先日私がナースプラクティショナー(アメリカでいう格安内科医)の仕事の派遣会社から、新しく入社する可能性の医者のトレーニングを要請された。留置所で働いている医療関係の中には看護師のように郡から直接雇用されている人材がほとんどだが、医者、私のようなナースプラクティショナー、PA(physician's assistance)という医療関係、役割、責任、勤務内容は全くこの三者に相違はないが医者が2倍以上の時給だ。この三者に関しては派遣会社雇用が半数又はそれ以上占めている。私もその一員だ。しかし日本の派遣会社雇用は私の想像だが期限付きが多いイメージがあるが、この郡立留置所の場合に関しては無期限の派遣会社雇用である。

ベテラン医者、ナースプラクティショナー、PA(physician's assistance)は当然派遣会社雇用より群直接雇用の者が多いのだが、群直接雇用のこれらの医療関係者は柔軟性のあるスケジュールの要望がかなったり、時給も悪くない派遣会社雇用の者に反発を持っているのと、余計な仕事はやりたくないという理由で、派遣会社からの新入社員のトレーニングを正規雇用者は拒んだりする。私が入社(というか入置)仕立ての時、トレーニングを拒まれ、自分で見様見真似で仕事を覚えたといっても過言ではない。でもそれにも慣れている。

このドクターMを事前にネットで調べたところ、40代のロン毛だった昔のブラッド・ピット風をちょっとレゲェミュージシャン風にした白人の医者らしくない風貌。この方はネットでは開業医という風の印象だったが、実際に会って話を聞いたら病院に雇用されている内科・小児科専門医らしい。派遣会社を通じてドクターMに指定の場所に時間通り待ち合わせに現れるようにと言ったが、そこはアメリカ。15分の遅刻。まあその位は慣れている。おそらく日本人は世界で稀な時間厳守の人種だろう。

ドクターMは会って気さくに握手を私に求め、下の名前で呼んでくれと言ったが、それは医療の世界では通らないから引き続きドクターMと呼んだ。遅れたことに関して謝罪は無し。きっと心のどこかで役割は全く同じだが学歴が医者より低いナースプラクティショナーというのを馬鹿にしているのか、それか遅刻当たり前の人種のため罪の意識など微塵もないのかもしれない。

彼の風貌についてもっと話そう。通常医者、ナースプラクティショナー、PAはほかの医療従業員(看護師、技術者)と区別がつくように、白衣を着る。しかしドクターMは危うくは囚人と間違えられかねない上下同色の青みどりっぽい、スクラブ(今日本語でスクラブ以外何というか検索中だが、スクラブとは通常上下お揃いの医療関係の仕事の者が着るユニフォームの様な服装だ)を着て現れた。その上髪型も写真よりどちらかといえばホームレスっぽい、レゲェ風の一部ドレッドヘア風。

留置所では収容人も上下同色のスクラブを着ている。青、オレンジ、黄色、茶色、薄緑によって一般棟、独房、精神科棟、病棟、などによって色別されているため、憲兵などと違ってユニフォームの無い医療従事者のスクラブは黒か白と一応規則付けされているがそこがアメリカ。ルール無視。それに反するものがほとんどだ。でも規則には理由があるのだ。

ドクターMはもちろん注意事項はここに来る前のオリエンテーションなどで知っているはず、でもこの種の自由奔放の人間は規則を守る気はないだろう。それに一応権力の頂点に立つ医者である。なおさらである。まあいいけどね。ただ留置所では最初は言われた通りの服装ちょっと大事。収容人と間違えられて暴行される可能性を減らすことだけでも。まあこの種の自由派は運に任せる人生観だからリスクは考慮しないんでしょう。この種の人間自分的には好きです。楽観的な考えで一般的心が広い。でも空気は読む気がないし、読まない、読めない。何か自分に似ている。几帳面な性格の日本の方は私のようなアメリカでは普通だが自由奔放人間にはイライラする時が多いらしい。

私は2年足らずの留置所勤務だが、ナースプラクティショナーのインターンの師匠も任された。このような行為に役立つように、ドクターMにももともとは正規医療従業員放棄されたトレーニングのため自分に作った仕事マニュアルがある。これを彼の為に事前に印刷して用意した。

ドクターMは私の予想通り、気さく、話しやすい、自分が医者だとふんぞり返った態度はしない、しかし服装規則を守らなかったため、看護師などに囚人の一人だと思ったとからかわれた。すべての医者が物覚えがいいとは限らないが(ジジババはコンピューターの扱い方、メールの見方とかの物覚えが悪い時があるというか常に下の者にやらせたり、その都度聞くつもりだから、覚える気がないケースも少なくない)、彼は仕事を早く覚え、収容人への偏見もなく、仕事のこなす速度も適切。つまりこのような平常ではない仕事場に適している。

私がこの仕事は急かされず自分のペースで仕事ができ、留置所特融の薬物、アルコール禁断症状、逮捕時などの外傷、留置所でほかの囚人から受けた暴行の顔面骨折(鼻など)、ホームレス人口がほとんどなので放置された化膿した傷、時折の虱(シラミ)などなど。お決まりの所見などで簡単でしょう?とドクターMに促したところ、外(普通の医院での所見など)の方が全然楽だと言ってこの職場に関してそれほど良い印象を受けなかった様子だった。他の部所に興味があるようだった。臨月寸前の奥様と相談すると言っていたが、それはおそらく社交辞令で

少なくとも私管轄の部所には興味がなさそうだ。

それにその日に限って彼が一番嫌いなことという出来事が起きた。彼は病院などで一番嫌いなことは看護師だとか自分より下の医療従業員が自分の患者決めた患者の治療とか検査に口を出す。今日まさにそのようなことが起きた。彼にも一応患者を10人ほど担当させた。その患者の一人で自殺行為の可能性(どうせ囚人は口だけだが)があるとソーシャルワーカーが判断した。数年前に頭を打ったこともあり、この患者は病棟に入れるべきだと主張する。私もドクターMも医学的には問題ないので、病棟に入れる必要はないと主張。ソーシャルワーカーは私達の決断に不満で私達は間違っていて後から後悔する、自分たちの決断を正当化することを書いたほうがいいとか、このケースに関して自分の上司にメールするなど、パワハラ?らしき能書きを垂れた。私とドクターM'はどうぞご自由にと言った。その後その件に関してはメールは来なかった。こう言っては何だがソーシャルワーカーより医学知識はナースプラクティショナー、と医者の方が上で、単に自殺行為の可能性と過去の脳のけが(それも外傷形跡ないから嘘の可能性がある)。ソーシャルワーカーごときでよく私達に対抗しようとその度胸は買ってやろう。しかしこのようなケースの収容人を病棟に送ったら今度は病棟から私達の判断が適切ではないと中傷され、結局この収容人は棟を再度検討と戻されるのが関の山。

このソーシャルワーカーとは前日も私とすったもんだやったのだ。彼女が収容人たちの希望を受け取りそれを味方になって私達と戦うことははたから見ればえらいかもしれないが、囚人はあれやこれやの嘘を並べ、いかに自分たちが比較的暴行されにくい棟に入れてもらうのが目的だ。それに騙されないのが私。全く人様の税金で比較的安全そうで居心地よさそうな棟に入れてもらおうなんて図々しいにもほどがある。それをまともに受けるソーシャルワーカーにもこっちは付き合っていられない。あまり留置所を居心地のいい場所にするとますます人気が出て皆様留置所に入る目的で犯罪を犯してしまう。すでに90%の収容人がリピーターだ。90%がホームレスでもあるから、猛暑、極寒時期は留置所大人気。私達も大忙しです。全く三食昼寝つき、冷暖房完備、無料医療、の民宿と勘違いしているらしい。だから必要以外の収容人の要望には私は答えない。留置所はもうすでに至りつくせりなのだ。

日本の皆さん一度は留置所へ入っては?私が日本語でお世話します。