宿の近くに、小さな居酒屋を見つけた。
白い暖簾がゆれていて、入口からはいい匂いが漏れていた。
中に入ると、4人掛けのテーブルがいくつか。
その中央には小さなコンロが用意されていて、火がちろちろと灯っていた。
注文した魚や野菜を、自分たちで炙って食べるスタイルらしい。
なんだかそれだけで、ちょっと特別な夜の気がした。
🐟 火の前で黙々と、けれど楽しい
メニューには、金目鯛の干物、しいたけ、エリンギ、はんぺんなど、
どれも炙るとおいしそうなものが並んでた。
とりあえず「おまかせセット」を頼んで、彼女はお酒、僕はジンジャーエール。
焼き加減は完全に自分たち次第。
焦げそうになっては箸でくるくる返して、
「ちょっと焼きすぎたかも」「いや、それがうまいんだよ」と笑い合いながら食べた。
彼女が焼くのに夢中になっているときの横顔を、
なんとなく見ていた。
火の光って、顔を少しだけやわらかく見せる。
🍶 ひと口ずつ分け合って、少し酔って
彼女が「これ食べてみて」と言ってくれた焼きしいたけがすごくうまかった。
彼女は「魚のほうが好き」と言って笑っていたけど、
たぶんそれは、ふたりで分け合って食べたからだ。
気づけばグラスは空になっていて、
「もう一杯いく?」って聞いたら、彼女は「うん」と小さくうなずいた。
旅行の夜だけは、ちょっと酔ってもいい気がする。
🌸 桜と、川の音と、つないだ手
お店を出たあとは、ほろ酔いのまま宿まで歩いた。
途中、小さな川沿いに咲いていた夜桜が目に入って、
「見て見て」と彼女が手を引いた。
ライトアップされた桜は、
昼間とはまったく違う表情をしていて、風に揺れるたびに影が地面にうつる。
ふたりで写真を撮って、
「ちょっと寒いね」と言いながら、自然と手をつないだ。
🔥 焼きながら食べる時間って、ちょっと特別だ
料理を自分で焼くって、ただの“食べる”よりも楽しい。
一緒に火を見つめて、一緒に待って、一緒に食べて、
それだけで、なんとなく“チーム感”が生まれる。
旅の夜にちょうどいい、そんな居酒屋だった。


