そんな体験の全てが、無意識の領域で完璧なままの状態で有ります。
そして、その全ての体験を意識に上げるわけではありません。
もし無意識領域のすべての情報を、意識領域に持ち出すとすれば頭はパンクしてしまいます。
それは、人に何かを伝えるというコミュニケーションをおこなう場合も同じです。
私たちは、無意識領域から情報を取り出す際、「省略(削除)、歪曲、一般化」を知らず知らずにおこなっています。
それによって、ミスコミュニケーション等が発生します。
そして、そんなミスコミュニケーションが自分自身にもおきて、思い込み、制限や選択を狭めたりしています。
そんな状態を回避するために、NLPの初期モデルにメタモデルというものがあります。
「省略(削除)、歪曲、一般化」などによって、欠落した情報を質問によって復活させる技法です。
メタモデルを使った質問は書籍やWebで確認できると思います。
メタモデルの質問は、ある種の「突っ込み」です。
ですので、相手に使う場合は、慎重に気をつけないと、嫌がられてしまいます。
その上で、私は自分自身にメタモデルの質問をすることをお勧めします。
「あなたは、いったい誰?」の記事でも取り上げましたが、
人は、コミュニケーションする相手そのものを観る事ができません。
これは自分自身のフィルターが邪魔をするからです。
そのフィルターには、自分の価値観、信念、判断基準、様々なプログラムが作用して、
相手そのものを観るのを邪魔しています。
そこで、自分自身にメタモデルの質問を使って、フィルターの影響力を下げていくわけです。
それによって、「情報を収集する」、「言葉の意味を明確にする」、
「制限となっているものを発見する」、「選択を広げる」といった目的を果たすことができます。
これらにより、言語と体験を再統合することで、自分自身を見直すことに使うこともできます。
対人についても少し考えていきましょう。
『職場の人間関係で悩んでいるんだぁ』
さて、友人が、あなたに上記のような悩みを話し始めました。
さぁ、あなたは友人にどんなふうに声をかけましょうか?
メタモデルで、用意されている質問で考えてみましょう。
上記の友人の言葉には、メタモデルでいう「名詞化」された言葉が入っています。
「名詞化」とは、本来は動き(動詞)のあるプロセスを、あたかも動かない「モノ」(名詞)のように変えてしまうことを言います。
「名詞化」することによって動きを止めてしまうと、私たちは、前提として「変化出来ないもの」と認識してしまいます。
上記の例で言えば、「人間関係」が名詞化された言葉です。
「人間関係」が完全にモノ化されています。
モノ化された言葉は動かしようがありません。
自分から離れた言葉は、自らの制御を失い、独立して存在しはじめます。
そこから抜け出すには、名詞化されたものをメタモデルによって再び動きのあるものに戻していきます。
「人間関係」は「人と関係を持つ」です。
そこで、『誰が、何について、どのような関係を持っているんですか?』と質問すると、固定化したものが動き出すかも知れません。
この「名詞化」はメタモデルの「省略」に属するものです。
もう少し詳しく「省略」について考えていきましょう。
私たちの体験を言葉にする場合、多くのことが「省略」されます。
それをメタモデルを使って、欠落した情報を取り戻すのが目的になります。
昨日、私は水族館に行ってきました。
さぁ、それをあなたに伝えようとします。
私は、せいぜい5~10分ぐらいの情報として、それをあなたに伝えます。
実際には、水族館には4時間程いました。
4時間も、長々と話を聞かされては、あなたもまいってしまいます。
私は、実際に体験した多くの情報を省略(削除)して、あなたに伝えました。
もう一つの例を上げましょう。
「隣のおじさんが、ぶつかって、凄い血が出ていたよ」と、あなたに伝えます。
それを聞いた、あなたは交通事故でも起こしたかと思います。
ここでも、多くの情報が省略(削除)されています。
隣のおじさんは、よそ見をして歩いて、振り返った時に電柱にぶつかって鼻血を出しただけでした。

このように私たちは、コミュニケーションをするにあたって、実に多くの情報を省略(削除)しています。
そして、上記の隣のおじさんの話のように、省略された言葉は相手に空白を与え、相手自身で埋めなくならなくなります。
そこで、本来とは違った解釈で体験が伝わってしまうと言うことをご理解いただけたかと思います。
私たちの日々の体験は、無意識領域の格納庫にしまわれていきます。
その格納庫には、体験そのままが存在しています。
そして、それは非言語の領域でもあります。
それを、意識の領域に上げる為に、言葉を使います。
非言語の領域のことを、言語の領域にあげる。
そこで、「省略(削除)」、「歪曲」、「一般化」がおきることをお伝えしてきました。
その影響によって自他におけるコミュニケーションで不具合が起きてしまっています。
そこでメタモデルを使ったアプローチで、その不具合を回避していきます。
次は、メタモデルの「歪曲」についてです。
「歪曲」は、人それぞれのフィルターによって起きます。
「思い込み」と言ってもいいでしょう。
事実を、思い込みによって変えてしまうことが原因になります。
メタモデルの「歪曲」の基本パターンの一つに「等価の複合観念」というものがあります。
例えば、
「肩を落として、何か心配事でもあるのか」
「そんなに気が弱くて、営業が勤まるのか」
肩を落とす=心配事
気が弱い=営業できない
このように、本来は異なる二つの事柄を、イコールで結んで一つの意味にしてしまいます。
X=Yと言う表現で表すことです。
「等価の複合観念」をメタモデルで崩すとなると「どうしてXがYを意味するの?」という質問が有効です。
このような質問をすることにより、「X=Y」を切り離すことができます。
ここまでメタモデルのうち「省略(削除)」、「歪曲」をみていきました。
次は、最後の「一般化」です。
私たちの脳の性質の一つとして、物事をシンプルに扱う傾向にあります。
それによって「部分を全体に繋げる」という「一般化」がおきます。
例えば、「みんなが、そう言っている」、「みんなが持っている」、
「ここにあるモノすべてが悪いんだ」などなど、「みんな、すべて」は代表的な「一般化」でしょう。
また、「できる、できない」と言う表現も「一般化」です。
これは、「可能性の叙法助動詞」と言われるもので、
これに対する質問として、メタモデルでは「As If フレーム」があります。
つまり、「もし、できたとしたら」です。
この質問により、自分で勝手に決めたしまった限界点を崩すことが可能になります。
メタモデルに限らず、NLPでは「As If フレーム」を良く使います。
これを使って、「できたら」と仮定してシュミレーションを行っていきます。
未来ペーシングなんかもその一例でしょう。
今、自分の置かれている状況を見回して、限界点を創っているものがあれば、
「もし、できたら。。。」と質問してみることにより、思いがけなく解決することもあるでしょう。
こちらの例では、メタモデル的アプローチから外して視点異動をおこなっています。
「本当にやりたい仕事ではないのですが、この仕事を辞めるわけにはいかないんです。」
この例文は、メタモデルの「一般化」に含まれる基本パターンの「必要性の叙法助動詞」です。
「~しなければいけない」、「~してはいけない」、「べき」、「べきでない」などが、それにあたります。
質問パターンとしては「もし、そうしないとどうなる?」、「もし、そうしたらどうなる?」といったものがあります。
上記の例文に対する質問は、
「もし、その仕事を辞めたとしたら、どうなる?」です。
すると、こう答えるかも知れません。
「経済的に不安定になる。」
で、ここで会話が終ってしまうと、メタモデルの質問をした意味がありませんね。
では、次にどう繋げていきましょうか?
答えには、名詞化も含まれていますが、あまりメタモデルの質問で突っ込みすぎると尋問になりかねないので、注意して下さい。
ここでは少し、メタモデルから離れて別のアプローチをしてみます。
相手は、今の状況にどっぷり使っていますね。そうです、アソシエイトなんです。
そこで、相手をディソシエイトの状態にもっていってはどうでしょうか?
今回は、時間軸を伸ばしてみましょう。
「経済的に不安定になると、思っているんですね。
(まずは、ペーシングします)
そして、ちょっと想像してみてください。
今の仕事を続けていくと、2年、3年、5年、10年と時が経つと、
その時、○○さんはどんな感じになっているんでしょうか?」
辞める、辞めないは別にして、このような質問をすることによって、
選択肢が増えたり、動機付けを変えたりすることって可能だと思いませんか?
(関連記事:「~しなければいけない」、「時間を使ってディソシエイト-1」)
次は、メタモデルのメタモデルの「読心術」(マインドリーディング)について。
「あの人は、仕事に対してやる気が無い」
「彼は、私のことを嫌っている」
「どうして、こんなことも分かってくれないの」
「どれだけ、一生懸命にやったのか知らないの」
人の心の中を勝手に読んで決め付けている言語パターンです。
日常会話の中にも、この読心術パターンが多く出てきます。
メタモデルの質問パターンとしては、「一体どうして、それが分かるの?」です。
もちろん、日常会話で、これ使いまくってしまうと、
話も進みませんし、相手もめんどくさくなって、あなたと話してくれなくなるかも知れませんね。
そして、私たちの内的世界も、こうした読心術を使ったイメージで様々な前提を創り上げています。
「現れたシャドー」という記事の中でも、お伝えしました「投影」(プロジェクション)という概念があります。
これは自分が思ったり感じたりしてることを、無意識のうちに相手に映し出してしまうことです。
それによって、相手がある感情や考えを持っていると感じてしまいます。
更に、読心術による誤った情報がどんどん巨大化して、自分から離れて得体の知れない怪物になってしまう場合もあります。
被害妄想やストーカー行為も、こうした心理的プロセスを通して生まれてくるのかもしれません。
自分自身でディソシエイトすることに気づけば、離れた所から自分自身を見て「一体どうして、それが分かるの?」と質問してください。
もし周りで苦しんでいる人がいれば、ディソシエイトできるあなたが、メタモデルの質問で助けてあげることができるかも知れません。
その際、NLPでいうところのラポールが出来ていることが必要です。
時には、どれだけ読心術から得た情報をもとに、あなたの内的世界の地図を創っているかを探ってみると、気づきが生まれるでしょう。
ここまででメタモデルを通して、体験を言葉に変える難しさを知っていただきました。
NLPの基本前提の一つに「地図は領土ではない」(The map is not the territory)というものがあります。
もともとは、アルフレッド・コージブスキーが一般意味論の中で唱えた考え方が始まりのようです。
「人は言葉で世界を認識しているが、
その言葉がさまざまな変形を受ける性質をもっており、
それが世界認識を歪める可能性がある。
私たちには、言葉が変形しているかもしれないことへの”気づき”が大切」と、コージブスキ ーは語っています。
「地図は領土ではない」を言い換えると「言葉は体験ではない」です。
メタモデルの記事などでお気づきのように、
体験そのものを私たちは言葉として表しているのではありませんでした。
体験したものを「省略・歪曲・一般化」を使って、言葉にしているのでしたね。
私たちは、「領土」そのものではなく、「地図」として意識に表しているのです。
体験を認識するのには、私たちは五感を使います。
五感を使ってインプットします。
その際、意識に上がる以前の感覚、つまり頭の中で言葉になっていない感覚を「一次的体験」といいます。
そして、その感覚が意識で、思考として言葉になることを「二次的体験」といいます。
この二次的体験では、「省略・歪曲・一般化」がおきます。
一次的体験では、比較的事実に近いので「領土」と言えるでしょう。
二次的体験では、変化を受けているので「地図」となります。
「地図は領土ではない」
このことから判ることは、私たちは「観ている」ものそのものを伝えることは出来ず、
目の前にあるものについての感情を伝えているに過ぎないのかも知れません。