だいぶ以前の話である

若かりし頃、都心まで電車で通勤していた。

その日も電車はギッチリ隙間なく込んでいた。

と目をやると背中を向け前に立つ男性が片手で

文庫本を持ち時折器用に持ち手の指でページをめくっていた。

私の位置からも文字は読めたので一緒に文字を追った。

これが面白くって思わず

「ぷっ」と噴いてしまったのである。

それでも前の男性は気にもとめず読んでいる。

私も従い後ろから覗くように読んでいた。

が、ついにたまらず「ククッ」と声に出したしまった。

こうなるとそのまま続けるのも失礼だし

私自身が恥ずかしい

書店で買ってゆっくり読もう

私は意を決して

「すみませんが題名は何と言いますか?」

と小声で聞いた。

その男性は無言で

本の表題を見せてくれた。

「モッキンポット師の後始末」