『夏休みの空欄探し』　　　　　　　　　　　　　　　　　　似鳥鶏　　　ポプラ文庫

310p

本に挟まれた暗号。
謎解きに挑む姉妹。
忘れらない夏が始まる。

会員が2名しかいないクイズ研究会会長の高校2年生・成田頼伸(ライ)は、クラス内で「じゃない方」と呼ばれている。ライと同じ姓で、ダンス同好会に所属する人気者・成田清春(キヨ)がいるからだ。クラスで「成田君」といえば、キヨのこと。「役立たたない」ことが好きなライと、大学受験に向けて効率重視で「役立つこと」が好きなキヨ。性格も対照的で、クラスでは決して交わることのなかった二人だが、夏休みの間、ひょんなことから、謎解きに挑む姉妹を手伝うことになる。謎解きの先で待つものとは――。

すべての謎が明かされた時、切なさと温かさが胸を満たす、青春恋愛ミステリー。

似鳥鶏さんの新刊文庫です。

謎解きの要素があるミステリーなので購入しました。

高校生の夏休みの一コマを見事に表現していて、瑞々しくて切なく温かい物語でした。

最初は少しだけ読みにくかったのですが、すぐに慣れました。

もしかするとページ辺りの文字数のせいかもしれませんね。

今時の高校生はこんな風なのでしょうか。

クラスでも目立つ存在のキヨと対照的なライの立ち位置もしっかりと描かれています。

夏休みだというのに青春を謳歌するわけでもなく、淡々と日々を過ごす地味な高校生ライ。

それに比べてキヨはクラスでも目立つ存在で、いわゆるスポーツも勉強もできるタイプ。

ライはどこかでそんなクラスメートに引け目を感じています。

でもある出来事をきっかけに地味な高校生ライに煌めく青春が訪れます。

それもたった二人しかいない「クイズ研究会」会長ならではの出来事で。

ある日謎解きをしている姉妹に出会ったことでライの夏休み位は一転します。

そこにキヨも関わってきて・・・

友情と淡い青春と熱い日々が始まります。

そしてそれは同時に冴えない高校生と対極の高校生、二人の葛藤の始まりでもあります。

この時期ならではの悶々とした悩みが懐かしさと共感を呼びます。

それがとても爽やかでした。

すっかり青春を忘れてしまった大人にもお勧めです。

そしてここに出てくる謎解きが本格的なのです。

この謎が難しくて、でもなんとかして解きたくなる絶妙な問題です。

似鳥さんは東京ミステリーサーカスでも特集コーナーが設けられるほど、本格的なミステリーを書かれる作家さんですが、様々なトリックや本そのものに仕掛けを作ってしまうようなとても魅力的な著書がたくさんあります。

謎にかかりっきりになるとストーリーが追えないし、でもあっさり解答を見るのも悔しかったのですが、結局先が読みたくて謎パートは早々に諦めてしまいました。

次の謎解きへの良い練習問題になりました。

ネタバレになるのであまり多くは語れないのですが、夏休みも明けつつある今の時期にとても合っている物語です。

この夏に読んだ本の中でベスト10に入るのではないかな。

まだまだ積読になっている似鳥さんの本を早く全部読みたくなるような、とても素敵な一冊でした。