またまた早川書房。

そしてまたまた600ページ越えの本。




この物語は母親をドイツの狙撃兵に殺されたことをきっかけに、独ソ戦で女性狙撃兵となる少女セラフィマの物語である。

テーマが戦争であり、本の分厚さ以上に重みのある本であった。今回のネタバレは物語の根幹に関わる話をしており、読後に読むことを強く勧める。



以下ネタバレ



この本、話の構成が抜群に上手い。


1942年、モスクワ近郊の村で暮らしていたセラフィマは、害獣を狩猟することもあった。だがあくまでも、必要に迫られた時のみだった。子連れの母鹿を撃つのを躊躇い、万が一致命傷を与えられなかった場合慈悲の一撃を与えできるだけ苦しませないようにする。


そんな心根の優しいセラフィマは、狙撃兵となり変わっていく。


あえて致命傷を避けて狙撃し、助けに来た兵士を撃ち「スコア」を稼ぐ。まるでゲームのように。


ドイツ語を勉強し、ソ連とドイツを結ぶ架け橋になりたいと言っていた少女の面影はそこにはない。


この対比の鮮やかさは、息苦しさを一層強くさせる。



どんどん狙撃兵として研ぎ澄まされていくセラフィマ。


そんなセラフィマに本当の目的を思い出させてくれたのは、かけがえのない仲間だった。


狙撃兵として訓練を始めた際に投げかけられた問い。


「何のために戦うか。」


仲間のヤーナは

「子どもたちを犠牲にしないため。」と答え、敵兵の子どもでも危険を顧みず助けた。


ではセラフィマは?

セラフィマが狙撃兵になった目的は

「女性を守るため。」


セラフィマの本当の敵はナチではない。



物語の終盤。

ドイツ兵が降伏し、ロシアの兵士はお祭り騒ぎ。

そして聞こえるドイツ女性達の悲鳴。


スコープを覗いた先にあるのは、誰よりも優しかった幼馴染のミハイルが女性達に乱暴をする姿。


同志少女よ、敵を撃て


この瞬間、私の全身の毛が逆立ち一瞬の静寂が襲う。セラフィマと私の呼吸が揃う。


引き金を絞り、次々銃弾を放つ。

こめかみを撃ち抜かれたミハイルとスコープ越しに目が合った。



あまりにも綺麗なタイトル回収。

本としての完成度の高さに暫く呆然としてしまった。



今までも戦争文学は何冊か読んできたが、兵士目線での戦争の話は初めてであった。


なぜ逢坂冬馬はここまで肉迫した独ソ戦争を書こうと思ったのか、また書くことができたのだろうか。


あまりにも苦しい内容の本であったが、全人類に読んで欲しいと思うし、いつかこの本が必要なくなるくらい世界が平和になれば良いとも思う。


まだ今年は始まったばかりだが今年1番の本にもう出会ってしまったかもしれない。


他にも従軍した女性たちの感情に焦点をあてた「戦争は女の顔をしていない」がある。メンタルが回復したら読んでみたいが、だいぶ先になりそうだ。