No.041 2024.4.1(月)

脳科学捜査官真田夏希20 ノスタルジック・サンフラワー/鳴神響一/角川文庫/2024.2.25 第1刷 740+10%

 シリーズ第20弾は本籍地(警察で言うところの本来の所属部課)の神奈川県警科学捜査官として戻ってきた夏希。前回警察庁サイバー特捜隊から神奈川県警刑事部長に異動になった織田と再びコンビが復活し、着任の挨拶もそこそこに呼び出されたのは、ホテルの立て篭もり事件だった。

 人質の中に母の姿を見つけた夏希は自ら母との人質交換を犯人に申し出る。

 無事に犯人を説得してSISに引き渡した瞬間、夏希たち警官の大勢いる中で犯人が狙撃され射殺される事件が起こる。さらに、立て篭もり犯が刺したホテルの従業員が入院先の病院から抜け出し、他殺死体で発見される!

 

 従姉妹の交通事故死、恩師の事故死。そして2人に共通していたのは、ヨットで函館から海に出た時に何かを目撃したのか……。上杉と紗理奈を伴い故郷函館に飛んだ夏希の目の前に〈20年前の従姉妹と恩師の事件の真相〉が待っていた。

 

 物語自体の新鮮さはない。事件そのものも信憑性がなくどうにもこうにも〈御都合主義〉の印象が残り、次々に目の前に供物のように事件の解決方法が現れ、そのルートに乗って行くだけ。逆転の要素もなく、あいも変わらぬワンアイディアで最後まで引っ張る。これでは読者に飽きられてしまう危険性が大きいのではないだろうか。心配になる。

 

 連載じゃなく書下ろし。あらかじめページ数が決められているのか測ったように同じようなページ数で物語はきちんと終わる。そんな訳ないだろうということも平気で起こる。簡単に言えば「線路の上を時刻表通りのダイヤで動く」電車のような印象なのだ。もっと捻りを聞かせないと百戦錬磨のミステリ読みはいずれ外方を向く。

 

—内容紹介を引く

人質のなかに自分の母親が! 絶体絶命の危機をどう乗り越えるか。

 警察庁サイバー特捜隊から神奈川県警に戻ってきた真田夏希は、帰任早々に、出動要請を受けた。箱根のホテルで宿泊客二名と従業員二名を人質にとった立てこもり事件が発生したのだ。犯人は連絡を拒否し、何も要求もしていないという。だが、SISの島津らと現場の観察に向かった夏希は、衝撃の光景を目にすることになる……夏希の母親が人質になっていたのだ。夏希は犯人との交渉方法を探るが……。

 書き下ろし警察小説、第20弾。

 

 結局、本を書くのは作家ではなく編集者の力量なのだと痛感する。読み飛ばしてもなんら痛痒感を持たない一度だけの本。そして読んだ後はあっと言う間にその内容すらも吹っ飛んで消えてしまう。そんな大量消費用の文庫本ではダメなのだ。この作家の力量をきちんと成果として残してやれる編集者の度量がないとダメなのだ。

 物語を形作るのは作家の才能と編集者の経験に裏打ちされたデータのはずだ。それがどうも抜け落ちている気がする。確かに物語の持つ魅力は大きいのだが。しかし活かしきれていない、と思っている。こんな簡単な一昔前の「流行作家」で終わって欲しくないのだ。

 ★★★1/2