コードネームは即ち、その者の有する能力――“指人形(ギニョル)”が促す効果を意味する。
〈死の舞踏〉を冠するエルザにとって、既に息絶えた死体を自由自在に操り人形のように駆使する光景はまさしく、コードネームのそれを意味していたわけだ。
かくして、〈皮剥ぎ魔〉によって斃(たお)されたスーツ姿の巨駆の男達は生ける死者と化してゆっくりとその身を起き上がらせると発条(ばね)の如く大地を蹴るや否や、一斉に〈皮剥ぎ魔〉に向かって踊りかかった。
生前の運動能力、否、人間の身体的能力と肉体的構造を遥かに凌駕した動きは、まさに人形そのものだ。
そんな不気味な屍者の軍団が頭上にいながらも、尚、背中を向けたままの〈皮剥ぎ魔〉。常軌を逸した異常さではひけをとらない。
「食い殺せーっ!!」
エルザの怨嗟に満ちた雄叫びに呼応するかのように、屍者達は次々と重なるように眼下の〈皮剥ぎ魔〉に襲い掛かった。
幾重にも重なった死臭漂う男達の下から漏れ聞こえてくる、何かを咬み、喰い破り、咀嚼する音――
その足元の床から赤い液体がゆっくりと流れ出し、既に男達の流した血で汚された床を新たに染めてゆく。
このまま、生ける屍者達の餌食となってゆくのか、〈皮剥ぎ魔〉と呼ばれた男は――?
「……意外と呆気ない幕切れ、ね――!?」
勝利を確信したエルザだったが、次の瞬間、視界にあり得ない光景を目にした。
生ける死者達が突然その巨駆を震わせながら、のけ反り始めたのだ。
その青白い両手は見えない何かを掴まんと宙を掻きながら、死魚の如く白く濁った両眼は恐怖を表現するかの如く、大きく不気味に剥かれていたのだ。
その首が突如、大きく膨らみ始めた。何かが胃の底から食道を通して上へと這い上がってゆく様はまるで、大蛇が鶏卵を飲み込む光景の逆再生そのものだ。
一度飲み込まれたはずが再び体内から這い上がってくるもの……
やがて、その口腔に何が覗いた。
一人の死者の大きく開いた口腔――顎が外れている状態の内側から、唾液の糸をひきながら何かが唇の端に絡みついた。
黒くしなやかな細いものが数本。それらは後から出てきた更に太く黒いものから生えていた。
肘までを覆う黒の長手袋に包まれた人間の左腕だ。
その隣の死者の口腔からは同じく黒の長手袋をはめた右腕、さらにその隣の男の口からはブーツをはいた女の右足、その後ろの奴の口からは左足らしきものが吐き出されつつあるのだ。
「………あれは……そんな……あり得ないわ……」
この異常事態に言葉を無くすエルザ。
それよりも、この女の視線の先に映る、あの死者の口から覗かせている人体のパーツ……
あれは、まさにエルザ自身のパーツだったのだ。
――だが、そんなはずはない。
じゃあ、あれらは一体……
その時だった。
(――どうだね?喰い殺された自分自身を観るのは……どんな気分かな?)
突如、エルザの脳内にあの男の声が金鈴の如く響き渡り、脳を穏やかに、そして冷たく揺すった。
――〈皮剥ぎ魔〉の声だ。