよ!こさかなは馬鹿だな〜!」


笑いながら金村さんは私の頬を人差し指で2回つついた。


「けどこれからは、あんまり大きな声で呼ばないでよ?美玖の声大きくて、皆こっち見るから...」


「今、名前で呼んだ...!?」


「よ、呼んでない...」


「やっぱりこさかなってツンデレなの?」


「うるさい...やっぱりもう話しかけてこないで!」


「えっ!待ってよ!」




早歩きで屋上を出ると、金村さんは私のあとを追いかけてくる。

これからはもっと騒がしい学校生活になりそう...











〜おまけ〜


「まってよ、菜緒ちゃん!」


「ちょっと、突然名前で呼ばないで...!」


「もしかして照れてる?あっ、顔赤い。菜緒ちゃん可愛いね!」


「もう、本当にうるさい...」




END



次はもっとイチャイチャ小説書きたい...



クリーム