関ヶ原(下) | cotameba
関ヶ原〈下〉 (新潮文庫)/司馬 遼太郎


いやー,連続で3冊目ともなってくると,さすがにちょっと飽きました.読むのにえらい時間がかかってしまった.途中別の本で一休みすればよかった.僕の「司馬さん集中力」は2冊くらいが限界のようです.


それでも関ヶ原の決戦前日あたりから最後までは,面白すぎてほとんど一気に読めました.


それにしても,三成,哀れだったなー.頭良すぎるんですね.しかもそれでいて,長いこと政治の中枢にいたくせに,自分自身のこととなると政治感覚がまるでない.さらに「へいくゎいもの」(横柄者,めんどくさがり,みたいな意味)ときているから,無駄に嫌われてしまい,人が全くついてこない.石高が低くて自前の軍事力がないから強く出れない面もありましたし.
挙句の果てには,関ヶ原当日は,一人で駆け回っていた疲れと,雨の中での行軍が祟って,下痢になる始末.
些細な不幸,もう一つの敵とも戦わなければならなかった,なんて書かれていました.
ほとんどピエロのようだったなー.

それでも最後まで「義」を貫く姿には感動しました.
関ヶ原から遁走し,やがて捕縛されるまでのドラマはよかったですね.
捕われの身となってからも,福島正則なんかに対して,裏切り者が誰かをしっかり覚えておいて,泉下(あの世)の太閤殿下に伝えるのが楽しみ,みたいなことを最後まで言っていました.この真っ直ぐさは,かなりカッコいいです.

家康は三成を嫌っていたものの,この「義」を貫く精神は買っていたんじゃないですかね.
だからこそ,天下取りの大戦さの相手として三成を選んだんじゃないでしょうか.
豊臣恩顧の大名が次々と,実にあっさり裏切っていく中で,一番の寵臣だった三成までが家康になびくようでは,世も末ですからね.
というようなことを,黒田如水の回想として言わせています.

家康にしても,福島や加藤清正が自分に味方したことは,計略的にはよかったんでしょうが,この計略がうまくいきすぎて,あまりにみんなあっさり寝返ったのには,心情的というか倫理的に面白くないと思っていたようです.
徳川幕府を作った後,これらの大名をことごとく取り潰してしまっていますからね.家康のこういうやり方をみると,本当に大悪党というか,心底腹黒いというか,とにかく嫌いです.

関ヶ原の合戦は,合戦そのものより開戦前の計略によって,ほとんど勝敗は決していたようなところもあるのですが(少なくとも家康は絶対勝てると信じていた様子),家康にちょっとした誤算が生じます.それは真田家と秀忠軍の,上田城攻城戦です.わずか二千の兵力で,秀忠軍三万以上を足止めして,結局関ヶ原に間に合わなくさせます.
とかくファンの多い真田幸村を中心に描かれることが多いんでしょうが,むしろ真田昌幸の策略がすさまじくて面白いです.さらにこの小説では,秀忠のお傅役みたいな形で従軍していた,家康の謀臣,本田正信の視点で描かれているのも面白いですね.
正信が陥ってしまう状況が三成と似ていて,この対比がいいです.

開戦前に勝敗は決まっていた,と書きました.
秀忠軍が間に合わなかったことで,数の上では西軍が優っていたのですが,実情は内応の嵐で,西軍でまともに戦っていたのは,石田本隊,宇喜多隊,小西隊,大谷隊と,全軍の3分の1程度でした.
それでも押しに押しまくって,あわや勝てそうというところまでいったのは,司馬さん風に言うと,
ほとんど奇跡といっていい,
ですね.
それだけに小早川秀秋という「あほう」が,勝敗のゆくえを握っていたというのは,何ともやるせないですね.
しかも最後の最後まで迷った挙句,家康の恫喝に怯えて裏切りを決意するんだもんなぁ.この小説中,最もカッコ悪く描かれている人物ですね.多分嫌いだったんだろうなぁ,司馬さんも.

僕の心情的には,西軍に勝ってほしかったんですが,東軍が勝ったことで,歴史的にというか,世の中丸く収まってよかったのかなと思う部分はあります.
司馬さんは,消極的裏切りを行った吉川広家の心情として,こんな風に書いています.
西軍が勝ったところで,三成や毛利輝元には天下を治める器量はない,すると再び乱世に逆戻りだ,そんなことはもはや誰も望んでいない,今天下を治められる器があるのは家康だけであり,だからおれは家康の側につく,おれが家康に天下を取らせてやるのだ,と.
なるほど.全くその通りだったと思います.


と,面白いと思った部分の感想を書いてきましたが,最後に全体の感想を.
この小説の良さは,大名たちの心理描写にあります.時代の空気というか,当時の概念に忠実で説得力があります.さらに,司馬さんは軍事にも相当明るいので,戦闘シーンも圧倒的で,近くの山から合戦をみているような感覚で読めます.