Cotton Time II-1004
真夏の金魚鉢は硝子細工
残炎が堕ちる雨の朝に
キラキラと音をたてながら
遠くなる秋の空へと
割れて散っていった

放り出された碧い空には
無限回廊のような雲が搦む

終わりのない空のどこかに
真夏の金魚が漫ろゆく




Cotton Time II-0927


帰途

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きてたら
どんなによかったか

あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ

あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう

あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで掃ってくる

田村隆一


友人と映画の話をしていて、この詩を知りました
これほど強く心に沈んでいく活字に出会ったのは
ひさしぶりのことです

忘れたくない詩なので書いておきます





Cotton Time II-0918_1


Cotton Time II-0918_2


Cotton Time II-0918_3

ただ ただ 揺らぐ
ただ ただ 彷徨う

無限に捩じれる時間の中を
夢幻と見間違うぬるい水を

何を憶うこともなく
哀しさにも似た徒花のように
その紅いべべを引き摺って



Art Aquarium 2012にて