「未知の贈り物」(ちくま文庫)、ライアル・ワトソン博士の著作です。
インドネシアの未開奥地でワトソン博士が出会った12才の少女、ティアの話。
ワトソン博士が一生の研究方向を決定するきっかけとなった実話。
(文庫本の裏表紙では「ファンタジックサイエンス小説」となっていましたが。)
ワトソン博士といえば、生物学、生態学、医学、文化人類学、物理、化学ほか、十数個の学位をもつマルチな学者で、ロンドン動物園の園長を長く務め、NHKのETVでプロデュース番組をやったり、多岐に活躍した人です。
自らの肩書を「「Life Scientist(生命科学者)」と名乗り、ニューエイジサイエンスにおいて時代を牽引した人でもあります。
「未知の贈り物」は、1970年代初めくらい(?)、30才そこそこの彼が、インドネシア東部の、小さい島が一万五千以上点在する未文明化地域を探索旅行した時の、体験観察記です。
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(以下、あらすじ)
現地クルー2人と小さな船で航海中、大嵐に遭い、三日の漂流のあと流れ着いたのが、現地一帯で「踊る島」と呼ばれていた小さな島。そこで、踊りの天才少女ティアと出会う。そしてそのまま8ヶ月くらい、現地の子供たちの先生をしながら、自然や習俗を研究し、村人たちとともに生活する。
生まれて初めて白人を見る村人たちが、漂着したワトソン氏を受け入れる場で、12歳のティアは島の太古からの歴史をずっと踊ってみせる。彼女の踊りからあふれ、表現されるエネルギーとビジョンで、ワトソンは民族の歴史が鮮やかに分かったという。ティアは「島一番の踊り手」である82歳の老婆から踊りを教わるが、老婆はティアを「彼女に初潮が来れば、島の歴史が始まって以来最大の踊り手になる」と言う。
やがて彼女に初潮が訪れるとともに、彼女に島の活火山の神の力が宿り、治療能力や物質化現象を起こす能力が現れる。孤児として育った彼女にたくさんの村人が治療を求めて訪れるようになる。
ワトソンは彼女と友だちになるが、彼女の起こす様々な奇跡的な治療や、生命に寄り添う感受性、ダンスを通して時空を変える奇跡的な感覚などに驚愕し、学者として魅了される。
・・・が、やがて問題が起こる。ティアの存在が、その島に布教しに来ていたイスラム教のマルドゥク(司祭)と対立してしまう。イスラムの経典では、ティアの能力は決して認知できないものであった。マルドゥクは、ジャカルタで十数年間修行してやってきた、島のイスラム化に全てを賭けている、鷹のような目をした男。動じたりひるんだりするところを村人の誰も見たことが無かった。
ティアは魔女扱いにされ、さまざまな根も葉もない噂をたてられ、やがて村人たちから社会的に干されていく。浜辺で一人遊びをする哀れな孤児になる。ワトソンも救おうとしたが救えない。
そんな逆境の中、ティアは一人でマルドゥクに二度立ち向かい、二度とも打ち克つ。その二度目の時。村のイスラムの礼拝のあと皆の見ている前で、モスクから出てきたマルドゥクの前にひとりで現れて対峙する。マルドゥクとにらみ合い、その威圧的な気をすべて受け止めて跳ね返し、たじろがせる。マルドゥクの顔に一瞬恐怖が走るが、それと同時に彼の背後にあったモスクの尖塔に火がおこる。そこはティアの能力を偽りの力、と書いてある経典の書庫だった。「やりすぎた!」とワトソンは思う。ティアはそれ以来、村から完全に追放されてしまう。
ある日、ワトソンは4才くらいの女の子と遊ぶティアを見つける。そっと隠れて見ていると、ティアは踊りながら、木の枝に触って女の子にそれを意識させ、そしてそれをふっと消してしまった。女の子はキャッキャッと無邪気に喜んでいる。そうしていくつかのモノを消していった後、踊りながら、そこにあった「世界の全て」を消してしまう。あまりのことに呆然と驚くワトソン。やがて消えた世界が徐々に戻ってくるとともに、驚いていた女の子も喜んでいる。
秋の収穫祭。村人が神に捧げるもっとも大切な行事。村人たちはチームに分かれ、一週間かけて祭りのさまざまな準備をする。祭りの日になり、さまざまな踊りが繰り広げられ、盛り上がる。
夜を徹した最後の明け方、収穫物の象徴を土地の神に捧げるクライマックスの儀式。打楽器たちの演奏するリズムとともに、村一番の踊り手が仮面をつけておどり、捧げ物を神の台におくことになっている。
仮面をつけた踊り手が現れ、見事な踊りを舞ってゆく。やがて誰の目にもわかる・・こんな踊りができるのはティアしかいないと。見事な舞いとともに捧げ物を神の台に捧げようとしたとき、猛然とでてきてそれを叩き落した者がいる。バジリスク(見るものすべてを石に変える砂漠の怪物)のような目をしたマルドゥクだった。
仮面を剥ぎ取ったティアとのすさまじい無慈悲なにらみ合いとなった。
お互いに決して引くことができない背景を抱え、無慈悲なにらみ合の時間が流れた・・・・・。
ワトソン氏は、マルドゥクの中にある種の理解が起こった、と感じた。これだけの仕打ちを受けても、引かずに懸命に立ち続けているティアと、その背後にある力に対して、ある種の敬意が生じたのではないか、と。
しかし同時に自分の道も、決して引くことのできないひとつの人間的な道なのである、と。
次の瞬間、マルドゥクが思いもよらぬ行動に出る。右手を顔の横に振り上げる。そして、人差し指をそのまま自分の目の横にさしこみ、片目の眼球をひき抜いたのだ。自分が叩き落した神への捧げ物の代わりとして、これを使え、と自らの目を差し出したのである・・・・・。
ティアは、それを受け取って再び踊り始めようとする。動きかけるが、もうその力は無く絶望の表情でその場にうずくまってしまった。
村人たちの間に不安が広がる。もう夜が明けてしまう・・・神への儀式が完遂せずに終わってしまう・・。
そのとき、別の女性が仮面をつけて現れた。長老はそれが誰だか確かめると音楽隊に猛然と合図をし、彼女は「捧げ物」をティアから受け取り、踊り始めた。82歳の老婆だった。若い女性が乗り移ったとしか思えぬような奇跡的な舞いをして、捧げ物を神に供えた。
ほどなく滝のような雨が降り始めた。村人たちは帰途につき、雨の中に最後に残ったのは、力尽きて座りこんだまま雨に打たれる白髪の老婆だけだった。
その後ティアは消えてしまった。どこを探しても見つからず、村人の誰も知らなかった。村は何事も無かったかのような日常に戻る。マルドゥクは、明らかに人間が丸くなった。村は徐々にイスラム化されていくだろう。時代の流れには逆らえない・・・。
ティアは、どこからも見つからなかった。やりきれない思いのワトソンは長老に訴えるが、知恵の深い穏やかな人格者である長老は、これも「運命」だったのだ、すべてはそういう「運命」なのだ、と応える。
そしてワトソンは、気持ちの晴れない、重い気分で島を後にし、この話は終わる。
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ワトソン博士は自らを「Life Scientist(生命科学者)」と位置付け、生命の霊的現象と物質科学の融合を目指した人ですが、この事件こそが彼の研究人生の方向を決定付けた、ということです。
事件の経過部分だけを抜き出しましたが、著書自体は島の習俗や自然の研究、また科学者としてのさまざまな考察がたくさん挟まれます。それらの苦手な人には、ちょっととっつきにくいかもなぁ、と思い、ティアの部分だけ抜き出しました。