5年前の記事ですが、こんなものがありました。
山岡鉄秀という人が、駅や電車内などの韓国語表記に反対していて、それを記事にしているようです。
また、ネット上では駅や電車内などの中国語、韓国語表記は不要、外国語表記は英語だけで十分と言い張る人が少なくありません。
私は中国語や韓国語の表記はあってもいいと思っています。
それで、山岡氏が書いたこの記事を読みましたけど、突っ込みどころ満載で鼻で笑ってしまいましたし、韓国語について何の知識もない素人丸出しのクオリティでした。
では早速、突っ込みを入れていきます。
顧客との会議に出席するために電車の駅に急ぐサラリーマン。
改札口をくぐって、電車の行先と時刻を確かめようと電光掲示板を見上げる。
と、そこには解読不可能な外国語の文字が溢れ、日本語は一文字もない。唖然としながら、ひたすら日本語が現れるのを待つ。
しかし、次に現れるのも理解不能な外国語。為す術もなく立ちつくすサラリーマンが乗るはずだった電車のドアが閉まり、駅を離れていく….。
冒頭からいきなりおかしな文章が来ました。
切替を待っている間に電車に乗り遅れるなんていう極端な状況を設定していますが、これはもはや駆け込み乗車の類ですよ。
だって、発車標の言語が切り替わるのって長くても10秒とかじゃないですか、それすら待てないとは余程時間に余裕を持って行動していないことの裏返しですよこれ。
ましてや重要な予定とかだったら、特に新幹線や特急であれば乗車する列車の時刻などをあらかじめ調べておいて、発車時刻の5分前にはホームにいる、それができないなんてサラリーマン失格ですよ。
しかも、山岡は明らかな嘘を言っていますよ。
理解不能な外国語の文字が溢れているなんて言っていますが、自国のローマ字表記は勿論、日本人なら馴染み深い漢字で表記される中国語でも理解できなくはないじゃないですか、理解不能なのは韓国語だけですよ。
韓国語の間だけ待つなら時間は僅かなはずですよ。
それすら待てないのはもう駆け込み乗車だと断言できますよ。
そんな極端な状況を設定したがる人たちにいいものをお見せしましょう。
関西にある大手私鉄の一社である南海電気鉄道の発車標です。
これは日本語を常時表示させて、その下で英語、中国語、韓国語を切り替えるという方式です。
南海のように日本語固定+英中韓切替の併記方式であれば、切り替わるまでの数秒を待つ必要がなくなるじゃないですか、こういうタイプの発車標を紹介すればこの記事の山岡氏のような極端な状況設定や切り替わりが待てないなどという主張は一切無効となります。
冒頭部分への突っ込みだけで長くなってしまいましたが、次行きましょうか。
皆さんも、これと似たような経験をされたことがありませんか?日本にいるのに、日本人が全く読めない表示が溢れ、大多数の日本人が不便な思いを強いられていると感じませんか?
感じません。そもそも、日本にいるのにという前提がおかしいです。
自国にいるからこそ、スマホで調べる、駅員に口頭で聞くなどの代替手段があるわけで。
言葉の異なる外国人にこそ、案内表記は必要であると言っていいです。
また、日本人は毎日通勤や通学で電車を利用して知っているので、案内表示はほとんど見ないとも言えます。
冒頭の部分を書いて、その続きで不便を感じませんかと問いかけています。
しかし、切り替えを待たなければならないのが不便だと言っても、法律的には受忍限度内として退けられる類のものです。
受忍限度とは、主に民事裁判で用いられる言葉なのですが、住宅や周辺環境において、通常我慢するべき不快や迷惑の程度を指します。
詳細は下の記事を確認してください。
受忍限度に厳格な基準は特にありませんが、受忍限度を超えるか否かは、事象や裁判官によって判断が変わってきます。
今回の場合は、外国語が表示されているせいで必要な情報が読み取れない、日本語に切り替わるまでの数秒を待たなければならないのが不便というものですが、このケースはどの裁判官であっても受忍限度内と判断する可能性が極めて濃厚です。
なにせ、受忍限度を超えると裁判官に判断してもらうには、多言語表記が原因で通常利用することが困難なほど著しい不便が生じているということを、原告である山岡氏たちが証明しなければならないわけですが、言語切替は長くても10秒ですから、「著しい」不便が生じていることを証明することは困難を極めるでしょう。
多少の不便は生じているかもしれませんが、裁判官はそれくらいは我慢しろと言うでしょう。平たく言えばこれが受忍限度内であるという判断です。
ましてや、駅や車両によっては案内表示機そのものがないわけで、それに対して声を上げている人を見た試しがありません。
さて、次行きましょうか。
困惑した人が思い余って鉄道会社に苦情の電話をかけると、お決まりの答えが返って来ます。
「これからオリンピックを控え、世界中から多くのお客様がお見えになりますので、その方々の便利を考えての処置でございます。どうぞご理解お願い申し上げます」
これって、国交省の行政指導なのでしょうか?
世界広しといえども、こんな間抜けな国はなかなかありません。日本人は「おもてなし(hospitality)」を完全に履き違えています。
自分たちが読めない文字で掲示板を埋める…それでは媚びていると受け止められます。観光客はその国にしかない異国情緒を求めてくるのです。多民族国家のオーストラリアでもこんなことはしません。駅の表示は英語表記だけです。病院やトイレには多言語での注意書きがありますが…。
きっと多くの方が同じように感じていらっしゃるのではないでしょうか?
はい、政府の方針です。
間抜け?韓国語を併記することのどこが間抜けなのか、理解に苦しみます。
韓国人だけで訪日外国人全体の何%を占めるのかを知っての発言ですかね?
コロナ禍前の2019年と少し古いデータですが、載せておきます。
そんなことを言えば、韓国でも日本語の表記は実施されていますよ?
韓国も間抜けだと言うんですか?
あと、自分たちが読めない文字で掲示板を埋めるとありますが、それの何が問題でしょう?だって外国人に向けた表記ですもの。
その国にしかない異国情緒を求めて外国に行くって言われても、食文化の違い、トイレの使い方、景色など色々ありますよ?
次行きます。
ここから先は、韓国語の正しい知識を何一つ身につけずに書いたということが丸わかりでした。
東京都葛飾区の「青戸」は、
青戸
Aotoと、漢字とローマ字を併記することで、韓国人には十分によく分かります。
それをハングルで表記して
아오토
と表記すると、「ト」の音(토)が「トォ」と、ちょっと強くなります。日本語の「ト」の音と、ぴったり対応する音が韓国語にはないのです。
近い音では「아오도」(アオド)、「아오또」(アオット)というのもありますが、強いて言えば、「아오토」(アオトォ)が一番近いかな、という感じ。つまり、英語の「aoto」が一番正確なのです。
トの音(토)がトォと、ちょっと強くなると言われても、それがどうしたって話です。
相手の言語で自国の固有名詞を正確に書き表せないのはどの言語間でもあり得ることです。
そもそも、駅名について書いているのであれば青戸という漢字は間違いで、青砥が正しい駅名です。
地名なのか駅名なのかはっきりしない書き方なので混乱しましたよ。
それはそうと、アオトを正確に韓国人に伝えるには아오토と書くのが最も的確に伝わります。
英語が常に正確なんて、Aotoじゃエーオートゥーと読まれる可能性あるし、伊達(ダテ)をDateと書いたってデートでしょうよ。
日本語を転記する際のヘボン式ローマ字も所詮はローカルルールなんですよ。世界の万人に通用するわけではありません。
ちなみに、トの音토がトォと、ちょっと強くなるのは、토は激音と言って息を強く出して発音する音だからです。
真ん中の線を抜いた도もありますが、こちらは平音といって日本語のトまたはドのような発音になります。語頭だとドがかったト、語中や語尾だとドに聞こえます。
そもそも韓国語には、日本語のように清音と濁音の区別がありません。
代わりに、平音(息を普通に出す音)、激音(息を強く出す音)、濃音(息を強く出さずのどを緊張させて出す音)で発音を区別しているのです。
中国語、ベトナム語、タイ語なども、清音(無声音)と濁音(有声音)を区別せず、代わりに平音(無気音)と激音(有気音)で発音を区別しています。
韓国人は漢字表記はあまりしませんが、漢字は義務教育で習っていますから、ある程度、分かります。だから、漢字語と英語で十分なのです。漢字語+ハングルならまだしも、ハングルだけだと、音が日本語の原語と微妙に違うので、むしろ分かりにくいです。
ある程度、でしょ?みんながみんな分かるわけではないと想像力を働かせることはできないんですか?
公園などの一般名詞ならまだしも、青戸などの固有名詞だとアオトと読んでもらう必要があるので表音表記が必要です。
中国語の場合は言語特性上、中国の漢字及びそれに対応するピンイン読みに置き換えるのが最適解なのですが。
音が日本語の原語と微妙に違うとのことですが、韓国語にはツやザの音はないのでこうなることも全くないとは言えません。
しかし、相手の言語にない音を近い音で代用するのはどの言語間でもやっていることです。
日本の駅名のハングル専用表記は、韓国人の自尊心を満足させることはあっても、実用的ではない、ということです。韓国人以外は基本的にハングルを読めないのは言うまでもありません。
韓国人以外はハングルを読めないことを問題視する意味が全くもって不明です。
だって韓国人は訪日外国人の2割近くを占めるんですよ?下手すりゃ日本では英語並みに需要がありますって。その時点で十分実用的です。
もう少し説明します。今度は逆のパターンを考えてみましょう。ソウルの地下鉄5号線の往十里から下り5駅を漢字とローマ字で表記してみます。
・往十里:wangsimni
・馬場:majang
・踏十里:dapsimni
・長漢坪:janghanpyeong
・峨嵯山(子供大公園後門):achasan (rear entrance to Seoul Children’s Grand Park)
まあ、漢字の方を見れば、読めなくても一応わかりますね。
ここで韓国が一夜にして親日国になったと想像してみましょう(無理?)。そして、韓国の鉄道会社が駅の電光掲示板に日本人のためにカタカナだけで表示してくれるようになりました。
・ワンシムニ
・マジャン
・タプシムニ
・ジャンハンピョン
・アチャサン(オリニデコンウォンフムン)
これ、かなりきつくないですか?しかも、日本人が一生懸命これを読んで聞かせても、韓国人には聞き取れず、この人、何語をしゃべっているのだろう、って感じなのだそうです!
もうおわかりですね。旅行者への親切心なら、日本語とローマ字で統一した方がずっと合理的なのです。
こんな事を言ってる時点で致命傷ですわ。ローマ字の方が余計分かりにくいというのに。
最後の()内の子供大公園後門については一般名詞由来ですから翻訳表記が可能なのでカタカナは必要ありませんが。
まぁ韓国語には日本語にはない発音もありますから、そうなることもありますが、先述の通り、相手の言語にない音を近い音で代用するのはどの言語間でもやっています。
皆さんは、英語は話せないがローマ字で自分の名前を書くことはできますよね?
それと同じように、私は韓国語を話すことはできませんがハングルの読み方をある程度理解していますので、ハングルで表記してみます。
・往十里:wangsimni→ワンシムニ、왕십리
・馬場:majang→マジャン、마장
・踏十里:dapsimni→タプシムニ、답십리
・長漢坪:janghanpyeong→ジャンハンピョン、장한평
・峨嵯山(子供大公園後門):achasan (rear entrance to Seoul Children’s Grand Park)→アチャサン(オリニデコンウォンフムン)、아차산
赤文字で示した2つ以外は書けました。
wangsimni→ワンシムニ、왕십리
dapsimni→タプシムニ、답십리
私が正解できなかったこの2つですが、どうやら鼻音化が関係していたようです。
これらの記事で解説されているので、ご覧ください。
上記の例ではありませんが、ローマ字表記法は言語によってまちまちです。
先述しましたが、日本のヘボン式も所詮はローカルルールです。
韓国では文化観光部2000年式というものが採用されています。
この画像のBoramaeは、カタカナではポラメとなっていますが、カタカナが無ければボラマエとしか読めないでしょう。
韓国の首都ソウルも、Seoulと綴るじゃないですか、なぜeがあるのか疑問に思ったことはないですか?これじゃセオウルじゃないかと思ったことはないですか?
これはソウルの現地の綴りが서울であることに関係しています。
そもそも韓国語には、日本人にはどちらもオに聞こえる母音が2種類あるんです。
当たり前ですが韓国人にとっては全く別の音です。それが어と오です。
어は日本語にはない音で、アとオの間のような音です。
一方오は日本語のオとほぼ同じ音で、日本の固有名詞をハングルで書く場合はこちらを用いて、오다와라(小田原)のように表します。
で、この2つのローマ字表記ですが、어はeo、오はoとなります。
これでお分かりかと思いますが、ソウルは서울で、어(eo)の方を使っているから子音のㅅ(s)をくっつけて、ソウルのソは서(seo)となるわけです。
日本人がソウルと発音すると本来は서울なのに、韓国人には소우루に聞こえてしまいます。어は日本語にはない音なので오で代用しているためこうなります。
また、울の우(ウ)の後のパッチムのㄹも日本人には正確に発音するのが難しく、英語の時と同じように子音のみの発音であってもつい母音を付けてしまいがちで、울を우루と発音してしまいます。
こればかりは致し方ないです。
しかし、いくらローマ字でSeoulと書かれても、これでは日本人にはセオウルにしかならず、現地の発音からは余計に遠くなります。
だったら近い音を当てて代用した方が手っ取り早いですよ。
その逆も然りで、韓国語にはツ、ザ、ズ、ゼ、ゾがないんです。
駅名ではありませんが、2年前に銃撃されてしまった元首相の安倍さん。
韓国人で、安倍さんのことをアベシンジョ(아베신조)と呼んでいるのを聞いたことはありませんか?
さっきのソウルの逆だと思えば理解が早いです。
ゾは韓国語にはない音なのでジョ(조)で代用しているためこうなります。
かといってAbe Shinzoでは韓国人には余計理解してもらえないです。아베ㅅ힌?(アベシューティン?)になってしまうからです。
それともう一つ。こちらは地名であり駅名なのですが、群馬県の県庁所在地、前橋。
ヘボン式ローマ字でMaebashiと書きますが、韓国人はこれをマエバシとは読んでくれません。매밧히(激音化の関係でメバッヒではなくメバティ)と読まれてしまいます。
なんなら英語話者ですら、マエバシとは読んでくれないでしょう。
なぜなら英語話者は、この前橋もそうですが上野(ウエノ)など、「ア」や「イ」のような母音が続く発音が苦手だからで、英語の発音は母音が2つ並んだ場合、二重母音といって滑らかで連続して発音する習慣があるためです。
逆もまた然りで、日本人も英語の二重母音の発音が苦手な人が少なくないです。
英語話者ですらMaebashiをマエバシではなくメィバシと発音してしまうのに、英語以外の言語話者であれば余計に分かりにくいですよ。
ちなみに、マエバシを韓国のローマ字表記法で書くとMa-ebasiとなりますが、ハングルで直接마에바시と書いた方が韓国人にはダイレクトに伝わります。
このように、特に相手の言語にない音はローマ字で書かれても理解しがたい場合が多いので、近い音で代用した需要言語での表記の方が合理的です。
以上のことから、日本語表記がかなりきつくないですか?と問われても思いませんし、日本人が韓国の駅名のカタカナ表記を読んで聞かせれば韓国人は、こちらが日本語を喋っていると察してくれるでしょう。