日本のビジネスマンが中国でいい仕事をするには、中国の人たちとどこまで深い付き合いができるかがカギ。「中国には中国の流儀がある」と考えたとたんに中国に行くのが楽しくなったという中華の鉄人・陳建一氏と、中国でのマーケティングで日本企業にコンサルテーションを行っている徐向東氏が、中国の人たちとの付き合い方について話し合った。
第一印象、ホテルや食堂の従業員の態度にビックリ知り合いかどうかで雲泥の差
徐 陳さんのお父さんは四川省のご出身と聞いていますが、陳さんの中国語は非常にきれいな標準語ですね。お父さんから勉強なさったんですか。
陳 いえ学校で。四谷の東京中華学校です。父はあまりなまりのない四川語でした。
徐 お母さんは日本人で陳さんも日本生まれ、日本育ち、日本国籍。初めて中国に行かれたのは何歳ごろですか。
陳 26歳でした。
徐 どんな第一印象でしたか。
陳 とにかくびっくりしました。すっげーところだなぁと・・・・。
徐 何にそんなに・・・・。
陳 ホテルや食堂の従業員の態度の悪さに・・・・(笑い)。買い物すると、お釣り投げて寄こすし・・・・。私はサービス業やっているから、そんなこと考えられなかった。でも友達はみんなとても良くしてくれます。
徐 見知らぬ人には無愛想なんです。
陳 そう。少しでも知り合いかどうかで雲泥の差。でもすぐ中国がとても楽しくなりました。
徐 面白いと思うようになったきっかけはどんなことですか。
陳 習慣とか文化の差、これはどうにもならないと考えたら、すごく楽しめるようになった。中国には中国の流儀がある。中国に行ったらそれを楽しんだ方がいいということです。楽しみはゴルフと食事日本とのマナーの違いはあげつらわない
徐 年にどのくらい行きますか。
陳 5、6回。四川省には毎年2、3回行きます。何回も行くのでいろいろ分かり、さらに楽しくなります。
徐 一番の楽しみは何ですか。
陳 ゴルフと食事。友達と一緒に中国のゴルフ場を全部制覇しようと思っています。もう、ずいぶん行きました。杭州、広州、昆明、海南島、大連、青島、成都・・・・。キャディーさんともみんな仲良しです。
徐 日本から行っているビジネスマンの皆さんも、よくゴルフをやっておられます。
陳 広東省のミッションヒルズというゴルフ場でプレーしたことがありますが、ここは180ホール。一日二日では到底回り切れません。ここが世界一かと思ったら、青島は225ホール。ほんとにびっくりします。
徐 ゴルフ漬けになってしまいますね。
陳 そう。最初の日まず二ラウンド。夜はみんなでワーワー料理食べて、それからマッサージ。翌日また二ラウンドするんです。
徐 値段はどうですか。
陳 今は結構いい値段していますけど、いろんな割引カードを友達が持っている。それをちゃんと利用するんです。そうすると半額。
徐 ゴルフ場は地域によって差はありますか。
陳 あります。値段が違いますし、サービスの仕方やキャディーさんの教育のレベルも違います。
徐 ルールやマナーは?
陳 日本ならピンはキャディーさんがとってくれますが、向こうではとらない。プレーヤーが順番を守らないことも多い。そういうことをあげつらっていけばきりがないですが、以前に比べればずいぶんよくなっています。
徐 マッサージはどうですか。
陳 田舎に行くと5元とか10元。でもものすごく上手。
徐 病気なども診てくれるでしょう。
陳 そう、成都で私がよくかかる人など、私の体のことをみな分かってくれているという感じです。
レストランではワーワーとにぎやかに生活を大事にする四川の人たち

徐 料理はどんなふうに楽しみますか。
陳 レストランで食事するときはみんなでワーワーとにぎやかに楽しみます。ゴルフの後、深夜に屋台を借り切って、私が料理をつくってみんなで宴会をやるなんてこともします。
徐 中国料理は地域によってみな違うから、いろいろ楽しめます。
陳 中国全体がそうだけど、食べることについては本当にどん欲ですね。だからおいしいものをたくさん知っているし、おいしい食べ方を知っている。そういう点は本当にすごいと思います。
徐 そういう中国の中で、四川の人たちは生活を楽しむコツを分かっているというか、生活を本当に楽しんでいますね。みんなのんびりしています。
陳 うちの息子もいま四川大学に留学していて、夜はレストランでアルバイトしていますが、毎日がとても面白いと言っています。私の四川滞在は長くても一カ月程度ですが、年間を通していると面白さもまた別のものがあるようです。
徐 ちょうど日本人と正反対の感じ。日本人は毎日忙しく生真面目に夜も残業で働いていますが、四川人は仕事より生活を大事にしている感じ。その中に食があるから、四川料理があれほど発達したのではないでしょうか。
陳 四川人は気持ちが熱い、やかましい、よくしゃべります。それで飲め飲め、料理はどんどん出てくる。それがみなうまいし安い。200~300円あればお腹いっぱいになります。成都で私がよく行くのは、ホリデー・インの裏にある、建物が傾いているような小さい店。家庭料理の定番がとてもおいしい。最近は新しい料理もどんどん増えています。色をきれいにするとか、新しい工夫がどんどん出てきているのです。
徐 同じ四川でも重慶と成都では微妙に違いますね。
陳 違う違う。成都だって店によって全部違います。
徐 重慶の火鍋、おいしいですね。成都にもありますが重慶の方がちょっと有名かな。唐辛子や山椒が浮いていて真っ赤。とても辛い。しかし、四川料理といっても全部が辛いわけではないですよね。
陳 そう、白菜の甘い料理とかあっさりした料理。甘辛、酸っぱいのも、しょっぱいものもあってバランスはすごくいいです。
徐 四川は点心も楽しい。餃子や水餃子の専門店もたくさんあります。
陳 水餃子は真っ赤なスープの中に小さいのが入っていてちょっとピリ辛。水餃子だけ専門にやっていて、スナックみたいなものです。それから、ゴマあんが入っている糯米団子。熱いからハホハホしながら食べる。話すだけでも食べたくなります。パンもおいしい。広東の点心とはみんなちょっと違います。
徐 麻婆豆腐といえば陳麻婆豆腐ですが、他には「鐘水餃(ゾン・スゥイ・ジョー)」や「頼湯元(ライ・タン・イュン)」などの名物料理もあります。「陳」というあばたのお婆さんが考案した豆腐料理、鐘さんや頼さんといったコックさんが考案した餃子や団子といったように、四川では必ず「発明者」の名前の付いている料理がいろいろありますね。これは北京や上海、広東などではあまり聞きません。
陳 四川料理は基本的に庶民の生活の中で培われてきたものだからね。
徐 北京料理には宮廷料理的なところがあるのに対し、四川料理は庶民料理ですね。
陳 四川は歴史的にいろいろな地域の文化が交流しているところです。四川料理にも山東・上海・広東料理などのテクニックが流入・凝縮していて、その中で地域性にマッチしたものが発達してきたわけです。一つ一つの料理の歴史をたどると、案外新しいものも多く、麻婆豆腐なんかまだ200年ぐらいしかたっていないです。それがグローバルなものになった結果、逆にこれぞ四川というものが少なくなっている。だから四川料理の重鎮たちは、四川の伝統的な料理を残そうということで、いろいろ努力しています。レストランの席、予約時間に遅れると埋まってしまう基本姿勢はサービスより味、返し箸は不要
徐 西安に行くと料理が全く変わりますね。
陳 小麦粉の文化だからおソバが多い。
徐 イスラム的な料理も多いですね。
陳 そうですね。西安の屋台でみんなが私より先に入ってソバを注文しちゃったら、それが一杯60元だっていうわけ。大勢一緒だったし、「父親の知り合いが公安にいる」とか言って、何とか10元まで値切ったけれど、一人だったら60元渡していたかもしれません。
徐 中国でレストランに入るときはどんなことに留意すればいいですか。
陳 流行っているレストランで予約時間にちょっと遅れると、席がもう埋まっていることがよくあります。
徐 マナーも日本とはかなり違いますね。例えば、注文したものを食べ残してもいい。
陳 おいしいものがいっぱい過ぎて食べきれなかった。どうもありがとうということですね。
徐 中国ではおいしいものが後から出てくる傾向もあります。
陳 中国人は味へのこだわりが強いから、店の基本姿勢もサービスより味です。料理を出すタイミングは、日本なら前菜の次にお吸い物とか順序がありますが、中国では順番はおおむね関係なし。注文したものがどんどん出てきます。だから食べたいもの、おいしいものから注文した方がいいです。返し箸、あれも必要ありません。

徐 陳さんは中国の人たちととても上手に付き合っておられるようですが、コツは何ですか。
陳 とにかく日本とは文化が違う。そこをしっかりわきまえてお付き合いすることだと思います。
徐 日本の既成概念で「こうでなければ・・・・」と比較してばかりいると楽しめなくなってしまいますね。
陳 そう、中国なんだから、日本じゃないんだから・・・・。いま中国はどんどん発展しているから、大都市のホテルのレベルはどんどん上がっていて、世界的なサービスレベルになってきています。オリンピックがくるからということで、地下鉄の乗り方のレクチャーもやっています。「降りる人が降りてから乗りましょう」と。でも、多少の無愛想や混雑は、その気になれば苦になりません。屋台で値切るのも面白いです。
徐 一番文化の違いを感じるのはどんなことですか。
陳 携帯電話。向こうでは公共の場所でも、みんな大声で好きなようにしゃべっています。日本のように周りを気にしている人は一人もいません。それから会話のトーン。電話でもフェイス・ツー・フェイスでも、みんな大声でポンポン言い合っていますね。私は中国人の友達には、日本に来たら話し声は、中国の時よりワンランク落とせ、と忠告します。自己主張、自己責任の世界確認すべきことは言葉でしっかり伝える
徐 中国人は自己主張が強いですからね。
陳 日本では謙遜せずに「私は中国料理ナンバーワンです」などというとバッシングされる傾向が強いけれど、中国では「料理上手ですか」「ええ、まあ」では相手にされません。だから私は、中国に行くと声が大きくなります。もっとも、日本でも大きいけど・・・・(笑い)。取引で騙されたこともあります。輸入したキノコが、周りはきれいで真ん中が腐っていたとか、豆板醤に釘や石を入れて重さを増やしていたとか・・・・。確認せずそこまで見抜けなかった自分が悪かったと考えることにしています。
徐 言うべきこと、確認すべきことは言葉でしっかり伝えなければならないです。自己責任の社会ですね、中国は。
陳 逆に今は、取引先や友達とかたい絆で結ばれているから、騙されるなんてことはないです。優先的にいいものを回してくれます。ものいう人間関係、まず人としてきちんと接するメンツが大事、自尊心無ければバカにされる
徐 中国では人間関係はとても重要です。
陳 そう。だから最終的には、一緒に食事し酒を飲まなければダメです。そこではじめて本当の信頼関係が生まれるんです。料理人は料理さえちゃんと作っていればいい、なんて考えていたら大間違いです。まず人としてきちんと接する。その上で商売のノウハウを交換し、援助が必要なら援助もする。そういう付き合いを蓄積して、はじめて絆ができるんです。
徐 それは中国で仕事をするビジネスマンや経営者にもそのまま言えることです。
陳 全部が全部いい人ではないから、時にはトラブルもあり、ビシッとやらなければならないこともある。喧嘩をしなければならないこともあります。
徐 日本企業が中国で一番苦労しているのもその辺です。陳さんはその辺りをよく分かっていて、うまくやっておられるようですね。
陳 いや、ある程度分かってきたつもりだけど、完全に分かっているわけではないです。完全に分かればだれも苦労しない。分からないから私は友達によく相談します。「こんなことあったけど、どう思う?」と。しかし友達A、B、Cみな意見が違うから、最終的に決めるのはやはり自分です。それで成功するかもしれないし失敗するかもしれない。結局その積み重ねです。もちろん最後に判断するのは自分だから、芯を一本しっかり持っていてそれを貫かなければなりません。
徐 中国ではいろいろな人の話を聞くということは非常に大事です。
陳 そうです、とても大事です。もう一つ大事なのは、地位の高い人でも低い人でもみんな平等で、メンツがあり自尊心があるということ。中国ではそこをちょっと気をつけた方がいい。逆に言えば、日本人も自尊心というか、自分を大事にしないと、バカにされてしまう。ある程度胸を張って反っくり返っているような部分も必要です。
徐 そうしないと下の人が動かないということもあります。

有能で信頼できる中国人の右腕が必要決して裏切らないという基本スタンスで
陳 それから仕事をする上で本当に大事なのが右腕。信頼できる有能な中国人の右腕がいないとなかなかうまくいきません。こういう人とは、家族ともどもの付き合いをしなければいけないし、最後まで面倒を見るという覚悟、決して裏切らないという基本スタンスが必要です。ほんとにやろうと思ったらそこまでやらなければならないから、ビジネスパートナーといっても簡単ではないですね。
徐 陳さんの場合はどうですか。
陳 私は自分の弟子をいっぱい育て、その弟子たちが日本や中国で成功すればいいというスタンス。
徐 心が広いんだ。
陳 だって、そうすれば私もますます中国に行けるようになるし、ますますゴルフもできるようになる。だからそういう気持ちの伝わる弟子をいっぱい育てたい。
徐 弟子には日ごろどんなことを言っていますか。
陳 うちでは、ゴルフで100を切れないと料理長になれません。ハーフ2時間10分を超えたら料理長をクビです(笑い)。キャディーさんに「あれ持ってこい」「これ持ってこい」というのもダメ。みんな自分で取りに行かなければいけない。それができなければ料理人として失格と教えています。
徐 それだけですか。
陳 後は適当にやれと・・・・(笑い)。真面目だけでは長続きしないからね。要所はきちんとやるぐらいでいいのです。
徐 弟子を叱るときは・・・・。
陳 我々は褒められるのが嬉しくて仕事をやっているわけだから、お客さんはおいしかったら、帰り際に「シェフ、おいしかったよ」の一言。これレストランでおいしく食べるコツですね。弟子に対しても基本は同じだけれど、褒めすぎるとすぐ木に登ってしまう者もいますからね(笑い)。バランスが難しいですが、叱るときは陰に連れて行ってボコボコと・・・・。料理人の世界厳しいですからね、体育会系です。
徐 日本人と中国人、叱るときちょっと違うでしょう。
陳 中国人はメンツを大事にするからね。人前でストレートに叱るのはダメ。でもこれは日本人も同じだね。みんなの前で叱っていい場面とそうでない場面があります。私も感情の生き物だからすぐ出てしまいがちだけれど、怒るときはいっぺん飲み込んでから言った方がいいですね。
本格的な日本料理店、中国でビッグチャンスの可能性ラーメンなど日本発の中国料理も
徐 中国でのビジネスの可能性についてはどんな感想を持っていますか。
陳 日本料理は中国の大都市でビッグチャンスがあると思います——本格的な日本料理店。
徐 具体的にはどんなところで・・・・。
陳 一流の場所ですね。日本と同じもの、しっかりしたもの。日本から輸入しなければいけない素材も多いから、いい値段をきちんと取って、中途半端は決してダメ。四川のシェフたちが日本に来ると、和食の店に連れて行きます。みんなすごく感動します。器とか感性が全然違う。それにお金を払おうという人は中国にはたくさんいます。それも半端じゃないお金持ちだから、使う金額もものすごい。それに中国も最近はヘルシー志向になっています。この間上海でレストラン協会の会長さんたちが審査員になってコンクールをやったら、1等になったのはシークワーサーという沖縄の酢を使った島豆腐。中国もいま生活様式がどんどん変わってきて、健康志向が評価されるようになってきたんです。フカヒレ、干しアワビ、干しなまこから伊勢エビ、マグロのトロまで、いま中国には日本の食材がどんどん入っています。日本食ブームになる可能性は大きいと思います。

徐 回転寿司もいっぱいあります。
陳 中国の人、いろんなものを食べたいんです。
徐 日本と少し違いますが・・・・。
陳 あのドロドロしたわさびの使い方。日本と全然違います。きっとあれで消毒しているんだ(笑い)。ラーメンもけっこう受けています。四川ラーメンはもともと、豚骨をベースにした熊本ラーメン、その中国人バージョンです。
徐 担々麺はどうですか。
陳 中国の担々麺にはスープが入っていない。それに私の父親がスープを入れたら、それが日本の担々麺になった。これ、中国の人も、おいしいおいしいと言って食べます。向こうでもいけます。
日本で増える本格的な四川料理中国から来たシェフによる展開が増える
徐 中国のものを日本に持ってくるのはどうですか。
陳 いま四川省のシェフたちが日本にたくさん来ています。その人たちの中で、四川料理のマニアックな店を展開する人たちが増えています。小さな店ですが、向こうでは勲章をもらうくらいの料理人の本格的な四川料理で値段はリーズナブル。私も勉強しによく行きます。とてもおいしいです。
徐 そうですね。最近都内で本格的な中華が増えています。こういう交流が増えるのは本当に素晴らしいです。
陳 建一 氏
1956年、東京都生まれ。赤坂四川飯店(東京都千代田区)オーナーシェフ。父は四川料理の第一人者である陳建民氏。1993年~1999年、フジテレビ系列で放送された『料理の鉄人』の中華の鉄人として名を馳せた。
徐 向東 氏
株式会社中国市場戦略研究所 代表取締役
北京外国語大学講師を経て、立教大学博士課程修了、博士号取得。日本労働研究機構(現・独立法人 労働政策研究・研修機構)、中央大学・専修大学(兼任講師)、 ( 株 ) 日経リサーチ首席研究員、キャストコンサルティング株式会社代表取締役を経て、2007年6月に(株)中国市場戦略研究所代表取締役に就任。日中間で市場調査やコンサルティングなどの新しいビジネスなどを手掛ける。現在、 NIKKEI NET BizPlus にて 「動感中国在線ブギ ウギ・チャイナ・オンライン」 連載中。
今の中国情勢がよくわかる対談だったと思います。国際ビジネスも、やはり人間関係ということでしょうか。立川駅のグランディオの中華街に陳さんのマーボ豆腐の店があります。とてもおいしいですよ!!!!!!

