前回、子供へのプレゼントについて、夫とやりとりして以来(詳しくは、モラ的プレゼント を参照)、子供達がほしがっていた自転車の件は、棚上げになっていた。


学童に通っている下の二人はともかく、長女は、いつも友人達と遊びに行く時に、結構遠くの待ち合わせ場所まで徒歩で行っていた。心優しい友人達は、そんな長女を気遣い、長女とあそぶときはいつも自転車で来るのを遠慮していたらしい。

ところがある日、仲良しグループ5人の仲にきしみが入り、グループのある1人の子のいくつかの自分中心な言動に対して、他の4人が距離を置き始め、問題視した担任の先生が、放課後、5人の仲裁に入ってくださった。お互いに、相手に対して思うところを率直に伝え合ったと言う。


その話を後から長女から聞いたとき、気になる一言があった。「他の子は、あたしが自転車を持っていないから、いつも自転車に乗らずに来ていてくれたのに、あの子だけはわざわざ自転車に乗って来て、あたしはそれが嫌だったって言ったの」


ずきっときたのは私の方だ。「そうかあ、それが辛かったんだ。でも、そのことでその子を責めるのは間違っているよ。自転車がないのはうちの事情だから。そうかあ、自転車があれば、みんなの遊びの幅が広がるんだよね。ママ、今一生懸命頑張ってるから、ちょっと我慢してね」


自転車は、もともと次女と三女が誕生日プレゼントとして希望していたものだ。

二人を差し置いて長女に買ってやるわけにはいかない。どうしても、3人一緒でなければ。


私は、その週末、子供達を連れて市がやっているリサイクルセンターを訪ねた。

夫のリサイクル好きをけなしておきながら、とも思ったが、背に腹は変えられない。

それに、ここのリサイクルセンターは自転車中心で、専門技術者の方が、回収された自転車をそれはきれいにチューンナップして生まれ変わらせて販売している。


センターには18インチの赤い自転車と、22インチのピンクのマウンテンバイクが飾られていた。

次女と三女にぴったりのサイズだ。


ただ、これをすぐに買って帰る、というわけにはいかない。このリサイクルセンターは抽選方式で、一世帯あたり一件しか申し込めない。しかも当選するとその後1年間は申し込めないという厳しいものだ。私は母の名前を借りて、この2台の自転車を申し込んだ。抽選日は一ヵ月後だ。


そして一ヵ月後、リサイクルセンターから22インチのマウンテンバイクが当選したと連絡があった。後から知ったのだが、14倍の高倍率だったそうだ。残念ながら、18インチの自転車は手に入らなかった。


さて、どうやって運ぼう。リサイクルセンターから自宅までは20キロ以上。まさか22インチの自転車に私がまたがって帰るわけにはいかない。宅急便に頼むと8千円近く。リサイクルセンター近くの赤帽に電話してみると、だいたい4、5千円だという。ここも、背に腹は変えられない。当日リサイクルセンターで待ち合わせて、私も乗せて帰ってね、ということで、この赤帽さんにお願いした。


当日リサイクルセンターでは、赤帽さんを待つ間、職員の女性や技術者の男性と仲良くなった。最後に所長さんが、赤帽さんに「安しとったってやー」と声をかけてくれた。「はあ。。。」「何がはあ、じゃ!」「いいですよー、適正価格で!何なら私、荷台にのりましょうか?」などとにぎやかにリサイクルセンターを出発した。


車の中では、ほぼ同世代と見られる赤帽さんと、震災の話やら地元の話をしていた。そのうち、「私、言葉はすっかり関東ですけど、実は中学は○○なんですよー。」「そうなん、うちの奥さんとおなじやんか」「へええ、何年ですか?」話すうちに、この方のおくさんの妹さんが、実は私の中学時代の同級生だったことが判明した。最後に、赤帽さんは、運送料を申し訳ないほどの格安にしてくれた。


さて、三女の自転車はどうしよう。

実は抽選を待っている1ヶ月の間に、駅でばったり高校時代の同級生に出くわした。

彼女とは、その後日をあらためてランチをした。


お互いのその後などを話す中で、

「そういえば、子供の自転車を探してるの。近所でいらない自転車はない?」

とずうずうしく聞いてみた。

「あ、うちにあるよ。18インチのさびさびだけど。キティーちゃんの。でもそんなのでいいの?」


ちょうど次女の自転車が届いた翌日、子供達が外に遊びに行っている間に、彼女の家まで三女の自転車を取りに行き、自宅に持ち帰ってピカピカに拭いておいた。さびさびとは言うが、いまどきの子供用自転車は、車輪の部分も強化プラスチックなので、十分きれいだった。


さらに、その2日後に長女に24インチのジュニア自転車が届くようネットで手配した。


次女も、三女も、それぞれリサイクルではあるが女の子らしい、可愛い自転車にまたがった瞬間、こぼれるような笑顔を見せた。


そして24インチの自転車が届いた日、長女は転がるように学校から帰ってきて、水色の、ウサギのシールが付いた、スポークにたくさんの星が飛んだ、まさに長女好みの自転車に、はにかんだ、本当に嬉しそうな表情をして、「今日届いてよかった。みんなと、もし今日届いたら自転車でね、って約束したんだ。」とさっそく自転車にまたがり、私を振り返りながら待ち合わせ場所に向かった。


その姿を見ながら、私は思わず涙ぐんでしまった。

自己満足かもしれない。子供に甘いかもしれない。

でも、半年がかりで子供の希望をかなえてあげられたことに、この上ない充足感を感じた。

そして親ってそんなもんだ、と思った。