夫と出かけるのが嫌いだ。

最近は、夫と二人で出かけることはなく、子供も連れて家族でいるときは、また、嫌がらせは別な形で行なわれるので、今日あったような無言の圧力は、しばらく忘れていた。


夫が大家の役割を果たしている部屋のエアコンを買い換えなければならなくなり、電器屋に行くと言う。

家電を見たいと思っていた私、ランチにビールを飲んだせいもあって、「私も行く!」とつい言ってしまった。子供たちはそれぞれ、自分の友だちと遊んでいて、家にはいない。


夫と車に乗って出かける。会話はない。

そもそも、何を話しかけても、「うん」「すん」くらいで会話は続かない。

さしさわりのない話題を選ぶのにも疲れて、私は無言になる。

無言になると、睡魔に襲われる。ガクン!ブレーキが強く踏まれて目が覚める。

「え?何かあったの?」もちろん答えはない。

これは、助手席で寝入る私への、無言の嫌がらせなのだから。


お店についた。住宅街の真ん中にある大型電器店は、家電を選ぶ家族連れでにぎわっている。

我が家には、ついぞない光景である。夫は私に相談して大型家電を買うことはないし、よほどのことがなければ家電を買い換えたり、買い足したりしない。


店に入っても無言である。夫が用事を済ませる間、私は横に座ったり、立ってちらちら家電を見たりしていたが、だれも夫婦だとは思わないだろう。夫は絶対に私を見ることも、話しかけることもしない。


用事が終わると夫はふらふらと自分の見たいものを見に行き、私は見失ってしまった。

置いていかれるかも!必死で夫の姿を探す。


「トイレ」夫は一言だけ言い、トイレに行った。

私はトイレの脇にあるVTRコーナーを見ていたが、いつまでたっても夫は出てこない。

トイレの前で待ち、さらに店の前に出て待つ。

さすがにおかしいと思い、携帯に電話をかける。


「車の中にいる」


言葉もない。


これはただの行き違いではない。コミュニケーションの欠落と明らかな思いやりのなさなのだ。

こちらは普通の家族のように和やかに買い物をしたいのに。

もし私がそう訴えたら、帰ってくる言葉は分かっている。お前が悪いんだろう、会話がないと思ったら話しかければ。

話しかけたって話にならないじゃない。

だけど、そのことを言っても平行線なのは分かっている。


私は黙り込む。黙ったまままたさらに離婚の決意を固くする。