慶應義塾大学経済学部准教授 土居丈朗氏 地方交付税の弊害 | 東京リーシングと土地活用戦記

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慶應義塾大学経済学部准教授 土居丈朗氏のコラムです氏のコメントは分かりやすく、とても信頼できます

番外編「地方交付税の弊害」(2007/06/11) 日経ネット・ビズプラス



 連載第7回で地域間の税収格差の問題を取り上げました。また、5月にはNHKの「地域再生」をテーマにした番組に出演もしました。番組では地方に厳しい意見を述べる少数派になりましたが、それは地方の能力を信じるからこそです。

 今回は地方の税収格差でどこに問題点があるのかを、番外編として詳しく述べたいと思います。

 地域間の税収格差の原因

 そもそも、なぜ地域間で税収格差が生じるのでしょうか。我が国の地方自治体は、どこもほぼ同じような税率で課税しており、税率の差はほとんどありません。したがって、税収格差は、税率の差ではなく、課税される対象に差があるからだといえます。例えば、個人の所得に課す個人住民税は、高所得者が多く住む地域では税収が多く、低所得者が多く住む地域では少ない、ということになります。

 そうみれば、税収格差の主な要因は、地域間の所得格差にあると考えられます。確かに、1人当たり県民所得が最も多い東京都では税収が多く、最も少ない沖縄県では税収が少ないわけです

 税収が多くても少なくても、どの自治体でも基礎的な行政サービスは提供できるようにすべきだ、との意見を受けて、税収格差を均す仕組みが我が国にはあります。それが、連載第7回でも紹介した地方交付税です。今回は、これを詳しく説明しましょう。

 地方交付税は、基準財政収入額(標準的な税収の見込み額)と基準財政需要額(標準的な支出の見込み額)を自治体ごとに算定し、基準財政需要額マイナス基準財政収入額を財源不足額と呼び、基準財政需要額の方が多い自治体にのみ、財源不足額に比例して交付税が交付される仕組みとなっています。この差額が大きい自治体ほど、多く交付税がもらえます。そうした自治体を、交付団体といいます。逆に、基準財政収入額の方が多い自治体は、交付税はもらえません。こうした交付税をもらわない自治体を不交付団体といいます。東京都は、毎年、不交付団体です。

 確かに、連載第7回でも示した下図(「地方税、地方譲与税、地方交付税の1人当たり収入額」)で紹介したように、地方交付税が地域間の税収格差を是正する役割を果たしています。しかし、農村部の自治体には、地方交付税があまり配られない都市部の自治体よりも財源が多くなって逆差別とも言えるほどに、手厚く地方交付税が配られています。ここに、地方交付税の問題があります。




 地方交付税のこの配り方には、自治体の歳出削減努力を阻害する誘因が内在しています。例えば、地元住民は必ずしも欲していないが基準財政需要額に算入される港湾の建設費があったとします。そこで、自治体はこの港湾の建設費を削減するという改革に取り組んだとします。しかし、削減すれば、基準財政需要額はその分減少し、基準財政収入額が変わらなければ財源不足額は減って、もらえる交付税が減ってしまうのです。せっかく歳出削減に取り組んだのに、その分交付税収入が減れば、結局財政収支は改善しません。このように、交付税をより多く得るために、基準財政需要額に算入される経費を積極的に削減しない傾向があります。

 また、地元経済を活性化して税収を増やそうと、積極的に思わない誘因もあります。もし地元経済の活性化に、真剣に取り組んで、首尾よく(税率を上げなくても)税収が増えたとします。そうすると、見込みの税収である基準財政収入額が増え、基準財政需要額が変わらなければ、その分だけ財源不足額が減って、もらえる交付税が減ってしまいます。税収が増えたと思ったら、もらえる地方交付税が減ってしまうので、積極的に地元経済を活性化するやる気をそいでしまいます。


問題の核心は個人の所得格差

 このように、税収格差を均すことが期待される地方交付税の仕組みは、うまく機能していない結果に終わっているのです。地方財政のさらに詳しい仕組みについて興味のある方は、拙著『三位一体改革 ここが問題だ』(東洋経済新報社刊)を参照して下さい。

 では、どのようにすれば、税収格差を本質的に是正できるでしょうか。当然ながら、各地方での地元経済活性化の努力はその是正に貢献できるはずです。とはいえ、高齢者が多く、新規の産業振興が望めない地域もあるでしょう。そうした地域があることにも鑑みれば、先に述べたように、税収格差の主な要因が所得格差であることに着目することが重要です。


 そもそも、所得格差は、地域に根ざしたものではなく、個人の間にあるものです。所得格差を真に是正したいなら、個人単位で是正しなければなりません。その方法としては、累進所得税や社会保障制度といった仕組みが有効です。この格差是正は、地方交付税のような地域単位での是正ではうまくいきません。たとえて言えば、地方交付税をもらう沖縄県に住む年収1億円の人は地方交付税の恩恵を受けますが、地方交付税をもらわない東京都に住む年収200万円の人は地方交付税の恩恵を受けられません。これでは、格差を是正したことになっていません。

 地域間の税収格差を本質的に解決したいなら、それは個人単位の所得格差をどう是正するかを真剣に考える方が、早道だと考えます。