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「上層部より直々に依頼?ウチに?」
始末書と予算、修理関係の書類が山のように積まれた机に伏していた顔を上げる。
見知った顔、副長のメルが笑顔で一枚の通達書類を目の前に掲げる。
「それも緊急に、出撃してくれとのことです」
はて?O.C.U.陸軍内部でも特殊な位置に存在している我が部隊。
前線での新型機実験、小隊戦術研究が主任務であり、
激戦区の最前線以外での活動は無いに等しい。
今回の依頼は駐屯している基地付近にある、アリーナに不審な機体が進入したらしい。
それを見つけ出し、捕獲が困難な場合は破壊せよとのこと。
挙句、見ず知らず、聞いたことも無いようなまったく関係無い筋からの出撃要請だった。
「ウチなんかより、ほかに出撃態勢の整った連中がいるだろ。そっちに回してやれ」
そんな怪しい依頼なんぞ受けられるか!っとばかりに再度机に顔を伏せる。
「前払い、75万H$」
・・・
「前回の機体破損時の賠償金、各種備品の整備費用」
選択肢は残っていない
「出ればいいんだろ!出れば!アクセルとシャドウ、
あとトイレにも声かけとけ、メルはバックアップよろしく!」
腹いせに勢い良く閉めたドアの向こう、書類の崩れる音とメルの怒鳴り声が聞こえたが
知ったことか!
<アマナイ大尉、依頼を受託してくれたことを先に感謝しておく。>
<だが、状況はあまり芳しくない。>
<現在、未確認機体はWAP試験場第9区画に潜伏している模様。>
<先発したアリーナ所属の警備部隊とは既に交信不能。>
<彼らからの最後の情報によると、敵はたったの1機らしい。>
<しかし、監視カメラが敵機体を捕らえる前に全て破壊されてしまっている。>
<そのため、こちらとしても満足に情報を得られていないのが現状だ。>
<速やかに未確認機体を排除してくれ、よろしく頼む。>
「隊長、つまり我々3機で敵1機を狩っちまえばいいんでしょ?」
黄土色にペイントされた機体がだだっ広い通路を進む
先頭のアクセルが乗るゼアレイドFXから通信が入る
「まぁ、そういうことだが油断するなよ。どうやらその機体、1機だけに警備部隊の連中は全員やられちまったみたいだしな」
「油断なんかしませんが、俄には信じられませんね...」
その後方、背中には妨害電磁波照射装置、EMPを背負ったシャドウが続く
「それにしても、隊長がゼニスなんてどんな心変わりで?」
不安に湿った空気を打ち消すかのように、それはないか
単に俺を笑いにアクセルが話しかけてくる。
そう、いつもはレコン、索敵手としてゼダムXに搭乗している
機動性を犠牲にせず、重量があるソナーにミサイルを積載する関係上この機体一択である。
「今回の戦闘エリアが狭くて、天井が近いからだ...」
そう、ミサイルが使えず
防御力がある機体か、機動性が高い機体を選ぶしかなかった。
この際アクセルとシャドウに合わせてアサルト機体を選び、機動性の高いゼニスVを選んだのだ。
まぁ、前々から通信機器関連をこっそり強化したりして
ハンガーの隅でひっそりと出番を待っていた機体でもある
「っと、無駄話はこの辺で終わりだ」
ヴァンツァー3機は余裕で並列状態で入れそうな大きなゲートに到着する。
「9」と大きくかかれているから間違いないだろう。
「トイレ、配置についたか?メル、ゲートを開錠する準備はできたか?」
「大分前から配置にはついてる、いつでもいけるぞ」
「ゲート開錠準備完了、ジャミングに備えて特殊回線を開きます」
流石に緊張してきたが、全ては75万H$のため...
「ゲートオープン、レーダーECM作動、各機突入し敵機体を殲滅するぞ!」
地鳴りと共に開かれた光景、煙を噴きながら朽ち果てたヴァンツァー
ゲートを背に赤い機体がただ、佇んでいた。
それがゆっくりとこちらに振り向く
「敵機体のデータ照合を開始...旧式のヴァンツァーのようです。嫌な予感がします、気をつけて...」
メルの通信を聞くまでも無い
敵はただ一機、前線ではまったく見ない機体 赤く塗装されたテンダスMk1 である。
「ターゲットカクニン...ハイジョカイシ...」
テンダスの外部スピーカーから聞こえてきた声、しゃがれた電子音
コックピットは黒塗りのスモークガラスで中はどうなっているかわからない
一体何者?そんな疑問を浮かべるまもなく
凄まじいスピードで接近するテンダス
咄嗟にバランスを崩し、右に機体が傾いたのが幸いして
敵のロッドを回避する
なんつうスピード...そう言いかけた
外したロッドが地面に当たり、物凄い爆発と振動を巻き起こし
俺のゼニスは吹き飛ばされた
「なにやってんすか隊長!」
吹き飛ばされた衝撃で意識が飛びそうになるが
既に散開してたアクセルからの通信で意識を復活させる
何とか機体を立て直すが、モニターには既に目前まで迫ったテンダスが
マシンガンを乱射してくる。
先ほどの転倒で潰れた右腕で防御しながらRDで距離をとる
アクセルとシャドウからの濃密な銃弾を浴びても
減速すらせずに俺に向かってくる赤いテンダス
「ふざけろ!」
左手に構えたキリシマをテンダスの脚部に発砲
当たっているはずなのだが
外見上ダメージを受けた痕跡が無い
再度振り上げられるロッド
かすっただけでも機体が吹き飛びかねない
機体のリミッターを解除して敵とすれ違うように機体を加速
振り上げられたロッドをキリシマの銃身で殴り飛ばす
なんとか無事に距離をとり、振り向きざまに自機の左腕を見てみるが
根元から吹き飛ばされていた
「敵のFCSに障害を与えようとしているのですが、まったく効きません!なんですか、あの機体は!」
「くそ、何発当てれば効くんだよ!本当にテンダスか!?」
戦闘前の威勢はすでに消えうせている
旧式1機にフル装備の戦闘仕様機体が3機がかりで傷の一つもつけられない
「トイレ、直ぐに着てくれ!メル、ゲートを開放しろ!撤収する!」
しかし、
「そ、それが開かないんだ!ゲートが操作を受け付けない!」
な...
「ダメです、端末に進入を試みましたが強烈なジャミングでゲートを開放できません!」
そういう夢を見た(挨拶終了)
分かる人には元ネタがわかるはずだ。
そんだけw