「どうせ先生も、僕のこと信じないでしょ?」

 

 

10年前、私が4歳児クラスを担任した初日。

 

目の前の小さな男の子から放たれたその言葉は、あまりにも衝撃的でした。

 

当時、彼はまだ生まれてわずか4年。

 

その短い人生の中で、彼はどれほどの「諦め」を積み重ねてきたのでしょうか。

 

「どうせ」という言葉に込められた諦念。

「先生『も』」という一言に透けて見える、それまでの大人たちとの葛藤。

 

胸がギューッと締め付けられたあの瞬間の感覚を、

私は今でも忘れることができません。

 

 

  「正しさ」という名の刃

 

当時の私は、保育者として理想に燃えていました。

 

前年に0歳児クラスで最高の時間を過ごし、

いわば「お花畑状態」で迎えた新学期。

 

THE問題児に見える、

じっとしているのが苦手なその子に対し、

私は「あなたの味方だよ」と言いながら、

必死に「正しさ」を教え込もうとしていました。

 

 

「この子が将来困らないように」

「社会のルールを分からせるために」

 

 

試行錯誤を繰り返す毎日。

 

でも、今ならはっきりと分かります。

 

 

私のその「正しさ」の押し付けこそが、

何より彼を苦しめていた無駄な抵抗だったのだと。

 

 

 

  奪ってしまった「ヒーローになるチャンス」

 

1人担任として年長に持ち上がったある日のこと。

 

彼は園庭で、

水を入れたペットボトル越しに世界を覗き、

景色が拡大して見える「ルーペ現象」を発見しました。

 

 

「先生、見て!すごい大発見だよ!」

 

興奮状態で報告に来てくれた彼の瞳は、輝いていました。

 

 

その好奇心、

発見を共有しようとする純粋さ。

なんて学び上手な子なんだろうと感動したのも束の間、現実は無情。

 

 

「カリキュラム」に追われる毎日。

 

その素晴らしい発見を広げる余裕もなく、

彼の興奮は、その場限りの小さな出来事として

処理されてしまいました。

 

 

もし、あの才能をもっと大きく広げられていたら・・・

 

彼は別の場面で、

もっと早く「ヒーロー」になれるチャンスを掴んでいたはずです。

 

 

私は、彼にそのチャンスを渡してあげられなかった。

 

 

そのことを、今でも深く、深く悔やんでいます。

 

 

  保育者として黒歴史があるから、今伝えられること

 

卒園後の彼を「相変わらず」というネガティブなトーンで語られる現状を耳にするたび、胸が痛んできました。

 

気づけば彼は今年、受験生。

 

あの大発見をした時の輝きを、

今も持っているでしょうか。

 

 

私の保育者人生を振り返れば、

そこには「黒歴史」しかありません。

 

 

当時は必死でしたが、

あまりのストレスに1ヶ月間「失声症」になり、

声が出なくなったこともありました。

 

 

でも、だからこそ、

今の私には確信を持って言えることがあります。

 

 

「もし、あの時その子の『本質』を知っていたら、間違いなく違うアプローチで、親子を導けていた」

 

 

そして、私自身も、あんなに苦しまなくて済んだはずなのです。

 

 

 

  大人の皆さんへ、私からのメッセージ

 

今、子育てや教育の現場で、

かつての私のように「声が出なくなるほど」悩み、

格闘している大人の皆さんに伝えたい。

 

 

もっとラクに、

もっと健やかに、

そして確かに子どもの育ちを見守る方法はあります。

 

 

大人の物差しで「矯正」するのではなく、

その子が持って生まれた「本質的な特性」を理解し、

その輝きを面白がること。

 

 

一人の子どもの「諦め」を「希望」に変えられる

希望を失う子どもが生まれないかかわりができる

 

そんな大人が、一人でも増えることを願って。

 

 

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~ 子どもたち一人一人が輝く社会へ ~

佐野悦子

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