第11章:ハート博士からの更なる反論 | 赤ちゃんわんこの超かわいいこいぬさん、大学時代の卒業論文を掲載!!

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<ハート博士による雑種形成実験の更なる批判、そして、免疫系>

2009年のPNAS誌でウィリアムソン博士の芋虫幼虫の起源をカギムシからの幼生転移とする考えを、同誌で全面否定したハート博士は、フランク・ライアン氏の"The Mystery of Metamorphosis"が発刊されてからも、博士の仕事を痛烈に批判した。

 

彼は、Reports of the national center for science educationの2012年3-4月号で、"Extraordinary scientific delusion about metamorphosis"という題で、幼生転移仮説は妄想に過ぎないと主張している。

 

雑種形成実験については、全体的に孵化後の成功例が少なく、彼からすれば同種の卵のコンタミネーションやウニの精子ゲノムによるホヤの発生からウニの発生への再プログラム化があっただけに過ぎない、スケッチが多く、写真が少ないのも疑わしい、と述べている。また、以前述べた球体状の幼生については、珪藻の集まりか他の海生動物の集まりで、死んだウニの幼生を食べて成長したものではないのか、とも述べている。(ただし、具体的にどのような動植物なのか、代表的な文献の引用はない)

 

加えて、雑種幼生の発生過程についても、ホヤの卵は複雑な細胞層と細胞外のコートでおおわれていて、初期胚とオタマジャクシ幼生はこの胚外の層の内部にいる。発生における細胞分裂のパターンも、ホヤとウニとでは非常に異なり、ホヤでは大きな中空を欠く組織や器官を形成する。そのため、オタマジャクシ幼生は機能的な消化管を持たず、食事ができず、繊毛を回転させて泳ぐこともできない。しかし、博士のウニの卵は単純な非細胞のコートしか持たず、初期胚は細胞分裂して丸い細胞からなる多細胞であり、嚢胚になり、繊毛を持ち、孵化前の受精卵の中で幼生が泳いでおり、孵化後は外部へ出ていく。消化管も最初から形成されている。また、博士の雑種のホヤは、ホヤというよりはウニの発生を示している。ホヤ的な発生とウニ的な発生の境界線が不明瞭だし、二種の発生が組み合わさった変態はどのようなものなのか、もわからない(例えば、卵割期のホヤからホヤの層に囲まれた中空のウニの嚢胚へと発生が進む、といった具合のもの)。雑種の“変態”なるものは、百歩譲っても筋肉質のオタマジャクシ幼生が繊毛を持つウニに発生する、といった風にしかとれない。

ハート博士は幼生転移を全否定しているが、雑種=個体発生が足して2で割ったように混合するのが通例だ、というような反論は、賢明ではないと私は思う。しかも、本段落の前半は、主語がホヤかウニのいずれかが間違いで、意味が通らない。何度も原文を読みなおしたが、前記の内容であった。

 

本批評で、ハート博士に同意することはできない。彼は幾度も批判をしているが、一度として忠実に実験を試みた情報はない。付き合えるのは、百歩譲って、一箇所だけである。それは雑種形成実験やフランク・ライアン氏の著書に関するものではなく、2011年のSymbiosis誌に掲載しようとして撤回になった総説である。無論、幼生転移仮説に関するものだが、彼が言う通り、目新しい内容がなかったのである。この経緯は不明だが、幼生転移に情熱を抱く私が擁護のために言えることは、「より多くの人に知ってもらいたいと焦った」のではないだろうか。博士も老境に入っており、あと半世紀以上生きるとは本人も思っていなかっただろう。それで、共生に関して伝統ある専門誌で持論を展開したかったのだろう。

 

博士は、幼生転移仮説の証拠として、免疫系を取り上げている。Cell. Dev. Biol.誌の1巻6号"Introduction to Larval Transfer"にて、完全変態を営む昆虫の芋虫幼虫の免疫について述べている。芋虫の段階で免疫系が破壊されるので成虫原基を作る細胞は生存でき、成虫原基が出来上がるのである、と。続けて、芋虫幼虫はカギムシを起源とするのであり、蛾のコバネガMicropterixの芋虫が最も類似しているからその祖形、すなわち幼生転移初期の姿であるからこの考えは間違いなく、それゆえ、芋虫幼虫のゲノム=カギムシのゲノムといえる、と述べている。すなわち、芋虫の免疫系=カギムシの免疫系であり、成体の祖先のパラサイトである。ゆえに本来は攻撃される立場にある、というのである。複数の幼生や蛹の段階があれば、各々の免疫系がある、と考えているようだ。

 

博士は、American melid beetle : Epicauta vittataを例に挙げている。この昆虫は、以下のように複数の幼生と蛹の段階を経る。

 

  幼生または蛹の段階     対応する動物(幼生転移の起源)

①dipluran larva     :     triungulin

②caraboid              :         carab beetle

③pseudopupa           :         coarctate larva

①scarabaeoid larva    :         scarab beetle

 

ただし、無脊椎動物の幼生には、少なくとも獲得免疫のような情報については、私自身は発見できていない。

 

使用文献

Extraordinary scientific delusions about metamorphosis : Frank Ryan’s “The Mystery of Metamorphosis” Michael W Hart, Richard K Grosberg著 Reports of the National Center for Science Education March-April 2012年

Larval genome transfer : hybridogenesis in animal phylogeny Donald I Williamson著 Symbiosis DOI 10.1007/s13199-011-0106-6 2011年

Introduction to Larval Transfer Donald I Williamson著 Cell & Developmental Biology 2012年 (http://dx.doi.org/10.4172/2168-9296.100108)