未完成
照手姫の物語。
出生地の神奈川県、苦行を強いられ、また回復した小栗判官と幸せな再会を果たした岐阜県、小栗判官が回復した和歌山県などではよく語り継がれているのではないだろうか。
私は今回、そのうちの美濃の国での出来事を切り取って、全く別の物語に仕立てようと考えた。
これまでに語り継がれてきた照手姫の物語を引き継ぐのはほんの一部にしか過ぎない。
そこに私が感じる人生を生きる意味を盛り込んで短編に仕立て直した。
照手は幼くして両親を失った。あるとき大雨で平尾の池が決壊して薬師川が氾濫して両親は家諸共流された。伊勢海まで流されたかもしれない。亡骸なぞ探す術もなかった。それどころか今日明日、食べることをどうするか。
照手は街道筋の宿場町の万屋の主人に拾われた。
万屋の主人は照手を連れ帰って女将さんに、これからこの子をわが家で育て上げると話をした。
女将さんは、この災害の折、たとえ子供一人分でも余計に食わせるような余裕はないと文句を垂れたが
この子の器量をもってこれから先に万屋の役に立つだろうと主人から言われると、なるほどと納得して住まわせることとした。
照手は万屋の主人と女将によって宿の仕事をされこれと手伝わせた。
照手がいい年頃になった時、客引きに使おうとした。
照手にその意思はない。
主人はこれまで照手を養ってきた分を取り戻せさえできないのだから頭にくる。
照手としては、親に代わって育ててくれた養父母が、ここにきて手のひらを返して
人の道に外れたことを強いてくるので、気が狂いそうになった。
それまでも照手は観音様にお願いすれば
照手は父や母に遭えることを願ったが、かなわなかった。
或る夜、照手は夢を見た。
父と母が現れた。もう10年も前のことだが。
楽しく過ごした。
またある夜、照手は夢の中で同じ年頃の
或る夜、照手は夢に声を聴いた。
「薬師の縁日、次の28日は満月だ。その夜に水神様の脇に行けば、
お前は亡き父や母に遭うことができるだろう。そうして父母に案内されるがままに
行けば、友や恋をしたくなるような素敵な人間に遭えるだろう」
水神様の脇で一晩待っておればいい」
その日がやってきた。
夜に起きて、誰にも気づかれぬように宿を出た。
月明りのため、提灯がなくても水神様のところへたどり着くことができた。
薬師川をさかのぼって平尾池に出た。
平尾の池の水面に月が映る。
それを眺めながら、大そうな時間を待った。
水神様の脇で。
それでも父や母は現れなかった。
照手は疲れて眠くなってきた。
草むらに横になると自然に眠りについた。
いつしか、照手は夢を見ていた。
いつぞやの夜に見た夢のように
父や母に出会い、友達に出会い・・・
照手の寝顔は穏やかであった。
笑みを浮かべていた。
夜が明ける頃、主人と女将は照手がいないことに気が付いた。
宿は満員である。朝から旅人の世話をしなければならないのに、照手の手を借りることができない。
怒り心頭である。
昼になって時間ができて、照手を探すことにした。
あちらこちらを探したが、見つからない。
どこにいったのか?
照手の姿はそれ以来、誰も目にすることはなかった。