第25回「見えない光で皮下を探る」-近赤外線による非侵襲観察
「あれ?つかないゾ。リモコンの電池ないのかな?」今やテレビやエアコンは本体のスイッチよりもリモコンでの操作がメインですね。今回はこのようなリモコンや、携帯電話のデータ通信等でも使われている赤外線の話題です。
「赤外線」に似た言葉に「紫外線」があります。赤外線と紫外線はどちらも目に見えない光ですが違いはその波長です。虹の色の並びは光の波長の順に対応していますが、波長が長い光が赤色、短い光が紫色です。赤外線と紫外線はどちらも目に見える範囲の「外」の波長をもつ光なので「○外線」と呼ばれます。
赤外線は赤色よりも波長が長く、長すぎて見えない光。紫外線は紫よりも波長が短く、短すぎて見えない光です。そして赤外線は、比較的可視光に「近」い「近赤外線」と、可視光から「遠」い波長をもつ「遠赤外線」に分けられます。
「近い」「遠い」とは感覚的な表現のため「近赤外線」と「遠赤外線」の境目については学会等で基準が異なりますが、その境目は波長にして約3μmあたりに置かれることが多いようです[1]。(真ん中に「中赤外線」をおいて三つに分けることもあります。)
さて近赤外線と遠赤外線の境目が3μmに置かれる理由は、水による吸収が3μmあたりで変わることも一因です。3μm以上の波長を持つ遠赤外線は水に非常によく吸収されます。人体も水を豊富に含みますので遠赤外線をよく吸収し、遠赤外線を吸収すると温度が上がります。
というわけで暖房器具に謳われている赤外線は遠赤外線ですね。セラミックヒーターの赤外線もそうですし、コタツの赤外線も遠赤外線です。冒頭で赤外線は目に見えないと言いましたがコタツが赤く光るのはなぜでしょう?これは点いていることを一目で知らせるためと「暖かそう」という視覚的効果を狙って赤色の可視光を同時に出しているのです。体を温める遠赤外線自体には色がない(人間の目には見えない)ことにご注意くださいね。
暖房器具に限らず、温度を持つ全ての物はその温度に応じた赤外線を放射しています。人体も同様で、10μm前後をピークにした遠赤外線を放射しています。このことは色々なことに応用されています。
例えば自動ドア、人が放射する遠赤外線を検知してドアを開閉しています。最近はトイレで自動的に水を流してくれたり、手をかざすと蛇口から水が出たりしますが、これらも人体からの遠赤外線を感知しています。耳で測る体温計は耳からでてくる遠赤外線を計測して体温を割り出しているものです。
さて一方で「近赤外線」のほうは、これはどのようなことに役立っているのでしょうか?
近赤外線は遠赤外線と違って水による吸収が比較的少ない赤外線です。人体についてみれば遠赤外線は皮膚表面から約0.2mmしか入っていきませんが、近赤外線は波長によっては5~6mmまで入っていきます[2]。これを利用した用途が広がりつつあります。
最近、指や手のひらの静脈の模様で個人を認証する生体認証が銀行のATMなどで採用されています。これに近赤外線が使われています。手のひらに近赤外線を当てると近赤外線は静脈のある数ミリの深さまで進入しますが、静脈を流れる血液中のヘモグロビンが近赤外線を吸収するので反射光の強弱で静脈のパターンを読み取ることができるというしくみです[3]
近赤外線が体の表面から数ミリまで入り込めるということは、体の表面から数ミリの深さからの反射や回折を得ることができる、ということでもあります。普通、皮下の情報は皮膚を切らないと得られないものですが、近赤外線を使うと皮下数ミリの情報を切らずに(非侵襲で)得ることができるのです。
これまで眼球の底にある網膜は眼球を取り出さない限り観察できませんでした。そしてそれには手術が必要で、観察後に元に戻すことができない操作でした。今では、黒目の部分から眼球の底にある網膜に細く絞った近赤外線をスキャンしながら照射し、反射・回折して返ってくる近赤外線を分析することで眼底部の断層画像を観察する3次元眼底像撮影装置が開発され、眼科治療に革新をもたらしつつあります[4]。
近赤外線という目には見えない光が、外から見えない奥にある情報を引き出してくれる鍵を担っているというわけですね。
<関連リンク等>
[1] 社団法人遠赤外線協会「赤外線の中の遠赤外線」
http://www.enseki.or.jp/ippo.html#2
[2] 社団法人遠赤外線協会「遠赤外線は人の体に深く浸透するのだろうか?…」
http://www.enseki.or.jp/tokusei.html#2
[3] 富士通研究所「手のひら静脈認証」
http://jp.fujitsu.com/group/labs/techinfo/techguide/list/vein_p04.html
[4] トプコン「3次元眼底像撮影装置」
http://www.topcon.co.jp/new/p110222.html
○ 関連キーワード:IrDA、OCT、赤外吸光法
「赤外線」に似た言葉に「紫外線」があります。赤外線と紫外線はどちらも目に見えない光ですが違いはその波長です。虹の色の並びは光の波長の順に対応していますが、波長が長い光が赤色、短い光が紫色です。赤外線と紫外線はどちらも目に見える範囲の「外」の波長をもつ光なので「○外線」と呼ばれます。
赤外線は赤色よりも波長が長く、長すぎて見えない光。紫外線は紫よりも波長が短く、短すぎて見えない光です。そして赤外線は、比較的可視光に「近」い「近赤外線」と、可視光から「遠」い波長をもつ「遠赤外線」に分けられます。
「近い」「遠い」とは感覚的な表現のため「近赤外線」と「遠赤外線」の境目については学会等で基準が異なりますが、その境目は波長にして約3μmあたりに置かれることが多いようです[1]。(真ん中に「中赤外線」をおいて三つに分けることもあります。)
さて近赤外線と遠赤外線の境目が3μmに置かれる理由は、水による吸収が3μmあたりで変わることも一因です。3μm以上の波長を持つ遠赤外線は水に非常によく吸収されます。人体も水を豊富に含みますので遠赤外線をよく吸収し、遠赤外線を吸収すると温度が上がります。
というわけで暖房器具に謳われている赤外線は遠赤外線ですね。セラミックヒーターの赤外線もそうですし、コタツの赤外線も遠赤外線です。冒頭で赤外線は目に見えないと言いましたがコタツが赤く光るのはなぜでしょう?これは点いていることを一目で知らせるためと「暖かそう」という視覚的効果を狙って赤色の可視光を同時に出しているのです。体を温める遠赤外線自体には色がない(人間の目には見えない)ことにご注意くださいね。
暖房器具に限らず、温度を持つ全ての物はその温度に応じた赤外線を放射しています。人体も同様で、10μm前後をピークにした遠赤外線を放射しています。このことは色々なことに応用されています。
例えば自動ドア、人が放射する遠赤外線を検知してドアを開閉しています。最近はトイレで自動的に水を流してくれたり、手をかざすと蛇口から水が出たりしますが、これらも人体からの遠赤外線を感知しています。耳で測る体温計は耳からでてくる遠赤外線を計測して体温を割り出しているものです。
さて一方で「近赤外線」のほうは、これはどのようなことに役立っているのでしょうか?
近赤外線は遠赤外線と違って水による吸収が比較的少ない赤外線です。人体についてみれば遠赤外線は皮膚表面から約0.2mmしか入っていきませんが、近赤外線は波長によっては5~6mmまで入っていきます[2]。これを利用した用途が広がりつつあります。
最近、指や手のひらの静脈の模様で個人を認証する生体認証が銀行のATMなどで採用されています。これに近赤外線が使われています。手のひらに近赤外線を当てると近赤外線は静脈のある数ミリの深さまで進入しますが、静脈を流れる血液中のヘモグロビンが近赤外線を吸収するので反射光の強弱で静脈のパターンを読み取ることができるというしくみです[3]
近赤外線が体の表面から数ミリまで入り込めるということは、体の表面から数ミリの深さからの反射や回折を得ることができる、ということでもあります。普通、皮下の情報は皮膚を切らないと得られないものですが、近赤外線を使うと皮下数ミリの情報を切らずに(非侵襲で)得ることができるのです。
これまで眼球の底にある網膜は眼球を取り出さない限り観察できませんでした。そしてそれには手術が必要で、観察後に元に戻すことができない操作でした。今では、黒目の部分から眼球の底にある網膜に細く絞った近赤外線をスキャンしながら照射し、反射・回折して返ってくる近赤外線を分析することで眼底部の断層画像を観察する3次元眼底像撮影装置が開発され、眼科治療に革新をもたらしつつあります[4]。
近赤外線という目には見えない光が、外から見えない奥にある情報を引き出してくれる鍵を担っているというわけですね。
<関連リンク等>
[1] 社団法人遠赤外線協会「赤外線の中の遠赤外線」
http://www.enseki.or.jp/ippo.html#2
[2] 社団法人遠赤外線協会「遠赤外線は人の体に深く浸透するのだろうか?…」
http://www.enseki.or.jp/tokusei.html#2
[3] 富士通研究所「手のひら静脈認証」
http://jp.fujitsu.com/group/labs/techinfo/techguide/list/vein_p04.html
[4] トプコン「3次元眼底像撮影装置」
http://www.topcon.co.jp/new/p110222.html
○ 関連キーワード:IrDA、OCT、赤外吸光法