薬の知識 SSRI | ティル・ナ・ノーグ Tir na n-Og
 抗うつ薬の台頭に立っているSSRI(エスエスアールアイ)。今や精神疾患を持つ人だけに限る存在ではなく、その効果や意味はもはや一般常識として問われる時代になってきました。

 何の略か知っている人は居ても、全く意味が分からない人もたくさんいるはず。自分も学校に通うまではまさにそれでしたので…。ググればWikiなど簡単にヒットしますが、ここでは言語的にやんわりふんわり、その効果を書いてみようと思います。


まず何の略称なのか。
Selective(選択的
Serotonin(セロトニン:神経伝達物質のひとつ)
Re-uptake(再取込み:生理学用語)
Inhibitors(阻害剤:生体化学用語)

 これでSSRI「選択的セロトニン再取込み阻害剤」といいます。清々しい程、英語を日本語に翻訳しただけですね。

 「見る」とか「痛い」、「眠い」などの感覚は、脳内の無数にある神経細胞の情報のやりとりで行われています。神経細胞とはなんぞやってことですが、生物の教科書とかで見たことはありませんか?自分はありません(笑)

神経細胞

 こんな感じ。その神経細胞間(シナプス)を神経伝達物質が移動することで、ヒトの身体が活動します。神経伝達物質にはドーパミン、アセチルコリン、ノルアドレナリンやセロトニンなどが代表的です。
 うつ病はセロトニンの伝達減少が原因で起こる精神活動の抑制と考えられています。なのでうつ病は「心の病」ではなく単純に「脳の病気」と言えます。ネット上ではよく「うつは甘え」と聞きますが、うつが“気分”から“病気”へ移行すると、これは完全に甘えどころではなくなります。
 うつ病になるといろいろな行動が抑制されて、何をするにも億劫になってしまいます(医学で「精神運動抑制」といいます)。これは神経伝達物質の異常なので、決して「心が弱い」だのと自分を追い込まないで下さいね。

 セロトニンが減ってしまうと、神経細胞(特にシナプス)ではどんなことが起こるかを図に表すと、

通常とうつ病


…のように、伝達に使われないセロトニンは再度取り込まれていきます。このように見かけ上、セロトニンが減少してしまうのがうつ病の特徴です。

 ではSSRIはどんな薬理作用があるのか。そもそもこの種類の薬は、セロトニンそのものを増やす作用はありません。仮に増やしたとすると、生体内で過剰反応を起こし、統合失調症の主症状(幻覚・幻聴・一次妄想など)が現れて大変危険です。

 再度取り込まれるのを阻害することで、シナプス間のセロトニン量を増やし、受容体へ取り込まれやすくして通常の伝達量まで持っていくのがSSRIの役割です。これは大雑把な例えですが、分数で説明すると流れが掴みやすくなります。



シナプス間のセロトニンの数/セロトニン受容体の数
健康な状態⇒ ←セロトニンの伝達バランスが保てている
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うつ病⇒ ←セロトニンが伝達不足に陥っている状態
SSRIを投与中(~2週間)⇒10 ←セロトニンが増えたと誤認し受容体も増える
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SSRIを投与後(2週間~)⇒ ←受容体は不必要と認識し正常に戻る



 SSRIを処方された時、必ず2週間は様子を見るようにとお医者さまから言われます。それは上記の理由から説明でき、飲み始めはセロトニンが再取込みを阻害されても受容体が増えてしまうために、効果が現れません。2週間ほど経つと、その受容体が必要ないと判断されて無くなって、初めて効果が出てきます。
 そして再取込みの阻害とは、下記のようなイメージです。

SSRI

 
 一見SSRIはセロトニンの邪魔をしているように思えますが、取り込ませなければ見かけ上セロトニンが増えます。


 SSRIのほかにも、再取込み阻害剤はあります。たとえばSNRI(選択的ノルアドレナリン再取込み阻害剤)も、上図と同じ働きでシナプス間のノルアド量を増やします。



 抗うつ薬というのは、たぶん我々が想像しているものよりも、はるかによくできているのではと思います。シナプスはナノメートル単位の世界ですし、脳の神経に直接作用するなんて、薬に一体どういう働きが隠されているのでしょうね。