
論文によれば、同等の大きさのカンガルーと人が同じ速度で歩いた場合、カンガルーの尾は人の脚1本分に匹敵する働きをしているという。このように尾を使う動物はほかに例がない。カンガルー独特の動きである跳躍を効率的にするため、尾がこのように進化したのではないかと、研究チームは推測している。
カンガルーは時速20キロで長距離を跳躍し続けることができる。研究に参加したオーストラリア、ニューサウスウェールズ大学の名誉教授テレンス・ドーソン(Terence Dawson)氏は、ほかの動物の走りよりはるかに無駄のない動きだと話す。長い尾をむちのように上下にしならせ、体の角度を調節している。
ただし、跳躍は確かにカンガルーのトレードマークだが、普段は猫背でよろよろ歩くことの方が多い。草を食べるときやほかのカンガルーと一緒のときは、時速6キロ以下でのんびり歩いている。
このように歩くときは尾をつえのようにつき、後ろ脚を地面から浮かせる。この動き自体はすでに広く知られているが、地面についた尾が生み出す力を計算しようとする者はいなかった。
◆便利な第5の“脚”
ドーソン氏らは尾の働きを詳しく調べるため、複数のアカカンガルーにプラットフォームを歩かせた。このプラットフォームは四肢や付属肢から生じる力を測定できるようになっている。プラットフォーム全体を低い天井で覆い、カンガルーがギアを上げて跳躍できないようにした。
研究に参加したカナダ、ブリティッシュコロンビア州サイモンフレーザー大学(Simon Fraser University)のショーン・オコナー(Shawn O'Connor)氏によれば、測定の結果、カンガルーの尾は単なる支えではなく、“体を持ち上げ、加速を助けるモーター”の役割を果たしていることがわかったという。名前こそ尾ではあるが、実質的には脚だと、オコナー氏らは述べている。
尾が生み出す推進力はすべての四肢が生み出す力の合計に匹敵する。餌を求めて草むらから草むらへと移動する際、おそらく尾がエネルギーの消費を減らしていると考えられる。
カンガルーの祖先は樹上で暮らしており、当時、尾は枝をつかむために使われていた。そこからすれば奇妙な進化だ。働き者の尾のおかげで前脚が小さくなり、跳躍時の負荷が減ったのではないかと、研究チームは推測している。
(本文:ナショナル ジオグラフィック)
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