こんばんは
りおです
今日は、完全なるパロディです
パロディ嫌いな方は、また次回の更新をお待ちくださいませ

本日のテーマ写真:
チェさんどうぞお入りください
はぁ、やっと、あと1人になった
明日は非番だし、早く帰って、たまったドラマの続きを見ないとね
疲れた首を伸ばすように、首を左右に振り凝りをやり過ごす
今日は本当に、忙しい日だったわと、ウンスはうーんと一度大きく伸びをし、よし、あと一息!と気合を入れた
ウンスは残り1人となった、カルテ1冊を手に取り、ぺらぺらとめくり始める。そして、その患者のカルテを、これで最後ねと思いながら、いつものように目を通していった
チェさん29歳
初診の患者か
ウンスは、カルテと一緒に、いつもはさまっているはずの問診票を取り出し、同じように目を通していった。しかし、その患者の問診票は、白紙のまま、何も書かれていなかったのだ
あれ、問診票ちゃんと書いてないじゃない
ウンスは少し苛立ちを覚える
あの受け付けに入った新人、駄目じゃない。きちんと書くように言ってくれなきゃ。後で注意しないと…ほんと困るわ
ブツブツと文句を言いながら、眉間にしわを寄せ目を細めた
「はい、次の方、チェさんどうぞ」
とにかく、最後の患者を、手っ取り早く終わらせてしまおうと、待合室で待つ、最後の患者に呼びかけた
ウンスは、廊下に声が伝わるように、大きめの声で名前を呼び上げ、部屋の入口に意識をやる。すると、重々しい静かな気配で、一人の患者がすっと姿を見せたのだった
長身で、なかなかお目にかかれないような、モデルのような顔立ちの若い男。無表情で真っ直ぐ目を向けて、つかつかと大股で診察室に入ってきた
ウンスはその男の風貌に、少し驚く
あら、イケメンじゃない、なんでこんなイケメンが美容整形なんて
ウンスは、心の中で呟いた
しかし、すぐに異変に気付いた。その男は、普通の服装ではなく、時代劇の鎧と思われるものを、その身にまとっていたのだった
あら、何か変な恰好してる。まるで、時代劇の衣装みたいね…仕事帰りの、役者さんかしら??
何かしらと、違和感を感じながらも、ウンスは診察を続けたのだ
「どうぞお座り下さい」
ウンスが患者を促すと、真っ直ぐに強い視線を放って、その患者は椅子にどさりと座った
強すぎる存在感にウンスはびくっとする
なっ、何かこの人迫力あるわね…主役級の方かしら?
でも、こんな人、見たことないわよね?
「チェさん、こんにちは。私は医師のユです。今日はどうされました?」
いつもの調子で名前を告げ、ウンスは患者に挨拶をする
患者が話しやすいように、にこりと柔らかな笑顔を作り上げ、お得意のビジネススマイルをした
しかし患者は言葉を発さず、ただ、食入るようにウンスを見つめていた
あまりに強い視線に、たじろぐが、負けじと虚勢をはる
「チェさん、どうしたのかしら?えっと、どこが気になるの?目も鼻も悪くないわよ、頬を少し削って、唇を少し薄くしてみる?」
どこか違和感を感じつつも、伺うように問いかけるウンス
患者チェは、気になるところ?あぁ、そういう事かという顔をして、片手の手のひらで、胸元をポンポンと2回叩く
えっ?
胸が悪いの?
やだ、科を間違えているじゃないの
「チェさんごめんなさい、ここはね、美容整形外科なの。御希望は胸部外科?それとも循環器かしら?」
「”びよおせいけいげか?”」
片言に言葉を発する、その男性患者チェ
あら、この人、韓国語分からないのね
「Can you speak english?(キャンユースピークイングリッシュ)」
ウンスは、言葉の通じない外人と思われるチェに、それではと、試しに英語で声をかけてみた
眉間にしわを寄せたチェ、英語が分からないようだ
そう思っていたところ、突然チェが言葉を発したのだった
「何を言っておるのです?」
うそ、韓国語じゃない…
「やだ、チェさん、あなた韓国語分かるんじゃない」
何か気味悪い
変な人だわ…
まぁ、いいか、胸部だったら私なら、昔取った杵柄(きねづか)
何かおかしな人だし、他に科に回してトラブルになっても、あとあと面倒ね。ちゃっちゃと、手早く終わらせてしまおう
「で、チェさん、今日はどうしたの?」
「胸が…痛むのです」
「そう、胸が、痛いのね。それは、どんな時に痛みますか?」
チェは、ウンスの言葉に、ぎゅっと唇を小さく噛みしめた
そして、言いづらそうに、小さな声でぼそりと呟いたのだ
「ある女人を見ると、胸がドクンと鼓動し、息が苦しくなって…」
えっ?
やだ、何それ、新手ナンパ?
いるのよね、そういう患者。患者として近づいておいて、口説いてくる男
私が3か月付き合った二人目のあいつ
あいつも、患者だった。つい、金目のものに吊られちゃって私ってば…
長くは続かなかった
だって美的にあまりに…
チェのその言葉に驚き、ウンスは目を大きく見開いた
「えっ、チェさん…えっと、どういう事かしら?恋煩いってこと?」
「恋煩いとは、恋慕(よんも)の事か?」
「”よんも”?よんも?あ~、よく時代劇で出てくるあれね。そうそう、”よんも”よ、よんも!」
やだ、この人って完全に、役者に成りきっちゃってるのね
職業病みたいなものかしら
最後に何だか、めんどくさい患者にあたったもんだわ
まぁ、適当に話流して合わせた振りして、さっさと帰ってもらおう
「えっと、じゃぁ、チェさん。あなたは、恋慕(よんも)している方がいて、胸が痛いという事かしら?」
「それが、分からぬのだ」
「くすっ、チェさん、分からぬって、でも、あなた気になる人が居るわけでしょ?その人と、あなたの関係はどんな関係かしら?」
ウンスは、時代劇かぶれのその男と、”ごっこ遊び”のように、やり取りする事が楽しくなってくる
「関係ですか?」
「そうよ、その女性との関係は?」
患者チェは、思いつめた様に何かを考えた後…あぁ、そうだと、思いついたように、何度か頷く
そして、たいそう恐ろしい…
ウンスをガタガタと震えさせるような、恐ろしい発言をしたのだった
「関係は…攫った者と、攫われた者です」
ウンスは、チェの言葉にその耳を疑った
嘘…
やだ、嘘でしょ
攫った(さらった)者と、攫われた(さらわれた)者って…
やだ、信じられない、もしかして、この人って、誘拐犯なの?
拉致したってこと?
ど、どうしよう…
誘拐犯と密室に二人、このまま人質にされても困る…
ウンスは自分の全身が、ざわざわと鳥肌で覆われるのを感じていく
ふと目をやると、チェの手元に、黒く長い1本の棒が目につく…
えっ…
あっ、あれって、刀じゃないの?
ウンスの目についたその黒く長い棒。持ち手があり、剣の鞘のようになっているのだ
やだ、あれ、どう見ても刀よね…凶器まで持っているじゃない…
机に置いた手元が、かすかにガタガタと震えだした
ど、どうしたらいいの…
犯罪心理学は選択科目であった。だけど人と向き合うのが、そんなに好きではなかった私。もちろん専攻していなかった
プロファイリング何て論外。多少興味はあったけど、やり方なんて、全く覚えていない。あぁ、もっと、刑事モノとか見ておくんだった
ウンスの目に、涙がじわりと浮かぶ
そうよ、こういう時は動揺を見せたら駄目。とにかく自然に、自然に何でもないように、ふるまうのよ
「チェさんえっと、その人は、その…今、監禁とかしちゃったり…しているかしら?」
イムジャを監禁?
それが俺のこの胸の痛みと、何の関係あるというのだ
キチョルの事もあるので、住まいや行動は、典医寺(チョニシ)にほぼ限られる。しかし、特に監禁などはしておらぬが?
「ある程度は、自由にさせております」
うそ、軟禁だわ…
軟禁をしているのよ
冷や汗がタラリとたれる
「え、そうなのね。自由にね…いいことだわ。できれば、完全に自由にしてあげたほうが…アハハ、いえ、何でもないわ」
危うく犯人に説教をしそうになり、ハッと我にかえるウンス
下手に犯人を刺激をしたら、あの凶器の刀で刺されかねない
ウンスはしまった事を口走ったと、チェの様子をうかがった
良かった、怒ってないようね…
とにかく話を変えないと
「で、チェさん、その…その女性は、あなたの事を何て?」
その女の人、大丈夫かしら、いきなりきっと攫われて、さぞかし怖い思いをしているに違いない
「俺の事ですか?」
本当に何故そのような事を聞くのだ
チェは、そのような事が関係あるのかと、少し苛立ちながら、しかしこれも診察だろうと、しぶしぶ考えた
俺の事をイムジャが?
何といっておるかと?
あっ、そうだ
「そのお方は、俺を、”さいこ”だと。”さいこぱす”だと言っております」
ウンスはその言葉を聞いた瞬間、全身の血の気がさっと引いたのだった
挙動不審な男、謎の衣装、刀、拉致、軟禁、そして、サイコパス…
もう駄目だ…
私はこの男に殺されるかもしれない
でも、どうせ殺されるなら、その女の人だけでも助けてあげたい
「チェさん、その…その女の人を、あなたは、元いた場所に、帰してあげるつもりはないの?」
元いた場所に帰す。その、医者の言葉にチェは、胸がどきんと痛くなる
まただ、胸が痛む
そうなのだ、その事を考えると俺は…
俺の胸がぎゅっと苦しくなって、ズキズキと痛みだすのだ
さすが、天界の医者だ、俺の痛みを上手く誘発するとは…
「元の場所に…帰して差し上げねばとは、思うております。しかし、俺は…」
チェは胸がもっと苦しくなって、言葉に詰まるのだった
はぁ…とチェが大きくため息をついた
その苦悩に満ち溢れたような、チェの姿にウンスは、どこかほっとする
あぁ、この男も、罪の意識で、きっと葛藤をしているのだ…
「その…その彼女はどうなの?帰りたがっているの?」
「それが、分からぬのです。前は帰りたいと、見る光景に怯えておりました。しかし今は、俺にも時々、笑顔を差し向けて下さるのだ…」
あぁ、あれだわ
誘拐犯と、人質との間に、生まれるという親近感。そう、確か…
ストックホルム症候群(ストックホルムしょうこうぐん、Stockholm syndrome)は、精神医学用語の一つで、犯罪被害者が、犯人と一時的に時間や場所を共有することによって、過度の同情さらには好意等の特別な依存感情を抱くことをいう。(wikipediaより引用)
緊迫した密室で、誘拐犯と二人きりで過ごす事で、何故か不思議な感覚がうまれだすという
過去に、そのまま結婚した事例もあるくらい
信頼や愛情を感じるようになる
あら、私もある意味、今その状況じゃない
この人がどこか気の毒になってくる
その女の人の笑顔を見て、この人は拉致した罪の意識を感じている…
犯人の罪の意識を上手にくすぐる。いいじゃないこの展開
「チェさん、ほら、もしその女の人の笑顔を見て、胸が苦しくなるのなら…その思いをちゃんと伝えればいいのよ。きっと分かってくれるわよ」
「そうですか?俺に、その想いをイムジャに伝えよと?」
イムジャ?
なにそれ
「そうよ、きっとちゃんと伝えれば大丈夫よ、彼女も分かってくれるはず」
自首して解放すれば、訴えたりしないで、きっと罪も減刑されるはず
「笑顔を見て苦しくなるって事は、それが”あなたの思い”なのよ。ねぇ、チェさん、思い立ったら今がチャンスよ?
もう取り返しがつかない事になる。ね、さぁ、早くその人の所にいって、ちゃんと思いを伝えてあげて」
ちゃんと罪の意識を伝えて、
せめて、情状酌量になればいいわね
「かたじけない。俺は、この胸の痛みが、何かよう分かりました。イムジャに”俺の想い”をしかと伝えます」
あぁ、よかった
分かってくれたわ
あとはその女の人が、元いた場所に、無事解放されればいいけど…
でも、どうなのかしら
誘拐犯と、人質の間に生まれた、只ならぬ親近感って、解放されれば自然と消えてしまうものなのかな?
こんな誰もが放っておかないようなイケメン。彼女は笑顔も見せてると言うし
案外、本当の恋が生まれて、そのまま住み着いちゃったりして…うふふ
拉致するような悪い男だけど、罪の意識を感じ憂いに満ちた、この表情。他人の私でも、ゾクっとする。イケメンって本当に得だわ
「チェさん、良かったわ、分かってくれて。あなたの胸の痛みを信じてね、それがあなたの本当の心よ」
「医員殿、あなたのおかげで、胸のつかえがすっと取れました…」
ウンスはクスリと笑って、チェをさぁ、行ってと背を押した
武士風の男チェは、ふかぶかと礼をして、剣を片手に去っていった
チェが完全に見えなくなったのを確認すると…ウンスはガタンと崩れおちた
はぁ…
怖かった…
殺されるかと思った
どうしよう。通報すべき?
でも、あの人、これから、ちゃんと、拉致した女の人に、思いを伝えるって言ってたわね
そうきっとあの人なら…
どこか、透きとおるような目をしていた
きっと、犯したくて犯した罪じゃないはず
つい、出来心で軟禁してしまったのよ
あの人は心底悪いひとではないと、何故かその時私は思ったのだ
今日の事は、私だけの心の中に、そっとしまっておこう…
ウンスは、小さくため息をつくと…
チェが思いを伝え、その人に許しを乞う事ができるよう…
心の底でそっと手を合わせ、願うのだった

「ナナさん、何言っているのよ。時代劇風の男よ?」
「ユ先生なにを言っているんですか?最後の患者さんは女性の方で終わりですよ」
「嘘、ちょっと、いたじゃない。鎧を身にまとって、ほら、ちょっとイケメンの、黒髪の男」
「先生、疲れすぎて夢でも見たんでは?」
「絶対いたのに…じゃぁ、あの人は誰だったの…?」

「はっ、夢か…なんとリアルな夢だったのだ。この胸の苦しい痛みが、イムジャあの方への想いだと…?
夢の中の医者は、あの方に瓜二つの医員であった。その方が言うておった事、あながち間違いではないのだろうか…
どうやら、俺は…あの方をお帰しする事を思うと胸が痛むようだ。夢にそれを気づかされるとは…
あのような問診のみで、胸の痛みの原因を言い当てるとは…
あの騒がしいイムジャを、知的にしたような天界の医員。あの方はきっと天界の医仙だろう」
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