日本に生息する毒蛇と知られるヤマカガシだが、2種類の毒を持つというのだ。牙に持つ自らの毒に加え、毒蛙を食べて蓄積する毒があるというのである。後者の毒で、休憩時もより強い動物から食べられないようにしているようなのだ。個人的にはpoisonとvenomの区別もほぼついていなかったので、新鮮な知見となった。
ヘビの一種であるヤマカガシは、実に変わった生き物だ。数百万年にわたる進化は、動物界で他に類を見ない防衛機構をこのヘビに授けた。
ヤマカガシは、皮膚との接触や食べることで人間に悪影響を受ける毒(ポイズン)と、牙などで体内に注入されることで悪影響を与える毒(ベノム)の両方を持つ。2つの用語は同じ意味で使われることもあるが、生物的な意味は異なる。人間が食べたとき病気になる動物はポイズンを持ち(poisonous)、噛まれたときに病気になる動物はベノムを持つ(venomous)。
厳密な定義はもっと細かい。学術誌のToxiconに掲載された2015年の論文によると、ポイズンを持つ動物は毒性の化合物を体内で生成、あるいは外部から取り込み、体内に保存、蓄積することによって、捕食者や寄生生物を撃退するための受動的な防御機構を構築する。
ヤマカガシの場合、毒を持つカエルを食べることによって、毒を獲得する。具体的には、そのカエルが生成したブファジエノリドという猛毒(房室ブロック、心拍数低下、頻脈、さらには心停止を引き起こす)を安全に摂取できるように進化し、その毒を自らの防御目的のために蓄積するのだ。
研究によると、ヤマカガシは蓄積した毒を頸部にある毒腺から分泌し、休憩しているときでも捕食者を寄せ付けない。この毒による防御は、ヘビが体力を温存するために静止している低温下では特に重要だ。
ヤマカガシは、上顎の後方に毒牙を持つ後牙類の毒蛇だ。一般に、前牙類の毒蛇(毒の蓄積量が多く、より効率よく獲物に毒を送り込める)の方が後牙類よりも危険だと考えられているが、後牙類の毒蛇にも独特の危険性がある。
Journal of Toxicology誌に掲載された研究は、日本における1917年以降29件のヤマカガシによる咬傷例を報告しており、死亡例は稀だった。ヘビによる咬傷のほとんどは、自宅、野外あるいは路上で日中にヘビを捕まえようとした男性によるものだった。毒物が注入されると、噛まれた場所からの持続性の出血、歯茎からの出血、血尿、斑状出血、血液凝固作用への異常などの症状が起きる。