というわけで「クラシックにおけるトランペットのデメリット」について書こうかと思いますが、とりあえずそれには楽器の構造と成り立ちから説明したほうがわかりやすいですね。

 まずトランペットという楽器はこんな感じです。

世界征服の基礎はまず練馬から

 ぐるっと巻かれた円錐形の管に、「ピストン(バルブ)」と呼ばれる音程を変える機構がついています。トランペットを含む金管楽器が音を出す仕組みは、簡単に言うと「マウスピースで唇を振動させた音を増幅し、ピストンによって空気が流れる管の長さを変えることで音程を変える(管が長ければそれだけ音程は低くなります)」というものです。一般的なトランペットは3本のピストンを持ち、その組み合わせでドレミファソラシドの音階を作るのです。
 ここで皆さんも疑問に思われるでしょう。よく言われるのが「トランペットってピストン3本しかないのにどうして全部の音が出せるの?」というものです。その答えは「金管楽器は同じ指で複数の音が出せるから」です。先ほど「マウスピースで唇を振動させる」と書きましたが、その唇の緊張と息のスピードを変えると、音程を変えることが出来るのです。音は「周波数」で表すことが出来ますが、同じ指で出せる音は周波数の倍数の音程となります。たとえば「ド」を基準音とした場合、その倍音は「ド→(オクターブ上)ド→ソ→(オクターブ上)ド→ミ→ソ…」です。そしてトランペットはピストンの組み合わせでこの「基準音」を変えることで全ての音を出せるようにしているわけですね。ここまでが楽器の構造の話。

 そしてここからが成り立ちの話。トランペットという楽器の歴史自体はとても古く、紀元前には既に原型的なものがあったと言われています。そのためクラシック音楽の世界においてもかなり早い時期から使われており、バッハやヴィヴァルディなどバロックの大家の楽譜にも登場しています。しかし当時はまだピストンを作れるような金属加工の技術がなかったため、一定の倍音しか出せませんでした。せいぜい、ひとつふたつ穴を開けて音声を無理矢理下げ、倍音の狭くなる高音域でその間の音を補完するくらいしかできなかったのです(あまり穴を開けすぎると音色や音程への影響が大きく、役に立たなかった)。今のようなピストンを持った楽器が発明されるのは19世紀まで待たなければなりませんでした。それまでの間は「限られた音しか出せない楽器」だったのです。
 さて、一般的にいわゆる「クラシックの作曲家」として誰でも思いつくのは、モーツァルト、ベートーベンに代表される古典派からシューベルト、ブラームスらの前期ロマン派に分類される人たちだと思います。誰もがどこかで必ず聴いたことがあるだろう親しみやすく、美しいメロディを数多く生み出した彼らの曲は、21世紀の現在でも多くのオーケストラで演奏されています。そんな彼らが生きていた時代は、18世紀中頃から19世紀中頃にかけてです。一方、ピストン・トランペットが一般的になったのはだいたい1850年頃。もうおわかりですね。この頃の作曲家におけるトランペットの扱いというのは、扱いとしてはティンパニと同じようなリズム楽器なのです。全曲を通じて音が4種類か5種類くらいしか出てこなかったりします。そしてメロディも出来ないくせに出てくるとやかましいという残念な子だったためか、あまり出番もありません。100小節くらい休んで2小節吹いてまた100小節くらい休み、なんてのがザラにあります。

 まぁそんな感じですので、トランペットは歴史が古い上に高音域(メロディ音域)を担当する楽器にもかかわらず、「協奏曲が極端に少ない」楽器でもあります。メロディを演奏できなかったのですから当たり前ですが…。ピストントランペットが出始めてしばらくも、まだ楽器が未成熟でおそらくハイレベルな演奏家も多くなかったためか、トランペットのための協奏曲を作る作曲家もいなかったようです(協奏曲はたいていその時代のトッププレイヤーのために作られる。作曲者自身がハイレベルな演奏家で、自分のために作る場合もある)。ようやくトランペット協奏曲が生まれ始めるのは近現代以降。こうなると楽譜を吹いてて自分が何を吹いているかわからない曲ばっかりだったりします。ブラームスやベートーベンにトランペット協奏曲を作って欲しかったなぁ…。

 そんなわけでクラシックでは決して主役になれないトランペット。その他にもいろいろと苦労があるのですが、それはまた次回以降に書くことにしましょう。