金融危機で膨らむ異形の「社会主義体制」日本
2009/05/17 (特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS)
未曾有の金融危機の衝撃から立ち直るために、政府による財政支出が世界的に再評価されている。日本でも追加経済対策費14兆6987億円の過去最大規模の補正予算案が衆院を通過した。政府による債務保証などを含めた「事業費」は56兆8000億円に上るという大盤振る舞いである。麻生太郎内閣は2009年度国内総生産(GDP)の実質成長率を2%程度押し上げ、40万~50万人程度の雇用創出を「期待」するというが、各種世論調査をみても一般には冷めた見方が多い。米国も中国も政府首脳は巨額の財政出動の効果に自信を示し、一部で楽観ムードが出ているのとは対照的だ。
■太るのは官僚だけ
なぜ、日本の景気対策はこうもパンチ力が弱いのか。根本的な原因は、どうやら経済対策なるものが今回に限らず、各省庁の官僚がまとめたちまちました案を寄せ集めて、「ホチキスでとめただけ」(渡辺喜美元金融担当兼行革担当相)という官僚主導方式にある。「景気」が「気」なら、政策に「気合」がなければ響かない。それこそ政治家の役割であり、万事無難をモットーとするお役人に望むのは無理である。
経済危機のたびに太るのは官僚世界で、政治が後を押す。政治家の多くは従来の官僚案のほうが選挙に有利と踏んでいる。今回の補正予算案でも1兆円に上る農林漁業向けの大半はばらまきだ。「政治主導」のもとに官僚主導経済体制がますます強化される。
■小泉時代の遺産
01年4月には「小さな政府」を唱えた小泉純一郎氏(67)が首相に就任、辞める06年9月まで「小泉改革」は一世を風靡(ふうび)した。
実は小泉時代は「大きな政府」を遺産として残した。それはGDPと予算の関係を示したグラフをみれば一目瞭然(りょうぜん)としている。
政府の相対的なサイズは政府予算のGDP比較で判別できる。財務省データによれば、重複分を除いた一般会計と特別会計の純合計額は、06年度に名目GDPの7割に達した。この純合計額から借り換え国債償還を除いても、50%近い。06年度のGDPのうち中央・地方を含めた政府の消費や投資など公的部門の占める割合は22%に過ぎない。つまり、日本の経済というパイは少なく見積もって官僚が半分も仕切っているのに、生産に結実しているのは2割ちょっとに過ぎない。恐るべき非効率である。
言い換えると、日本は旧ソ連崩壊で成り立たないことが明らかになった社会主義経済に化け、ますますその異形を膨らませている。
もともと、日本の政府規模の大きさは以前から問題視されてきた。しかし、特別会計を含めた政府予算規模は20年前はGDP比30%前後で、20%程度の米国よりは10ポイントほど高いものの、公的部門のGDP比との乖離(かいり)は今ほどひどくなかった。
もともと特別会計は、国が直轄する道路、郵便、保険など特定の事業を例外扱いにし、一般会計と区別して設置されてきた。国会で議論される予算はもっぱら一般会計だが、特別会計は一般会計の2、3倍の規模で複雑かつ多岐にわたり情報もほとんど公開されていなかった。03年2月、当時の塩川正十郎(まさじゅうろう)財務相(87)が「母屋(一般会計)でおかゆをすすっているのに、離れ(特別会計)ではすき焼きを食べている」と改革の必要性を訴え、小泉内閣は特別会計の見直しと再編をめざす「行政改革推進法」を06年5月に成立させたが、遅きに失した。
改革路線を尻目に「すきやき」をむさぼるグループがその間に増殖を続けるのを小泉内閣はなすがままにまかせた。小泉後は、「かんぽの宿」売却騒ぎが示すように、郵政改革ももみくちゃになってしまった。「行革」も後退を続ける。
■危ないのは日本
米国発金融危機の結果、外需に依存できなくなった日本は経済再生のために内需拡大を軌道に乗せなければならない。そのためには公共投資など政府部門の役割が極めて重要になっている。ところが、政府部門は怪物のごとく巨大化して民間部門を食い荒らしている。そして今回の追加経済対策も特別会計をさらに太らせる。これでは、いくら経済対策が積み上げられても、企業や消費者心理に確信が生まれるはずがない。
「100年に1度」の危機を迎えているのは、「世界」ではなく日本なのである。
(特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS)
堺屋太一さんの、分析もすごいですけど、田村秀男さんも、すごいーー!!
田村秀男さん

産経新聞社特別記者・編集委員兼論説委員。日経新聞ワシントン特派員、米アジア財団上級フェロー、日経香港支局長、編集委員を経て現職。
著書に『検証 株主資本主義』(編、日経BP社)、『人民元・ドル・円』(岩波書店)、『円の未来』(光文社)、『国際政治経済学入門』(扶桑社)など。
04年から早稲田大政経学部で国際政治経済研究講座を持つ。
