会話をしてみると、彼女は確かにあの頃のままだった。
どこか遠慮がちで、僕の顔色をうかがうように言葉を選ぶ。
ただ、時折見せる鋭さは相変わらずで、油断すると容赦のない一言が飛んでくる。
「ほんと、あの時と全然変わらないね」
そう言われて、僕は苦笑いするしかなかった。
――いや、変わったのは君の方だろう、と心の中で呟く。

それでも「可愛くなったね」と言ってみた。
彼女は、少し照れたように笑った。
その笑顔に、懐かしさと少しの哀しみが混じっていた。
たぶん、彼女なりにこの日のために整えてきたのだろう。
努力の跡は見えた。
けれど、何か根本的なところが置き去りにされているようにも感じた。

正直に言えば、彼女はもう僕のタイプではなかった。
でも、そういうこととは別に、彼女の存在には不思議な吸引力があった。
長い時間を経て、ふたたび同じテーブルに向かい合っている――
その事実が、現実と過去の境界を曖昧にしていく。

彼女の話を聞きながら、僕は何度も昔の記憶をたぐり寄せた。
放課後の廊下の匂い。夕暮れの教室の影。
あの頃の僕は、彼女の言葉ひとつで一日中浮かれたり沈んだりしていた。
いま思えば、無垢で、愚かで、どうしようもなく真剣だった。

「ねえ、あの時さ」
彼女がグラスを指先で転がしながら言った。
「どうして私、あんな風に別れたんだろうね」

僕はしばらく考えてから、
「たぶん、僕らには“別れた”っていうほどの関係がなかったんだよ」
と答えた。

彼女は少しだけ笑って、
「そうかもね」と言った。
その笑みの奥に、長い年月の重みが見えた。

外は冷たい風が吹いていた。
ガラスの向こうを、誰かの傘がゆっくりと通り過ぎていく。
その瞬間、僕は不思議な安堵を感じた。
たぶん、僕たちはようやく「昔」に追いついたのだ。