最近ブーム(?)になっている“高音質復刻盤”は、是々非々で考えよう。 | 続・公爵備忘録

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ジャズ・オリジナル盤の音質追及とエリントンの研究。

ディスクユニオンさんのホームページを拝見していて、マイルスのKind Of Blueの高音質復刻LPを見つけた。

数多あるジャズレコードの中でも屈指の優秀録音で、かつ内容も最高に素晴らしく、いままで数えきれないほど復刻されてきた名盤中の名盤。

今回はAnalogue Productionsが45回転2枚組で出すようだ。



お値段なんと、33,000円(税込)!!!本当にビックリした。オリジナルより高いんじゃないの?

12月発売で、予約受付中。どれだけの予約が入るだろう??


Kind Of Blueの復刻盤は1枚持っている。2001年にClassic Recordsが復刻した、自称・高音質盤。オリジナル・ステレオと音質を比較すると、ずいぶん柔らかい音がする。ピュア・ビニールを使っているせいなのか?

 

個人的にはオリジナルの方がシャープで好きだ。ただ、復刻盤はオリジナルとは違う音、というだけで、決して悪い音ではない。

今回、Analogue Productionsが出す予定の超豪華復刻盤も、ピュア・ビニール(説明文ではクラリティ・ビニール)を使っているようで、まずここに疑問がある。

そう考える理由を説明したい。

レコードが黒いのは、カーボン(エンピツの芯と同じ)が入っているから。カーボンを入れることでビニールを硬くして、耐久性を上げている。

現代ではレコード針の針圧が2g程度と軽くなっているから、昔のような強度は必要なくて、カーボンを入れないくてもいいのかもしれない。柔らかい盤でも耐久性があるのだろう。

カーボンをなくすことのメリットとして、レコード表面のミクロ・レベルの凹凸がなくなるから、スクラッチ音が少なくなる、というのは一応理にかなっている。

でもオリジナルが作られた当時のエンジニアは、カーボン入りのビニールを想定した音作りをしたはずで、それがオリジナルの音のはず。

 

それをカーボンなしのビニールにしたら、オリジナルに似た音にはならないと思うのだが、、、

カーボン入りの黒ビニールについて、ブルーノートのレコードを例にします。

 


Vol.1は額縁ジャケ・フラットディスク・手書きRVGの完オリ。Vol.2はレキシントンのセンターラベルで、RVG刻印と耳はあるけど、リムがわずかに盛り上がっていて、完全なフラットディスクではない。ジャケも額縁ではない。たぶん47/63時代の盤ではないかと思っている。

どっちも硬い盤だけど、完オリのVol.1の方がより薄くて硬い。



初期のLPレコード、たとえばブルーノートのレキシントン盤は、ガチガチに硬い。床に落としたらガラスみたいに“パリン”と割れるんじゃないかと思うくらい硬い。現代のレコードより、ずっとたくさんのカーボンが入っているせいだと思う。

そのレキシントン盤の音はというと、すごくハリがある音。そのレキシントン盤と同じマザーディスクを使って、数年後にプレスされた47/63盤とかNY盤は、なぜか柔らかい感じの音になっている。

レキシントン盤以降のビニールは、明らかに柔らかくなっている。推測だけど、カーボンの量が減って、それが音質の柔らかさに影響したではないか。レキシントンの音と、47/63とかNYの音が違っている原因は、ビニールの違いにあるのではないか。ビニールが硬いと硬い音になり、柔らかいと音も柔らかくなる、というのが個人的仮説です。



話を元に戻して、Analogue ProductionsのKind Of Blue。

Analogue Productionsのエンジニアたちが、それを知らないハズはない。恐らく彼らはそれを承知の上で、『オリジナルとは違う音だけど、良い音がするレコード』を作ろうとしているような気がする。

オリジナルとは違うのに、良い音ってあるのか?と言われそうですけど、筆者はそういう音作りもアリだと思っていて、今回のKind Of Blueの音に興味深々。でも33,000円はムリ。買うつもりの方、入手されたら音の感想をお聞かせください。



話は変わって、中古レコード市場でも、オリジナルそっくりの復刻盤がすごく値上がりしていますね。ディスクユニオンさんの『プレミアム復刻シリーズ』なんか、1万円を超える値札の盤もあって、驚かされます。

Blue NoteやPrestigeのオリジナル盤が、庶民の手が届かないレベルになってしまったので、オリジナルに近い(?)復刻盤に人気が集まるのはよくわかる。

ただ、バンゲルダーが録音・カッティングしたレコードは、オリジナルで、少なくともRVG刻印ありの盤で聴くほうが良いと思うので、その点もふれておきます。

DUさんが企画した『プレミアム復刻』シリーズは、新品は税抜き5千円という、かなりお高い価格設定でしたね。

買う立場から見れば、5千円もするんだから音の良さに期待したくなる。

でも、待ってください。音を良くするために高くなったのではありません。レコードのプレス枚数が少ないから高いんです。

レコードは工業生産品であって、生産量が多いほど1枚当たりのコストは下がり、逆に少なければ上がる。LPレコードの生産量がピーク時の1/100以下になっているのだから、材料費や製作費が高くなって、結果的に高い売価になるのは仕方がないこと。

問題だと思うのは、高い価格を正当化するように、“オリジナル・マスターテープ使用”、“オリジナル・マスターテープの音を忠実に再現”、“ピュアビニール使用”“180g重量盤”など美辞麗句をならべて、『素晴しく高音質な復刻盤が出来ました』みたいに宣伝されていること。

“オリジナル・マスターテープを使用”すると、高音質になるのか?という問題。

“オリジナル・マスターテープ使用”というけれど、正規盤であればオリジナルでも再発でも、すべてのレコードはオリジナル・マスターテープを音源として制作される。

 

正確に表現すると、すべてのレコード(オリジナルでも復刻盤でも)は、オリジナル・マスターテープからダビングされた“カッティング・マスター”から作られる。

 

ごく一部には『盤起こし』と言って、マスターテープが紛失していたり、ダメになっている場合に、レコードを音源として作られるレコードもありますけど、基本的にオリジナル・マスターテープが音源です。その意味で、オリジナル・マスターテープ使用というのはウソではない。

ごく当たり前のことなのに、高価な復刻盤だけが特別にオリジナル・マスターテープを使っているように見せかけるのは、誇張という以外にありません。

“オリジナル・マスターテープの音を忠実に再現”したら高音質になるのか?という問題。

Blue NoteやPrestigeで素晴らしい音を作り出したエンジニア、Rudy Van Gelder。彼はオリジナル・マスターテープ(正確にはカッティング・マスター)の音をイコライジング操作してカッティングした。その方法は全く不明で、バンゲルダー・マジックと言われている。だから後世のエンジニアたちはオリジナルの音が再現できない。

Contemporaryで素晴らしい音を作り出したRoy DuNannも、エコーをかけて音を加工したと言われている。Contemporaryのマスターテープを聴いたことがある人の話によると、マスターテープの音はレコードの音とは違っていて、すごくドライだそうだ。

それなのに、オリジナル・マスターテープ(カッティング・マスター)の音を忠実に再現したら、オリジナルに近い音にはならない、ですよね。

“重量盤は高音質”になるのか?という問題。

わずか数gしかないソノシートならともかく、LPレコードは120g~130gくらい。これくらいの重さなら十分な慣性モーメントがあるので、150gだろうが200gだろうが、全くと言い切っていいほど音質には関係ありません。重量盤が好まれる理由は、レコードを手にとった時の気分の問題、と言い換えていいです。


言いたいことは、音質についての宣伝文句なんて、ほとんど音質とは関係ない。高くなってしまった価格を正当化するための美辞麗句にすぎない、ということ。

 

音を期待するなら、Blue NoteやPrestigeは、オリジナルが基本。それが無理ならセカンド以降でも、RVG刻印盤、VAN GELDER刻印盤を聴いてほしいです。

プレミアム復刻盤の価値は、ジャケットがオリジナルに酷似している”ということに尽きると思う。音質はキング盤や東芝盤と同程度。これはDUさんが悪いのではなく、ブルーノート復刻盤の宿命でしょう。


筆者はチリプチ音とかジャリジャリ音がイヤで(好きな人はいないと思いますが)、傷んだオリジナル盤を聴くくらいなら、がんばってキレイな盤を探すか、それが出来ないなら復刻盤が良いと考える。

 

でもコレクターには色んな人がいて、たとえ傷んでいても、オリジナルがいいと考える人がいる。これは個人の自由だから、色んな価値観があっていいと思う。

他人に左右されることなく、ご自身の考え方を持っていただきたい。そのうえでオリジナルを志向するのか、復刻盤を買うのか、ご自身の方向を定めていただけたら嬉しいです。

筆者はオリジナル志向だったけど、復刻盤も持ってます。復刻盤は『だれが作ったのか』が大事だと思っています。

 

欧州盤の再発分野では第一人者、澤野商会さん。

 

 

 

欧州盤を追いかけていた頃、オリジナルを見かけたことは一度もなかった。それが聴けるのだから、なんの不足もありません。

 

澤野商会さん、ありがとう。ジャケも音もクオリティが高いです。

 

 

もう一つ、オススメしたい復刻盤は、フランスのSam Records

 

 

仏オリジナル盤の復刻に特化した会社で、ジャケットがオリジナルにそっくり、音もオリジナルにそっくり。たしかレアな仏盤を10枚くらい復刻しているハズ。限定生産なのでもう新品はないですけど、中古盤が見つかったらラッキーです。