よろづのことよりも、情あるこそ、
男はさらなり、女も、めでたくおぼゆれ。
なげの言葉なれど、
切(せち)に心に深く入らねど、
いとほしきことをば、「いとほし」とも、
あはれなるをば、
「げに、いかに思ふらむ」
など言ひけるを、伝へて聞きたるは、
さし向ひて言ふよりもうれし。
いかで、
この人に思ひ知りけりとも見えにしがなと、
常にこそおぼゆれ。
-- 枕草子 -- 清少納言
【現代語訳】
ほかのどんなことよりも、情のあるが、
男はもちろん、女も、すばらしく思われる。
たとえいい加減な挨拶で、
ほんとうに深く心から出たものでなくとも、
人の気の毒なことに対しては「
気の毒に」とも、
また、
悲しんでいる場合には
「ほんとに、どんなにか悲しいでしょう」
などと言ったのを、
人から口伝えに聞いたのは、
面と向かって言われたのよりも、
うれしい。
なんとかして、
その人に、自分がその人の親切に
感謝しているということだけでも
知ってもらいたいものだと、
常日ごろ思われることだ。