路面店、特に百貨店やショッピングモールなどに入っていない店舗の人間関係は非常に狭い。
ゆうきの働く路面店もかなり独立性の高い立地となっており、狭い狭い世界の中で毎日が繰り広げられる。
狭い人間関係の中だからこそ、気遣い、心遣いをしっかりして良好な関係を築きたい、と思うのは特殊なことなのだろうか。
ゆうきは、げんなりしていた。
ゆうきの働く店のメンバーは4人。
店長のコウジとサブと呼ばれる美人副店長の馬場と年下なのにやたら落ち着いているダイスケだ。
たった4人しかいないこの中で、あえて関係を悪くしようとする女、馬場にゆうきは腹を立てていた。
7月。
メンズアパレルにとっては一番忙しい時期ともいえる。
サマーセールが始まって、どこも活気に満ち溢れていた。
ゆうきの店以外は。
ゆうきの働く店は、セールはファッション性が高い旗艦店なので、ほとんどセール品はおかない。
そのため、今日なんて日は、もう1客取れるか取れないかぎりぎりな訳だ。
ゆうきが休憩から帰って来ると、見たことのあるお客様がいた。
「あ、こんにちは~!いらしてたんですね!」
その方は、数日前に接客したお客様でサイズがなかったので取り寄せをしていたのだった。
「こんにちは、こないだはありがとうございました。
サイズ、ちょうど良かったので買わせてもらいましたよ!」
「ありがとうございます!!」
「とてもお似合いでしたよね」
と、馬場。
ゆうきがいない間に馬場が接客をしてくれていたのだ。
「先ほどご紹介させてもらったシャツや、ハーフパンツなどと合わせると今からの時期にぴったりですので、ぜひお試しくださいませ」
「あ、うん、そうだね。あれ、良かったね」
話を馬場に持って行かれ、ゆうきは何となく話の輪から外れてしまった。
「次回お越しの際には、ぜひ♪」
「そうだね、もうすぐボーナス出るからそしたらまた来るよ」
「お待ちしております。
私、副店長の馬場と申しますので・・・」
馬場は名刺を渡して挨拶をした。
お客様はニコニコしながら帰って行った。
「馬場さん、ありがとうございました」
「いえいえ。良いお客様でしたね!」
その後、馬場は休憩に。
ゆうきは、レジを見てびっくりした。
馬場は、あのお客様の売上をしっかり自分につけていたのである。
取寄せ伝票もしっかり書いて、入荷連絡もきっちりして、それを取りに来たお客様の売上を横取りするなんて、ひどすぎる!!!
たった4人しかいない店で、どうしてそれがばれないと思うか?
どうしてやっていいと思うか?
やられた方はどう感じると思うのか?
「やれやれ、信じられないなぁ」と、ダイスケ。
「ダイちゃん、なんなの?あいつ!!」
ゆうきはムカついて仕方ない。
「まぁ、運が悪かったよねぇ。」
「百歩譲って、他にセットが付いたなら売上あげても仕方ないかと思うけど、私が承った商品単品売りだよ!?
あれだけしれっと大胆なことできるって、どういう神経してんの!?」
「やりかえしちゃえばー?」
「私、無駄な争いは嫌いなんだよね」
「おれだって」
「普通の店だったら、正しい販売員コードで登録しなおすけどね」
と、ダイスケ。
しかし、ゆうきが働いてる店はシステム上、返品登録が難しい。
販売員コードを登録しなおすということは、返品レシートを作成して、もう一回売り上げを立てるということなのだが、そうするとお客様のクレジットカードが必要となる。
内部の事情でお客様に迷惑をかけるようなまねはできない。
「今回は、あきらめな」
「ちっくしょ~、今日坊主だよ~~!!」
「おれもだよ、この時期は仕方ないって」
坊主とは、売上がゼロってことである。
「まぁ愚痴ってないで直接文句言えばいいじゃん?ゆうきさーん」
「一応、上の立場の人だし先輩だし言いづらいんだよなぁ」
「ちきーん」
「けっ」