第８章 絵に描いた餅
第４８話
翌朝、政春とエリーは両親の部屋に出向いた。
そして、二人の決意を伝える。
この家に帰って来てこようかと思う。
酒蔵も自分が継いだほうが良いわけだし、
千加子もその方が良いと言う。
生まれてくる子供のためにも、そうした方が良いと話す政春。
すると政志は、ウイスキー造りは諦めるのかと言う。
エリーも政春の夢ために、日本までついて来たのではないかと問う政志。
そして、子供にかこつけて逃げるなと怒った。
まさか、反対されるとは思わなかった政春は、
早苗に同意を求める。
すると早苗は、良く決心したと言う。
しかし、一人で戻って来い、エリーが一緒なら大阪へ帰れと言い、
さっさと部屋を出て行ってしまった。
政春がエリーと別れるはずがない。
それは早苗も良くわかっている。
その上で、政春を大阪に帰らせようとしたのだ。
そして政志は、
政春に蔵を手伝わせたのは、跡を継がせるためではないと言う。
人生は、思いどおりにならないことが良くある。
頭で考えてもどうにもならない時は、
身体を動かすことが良い、そうすれば道も見えてくると政志は話した。
そのために政志は、腰の痛いふりをしたのだった。
まだ見えないのなら、もう少し汗をかけと政志に言われ、
政春は蔵に行き、俊夫に頼んで木桶の仕込みを手伝わせてもらった。
一日中、汗をかいて働いた政春。
夜になり、後片付けをしながら、政志との相撲を思いだす。
政春は自分に苛立ち、「くそー！」と叫ぶのだった。
するとエリーがやってきた。
政春は、汗をかいて仕事をすればするほど、
ウイスキー造りで汗をかきたい。
こんな中途半端な自分では、子供が生まれても、
合わせる顔がないとエリーに話した。
エリーも、今日一日、子供が生まれた時のことを考えていた。
エリーは日本に来て、確かに悔しい思いもした。
しかし、いつも政春が傍にいて支えてくれた。
だから子供が生まれても、政春がいてくれさえすれば大丈夫。
一番大切なのは「LOVE」自分たちが愛してあげれば大丈夫だと言った。
だから安心してウイスキーを造って欲しいと言うエリーに、
政春は感謝し、嬉しく思うのだった。
こうして二人はまた、大阪に帰ることとなった。
旅立ちの朝、
もう二度と顔を見ることはないと言う早苗は、
エリーに、女中の給金だと言って封筒を差し出した。
それを断ろうとするエリーに、
自分は女中に、ただ働きをさせるようなケチな女ではない。
その甲斐性なしと別れて、国へ帰る時の旅費にとっておけと睨んだ。
「お母さん」と呼ぶエリーに、
自分はお母さんではない、馬鹿息子とも二度と合わないから、
早く出て行けと言った。
そんな早苗にエリーは「はい、また来ます」と言い、
政春とともに、亀山家を後にした。
二人が旅立ったあと、亀山家ではいつものように昼食を食べていた。
千加子は早苗に味噌汁の味はどうかと訪ねる。
早苗が、いつもと同じだと言うと、
エリーが作った味噌汁だと千加子は言った。
すると早苗は驚いたが、
どうりで美味しくないと言うのだった。
その頃、政春とエリーは、
「酛擂り唄」を歌いながら歩いていた。
そして、今度帰って来る時には、
ウイスキーを持って来ようと誓うのだった。
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