第十五話:神vs人間


これまでのあらすじ

武力ではなく、激辛への耐性――**「辛力(しんりょく)」がすべてを支配する世界。主人公・激は、真の激辛道を極めるため、数々の死闘を潜り抜け、熱き仲間たちと共に歩んできた。
しかし、平穏は突如として破られる。天界より「辛神(からかみ)」**が降臨し、飽食と廃棄を繰り返す人類を浄化すべく「激辛禁止令」を宣言。主要都市へ四天王を送り込む。激の仲間たちが各地でこれを迎え撃つ中、辛神軍最強の戦士・西園寺は、主の野望を阻むべく独り国会議事堂で反旗を翻した。
決戦の地・東京へ降り立った激は、西園寺の部下である二階堂・場家下と共に、罠だらけの「地下秘密通路」へ潜入する。しかし、迫り来る激辛トラップを突破するために場家下が、さらに追っ手から流れるために二階堂も、共に戦闘不能になりリタイアを余儀なくされた。
仲間の尊い犠牲を背負い、禁断の**「勇者の秘薬」**を手に入れた激は、ついに地上へ。激は人類の激辛道を守るための最終決戦に挑む!
主要登場人物
 * 激(げき):
   修行で真の辛力を得た主人公。二階堂と場家下の犠牲を背負い、懐に「勇者の秘薬」を隠し持って辛神との決戦に挑む。
 * 辛神(からかみ):
   人間界から激辛を消し去ろうとする絶対強者。計り知れない神の辛力を持ち、国会議事堂で「激辛禁止令」の承認を待つ。
 * 西園寺(さいおんじ):
   元・辛神軍最強の戦士。自らの矜持を懸け、独り国会議事堂で辛神の野望を食い止めるべく奮闘している。
 * 二階堂(にかいどう):
   西園寺の部下。激を救うための奥義により、数年分の貯蓄が尽きたショックで精神が崩壊し、リタイア中。
 * 場家下(ばかした):
   西園寺の部下。地下通路の罠をすべて「食べる」ことで無力化しようとした結果、**「痔」と「深刻な食あたり」**で悶絶し、リタイア中。
 * 紅(くれない):
   ヒロイン(?)。地下通路での「食べなくても避ければいい」という正論がすべて無視されたことに絶望している、唯一の常識人。
 * 辛仙人(からせんにん):
   タブレット越しに激を導く伝説の仙人。激が手に入れた「勇者の秘薬」の恐ろしい副作用を知っており、激の身を案じている。

【互角?神の余裕】
国会議事堂前。激が姿を現す少し前、そこには独り、反旗を翻した最強の戦士・西園寺が神と対峙していた。そこへ、ボロボロの身体を引きずり、二階堂と場家下が駆けつける。チリ三兄弟に敗北した二人だったが、辛さの深淵を覗いた者同士にしか分からぬ慈悲により、トドメを刺されることなく再起を果たしていた。
二階堂「西園寺様! 加勢しますわ。……不味いものは罪、不細工な負け方もまた罪よ!」
場家下「ゲハハハー! もっと不味くて辛いもんを寄越せェ! 腹が減って知性が死んでるぜ!」
西園寺「お前ら……何しに来た!? 怪我人は下がっていろ、足手纏いだ」
西園寺の拒絶をよそに、辛神が不敵に口を開く。
辛神「ほう、羽虫がこれほど集まるとは。ならば興を添えてやろう。用意させたのは、あまりの刺激に料理人がショック死し、客への提供が法で禁じられた、禁断の**『賄い激辛カレー』**だ。水などの飲料は一切禁止。早く完食した方が勝ちだ。……貴様の『美学』とやらが、神の食欲にどこまで耐えうるか見ものだな」
戦いの火蓋が切られた。西園寺の動きは、もはや人間が食事をする速度を越えていた。スプーンを振るうことすら省略し、衝撃波でルゥを浮かせ、空気ごと吸引する。だが、二階堂は直感していた。
二階堂「(……まずいわ。互角に見えて、西園寺様は息が上がってきているのに対して辛神は少しも呼吸が乱れていない。ヤツにとってはまだ『前菜』ですらない。得体の知れない力を隠している……! 西園寺様は負ける……)」
二階堂は隣でカレーを地面ごと食おうとする場家下の首根っこを掴む。
二階堂「場家下、応援を呼びに行くわよ! ……あの連中のエースを!!」
場家下「ゲハハ!? まだ一口も食ってねえぞ! この不味そうな匂い、最高じゃねえか!」
二人は一縷の望みを懸け、激の元へ戦線を離脱した。残された西園寺は、命の火を燃やし、さらなる加速を見せる。




【神vs人間】
西園寺「野獣の如く貪り、蹂躙する! 『ビーストキャノン』!」
西園寺の鋭い正拳突きがカレーを抉り、衝撃波で宙に舞ったルゥを瞬時に捕食する。対する辛神は、静かに右手をかざした。
辛神「ふむ、野獣の食事か。ならば私は神の慈悲を与えよう。咀嚼という苦痛から解放してやる。『ゴッドハンド』」
神が触れた瞬間、カレーは咀嚼のプロセスを飛ばし、光となって胃袋へ直葬されていく。
西園寺「休む暇も与えんぞ……! 『インヴィンシブルサイクロン』!」
西園寺が超高速の旋回蹴りを放つ。華麗に舞いながら、皿の中のカレーへ正確無比な回転蹴りを何発も叩き込み、その風圧でカレーを竜巻状に吸い上げていく。だが、辛神は指を一刺しした。
辛神「風を操るか。ならば私は天の理(ことわり)を示そう。食事とはエネルギーの変換だ。『神の裁き』」
晴天の空から赤黒い落雷が皿を貫き、一瞬で気化したカレーを、辛神は大気ごと飲み干した。
西園寺「これで終わりだ……西園寺流最終奥義、『アルティメットラッシュ』!!」
西園寺の怒涛の連続攻撃(食事)が皿を削り、ついに完食へ王手をかける! ……だが、辛神が不敵に呟いた。
辛神「……見苦しいな。神の前で、皿の底を争うなど。この領域(エリア)のすべてを、私の胃袋と繋げよう。『ザ-ワールドブレイクダウン』」
周囲を眩い光が包み込む。西園寺が目を細めた刹那、視界のすべてが白く染まり、何が起きたか分からぬまま、光が止んだ時には辛神はすでに空の皿を持ち、ケロッとした顔で佇んでいた。
西園寺「……バカな。何が起きた……!? 時間が飛んだわけではない……。ただ、光が止んだ時にはすべてが消えているだと……」
西園寺は、絶望的な実力差を前に膝を震わせた。




【激、参上!西園寺の奥の手】
そこへ、ついに激が到着した。激が駆けつけると同時に、その手元のタブレットからは辛仙人と紅の驚愕の表情が映し出される。
激「これが……俺の戦うべき相手か……!」
紅「激、気をつけて! 何が起きてるのかサッパリだけど、今のカレーは物理現象じゃないわよ!」
辛仙人「激よ、相手は最早人間の理解を超越しておる。まるで『次元』ごと食っておるかのようじゃ……!」
西園寺、辛神、そして激。初対面の三者の間に火花が散る。
西園寺「部外者は見学していろ。……これこそが私の、勝利への執念だ!」
西園寺は、喉元まで逆流した激辛の奔流を「弾丸」へと変え、己の肉体を砲身とした。
西園寺「『オーバーロード・エクスプロージョン』!!」
防御力を無視して自分の皿を空にすると同時に、逆流する爆圧を辛神の口内へ強引にねじ込んだ!
紅「ちょっと! 無理やり食わせるのはルール違反じゃないの!?」
辛仙人「いや、西園寺自身が完食した瞬間、判定は一度下る。相手に食わせるのは『完食のお手伝い』……つまり救済措置と判断され、ルール上は極めてグレーな判定となるのじゃ! 己の胃壁を犠牲にした凄まじい心中技よ!」
紅「っていうか、判定って誰が? 審判がいる訳でもないし」
辛仙人「審判はおる、ほらアソコに(指を指す)」
紅「え! いつから!? っていうか誰よあの人!」
辛仙人「ファイト中は必ず審判はおる。激辛の神髄を見極める黒衣の守護者じゃ」
紅「え、そうなの? 気にした事ないけど、そう言えばいたようないなかったような……。はっきり思い出せない……(怖っ!)」
しかし、煙の向こう側。辛神は西園寺の全てを込めた一撃を、無傷で飲み干していた。西園寺は無念のまま、その場に崩れ落ちた。
西園寺「……神……だと……。私の人生すべてを懸けた辛さが……ただの『おまけ』程度だというのか……。クソッ……!」




【人間達の最後の砦】
戦闘不能の西園寺に代わり、激が前に出る。
激「西園寺……お前の執念、俺が引き継ぐぜ。おい辛神! お前の横暴もこれまでだ! 神だか何だか知らないが、罪のない一般人まで痛ぶるようなヤツは容赦しない!」
辛仙人「激よ……頼むぞ。辛神と闘えるのはもうお前だけじゃ!」
辛神は冷酷な笑みを浮かべ、指を鳴らした。
辛神「次は貴様の番だ、激よ。この一杯で凍え死ぬがいい。供するのは、あまりの辛さに周囲の熱を奪い、空間ごと氷結させる伝説の**『極辛凍結ラーメン』**だ。互いに辛さを宣言して完食せよ。相手が食い終えてから10カウント以内に次を宣言できねば敗北。辛さの天井は……神には存在せぬがな」
激「……今の俺に、限界などない! 『50辛』……『猛虎辛拳』!」
紅「いきなり50辛!? 常人の致死量よ、それ!」
激の鋭いパンチが氷を砕き、麺を一気に吸引する!
辛神「ふむ、では倍の**『100辛』だ。『神の怒り』**」
紅「100辛!? 激の二倍!? 物理的に空気が焦げてるわよ!」
辛神が大地を震わせ、裂けた地面から噴き出した麺を空間ごと飲み込んだ。
激「まだまだぁ! 『120辛』! 『竜王激辛拳』!!」
辛神「どうした? もうペースダウンか?」
激が溜めからアッパーを放ち、空中で麺を捕らえ、そのままダイブして完食!
辛神「止まらんな。『200辛』。『神風』」
辛仙人「なんと……食べられる限界と言われる100辛の壁を遥かに超えおった……あんなにもあっさりと……」
辛神は風を操り、スープの一滴一滴を肺へと直接吸い込む。
激「ガアァァァ! 死ねェ! 『300辛』!」
辛仙人「よせ、激! 体が持たんぞ!」
激「『激辛地獄車』!!」
激が辛神を羽交い締めにし、猛回転しながら地獄のシェア食い!
紅「いや、それもう格闘技じゃん! 激辛関係ないから!」
辛仙人「回っていてよく見えないから物理攻撃とは断言できない! よってセーフじゃ!」
辛神「遊びは終わりだ。『500辛』。『ゴッドディザスター』」
激「は……ハッタリだろ……?」
辛神が天変地異を引き起こし、ラーメンの雨を降らせて悠然と完食した。
激「……ク、クソ! もうこうなったら奥の手だ!」
激は正気のない瞳で、大地に拳を突き立てる。
辛仙人「激よ! よさぬか! まさかあれを使う気か!?」
紅「仙人、あれって何!?」
辛仙人「『極辛噴火撃』……地球の核(コア)に眠る根源のカプサイシンを己の肉体にバイパスする禁断の技じゃ! 一時的に味覚中枢を焼き切り、あらゆる辛さを無効化するが、反動で全身の粘膜が崩壊しかねん! 今の激には早すぎる、命に関わるぞ!」
激「……ここで引いたら、俺の激辛道が終わるんだよ! 行くぜ、仙人!!」
激が地を這う拳から、赤黒いマグマのようなオーラを噴き上げる。
激「……これが、俺のすべてだ!! 『1000辛』! 『極辛噴火撃』!!!」
紅「1000辛!? もうスープが固形物に……もはやラーメンじゃない……辛い以前に不味そう!!」
激の全身から噴火の如き熱気が立ち昇り、氷結したラーメンが瞬時に沸騰、気化する。激はその爆発的なエネルギーごと、麺とスープを「食」としてではなく「現象」としてねじ伏せ、完食した!
ドォォォォン!!
凄まじい爆風が巻き起こり、辛神が瓦礫の山へ吹き飛び、沈黙する。
紅「激辛フードファイトで、まさかの物理的流れ弾でダウン!? フードファイトの概念どこ行ったのよ!!」
審判の声が響く。
「10……9……8……」
紅「……やったの? あの神に勝ったの!?」
辛仙人「……信じられん。まさか本当に完食するとは。激、お主という男は……」
激たちが勝利を確信した、その瞬間。瓦礫を粉砕し、辛神がゆっくりと立ち上がった。その顔には、一切のダメージを感じさせない不敵な笑み。
辛神「……1000辛か。ようやく腹がこなれてきた。見せてやろう、神の本気を」
激「……うそだろ……。あれだけの熱量を受けて、まだケロッとしてやがるのか……!?」
紅「化け物……。私たちの常識が通用する相手じゃないわ……」
辛仙人「……これほどとは。今の激の一撃は、人間が到達できる極致。それを『腹ごなし』と言い放つとは……。まさに、絶望じゃ」
絶望の第二幕が、今上がる。



(続く)