Mr.リアール
第5話『その「名作」、物理と効率の壁につき解体す』

その一:コアCPUの紛失

審判の日を回避すべく、未来から銀色の殺意が送り込まれる。

未来から送り込まれた液体金属の暗殺者。彼は変幻自在の体でターゲットを追い詰めるが、その前にMr.リアールが立ちはだかる。

「君、液体だろうと機械である以上、命令を下す『コアCPU』がどこかの部位にあるはずだ。全身のパーツがバラバラになった際、無線通信のラグや遮蔽を考えれば、末端の液体が勝手に中心へ戻るなどという芸当は不可能だ。つまり、**意志を持つコアCPUが含まれる部位が、自ら這いずって他のパーツを回収しに行かねばならん。**リアリティがない」
中盤の激しい戦闘で粉砕された暗殺者。彼は必死にコアCPUのある右腕を動かし、散らばった自分を拾い集めるという地味な作業に従事する羽目になった。その無防備な背後からコアを物理破壊され、映画は上映開始からわずか40分で、ただの銀色の産業廃棄物を残して終了した。

その二:スチーム爆発の残骸
三つの誓いを破れば、愛くるしい隣人は阿鼻叫喚の怪物へと変貌する。クリスマスの夜を舞台にしたパニック・ファンタジー。
怪しい骨董店で売られていた、可愛い未知の生物。Mr.リアールはその「増殖と変身」のメカニズムを鼻で笑う。
「午前0時の定義はさておき、それを体内時計のトリガーだとする。だが、水に触れただけで増殖するなら、その新個体の組成は大半が『水』のはずだ。さらに、夜食一食分のエネルギーで蛹から怪物へ急激に変身(メタモルフォーゼ)してみたまえ。その際に発生する凄まじい代謝熱で、水の体を持つ君たちは変身が終わる前に自らの熱で蒸発し、干からびるのが道理だ」
映画の見せ場であるはずの変身シーン。一斉に蛹を破った怪物たちは、牙を剥く間もなくシュン!という音と共に湯気となって消え去り、全滅した。静まり返った室内で、Mr.リアールは床の染みを眺めて呟く。
「なるほど。自己防衛システムが欠陥だらけで勝手に自滅するから、希少種として怪しい店でしか扱われないわけか。合点がいったよ」

その三:300万光年のハッタリ

孤独な少年と、星を越えてやってきた異星人の、指先が触れ合う世紀の友情。

地球への出発を控えた宇宙人。彼は「300万光年の彼方」という壮大な夢を語るが、Mr.リアールがそのハッチを叩く。
「300万光年? 有機生命体の肉体劣化を考えれば、それは単なるハッタリだ。知的生命体が存在し得る範囲を考えれば、現実的には4光年から数十光年圏内だろう。さて、君は地球へ行き、そこで救援を呼び、迎えが来るまでの間、地球でなんとか身を潜めるか実験台にされながら過ごすわけだ。だが、地球との往復時間と、現地での滞在期間を計算してみたまえ。君が何年生きる種かは知らんが、数年から数十年の月日を、地球の狭いクローゼットや政府の解剖台の上で浪費する価値があるのかね? 君の寿命を容易に無駄にできる時間ではないはずだ」
Mr.リアールの冷徹なコスト計算を聞いた宇宙人は、静かに指を引っ込め、ハッチを閉じた。結局、地球に宇宙人は現れず、映画は一人の少年が近所の森でカブトムシを探すだけの、極めて平穏で退屈な日常を描く作品へと姿を変えた。
エピローグ
劇的な戦闘も、恐ろしい変身も、時空を超えた友情も、Mr.リアールの「正論」という名の検閲によってすべて未然に防がれた。
スクリーンに映し出されるのは、自動掃除機が銀色の破片を吸い込む音と、誰もいない森のせせらぎだけ。
「無駄なドラマを省いてあげたよ。感謝したまえ」
Mr.リアールは満足げに眼鏡を拭くと、冷え切ったコーヒーを啜り、合理的で静かな闇へと消えていった。

(おわり)