これこそオリジナル！ #ダイエットプログラム【第7話】設計範囲の見直し

■主題：何でもかんでも盛りだくさんは絶対ダメ

萌華(もか)にお願いして迦皇(かのん)も今日は横から大関家のダイエット外来にゲスト参加させてもらっていた。
聞くだけで透明人間扱いという条件付きだった。

そもそも年齢からしても、BMIで見ても迦皇(かのん)には縁遠い話でダイエット外来に参加する理由がなかったからだ。

迦皇(かのん)が参加している理由は萌華(もか)と制作しているDPMPP(ダイエット・プログラム・マネジメント・プログラム・プログラム)というExcel上で動くアプリ開発のためだった。

「久しぶりです。塁さん足の方はどうですか」

「まだボルトが入ってるよ。思ったより大けがで参ったよ」

萌華(もか)がITに詳しい人を会社で探しているという話を聞いた塁が、迦皇(かのん)に電話をしようとしてスマホを取ろうと食卓で手を伸ばしたところ、見事に足を踏み外し転倒したことが原因だった。

体重が重すぎる塁は脚が自重を支えることができず、アキレス腱と膝の十字靱帯、さらには脛骨の複雑骨折とという大けがになってしまったのだ

そんな難しいことをしたのではない。
椅子から立ち上がって手を伸ばしただけだ。

あまりにも代償が高いような気がしないでもないが、怪我の功名で迦皇(かのん)は萌華(もか)の勤める会社に入社することになった。

ダイエット指導をしてくれるトリサミットソン先生が現れた。
なかなかの美人女医さんだ。

彼女の名字がトリサミットソンなんていう外国人風なのは、海外で研修医をしているときに出会った現地の人と結婚しただからだ。
まったく見込みもないのに萌華(もか)の兄3人は先生を見ることが目的という感じだった。

もう何回もやっているせいだろうか。
大関一家の理解度が高まっているからだろうか。

迦皇(かのん)には解せないことがあった。

大関一家は身長152cmでXLサイズの萌華(もか)が一番痩せている。
他の家族は萌華(もか)よりも一回りも二回りも大きい。

彼らが運動療法なんてしたらまた誰かが膝の靱帯を切ったり、複雑骨折をしかねない。
そのため主に食事療法だ。

迦皇(かのん)はモバイルパソコンをネットに接続し、先生の言う内容を検索していった。

食材や調理法の違いでどう変わるかなどである。

タンパク質の話になるとネット上では卵がダイエットによいなんて出てくる。
トリサミットソン先生の説明でもそうだった。

しかし

大関家の家業は養鶏だ。
卵はいつでも食べ放題でここ最近何度かけがをした塁の穴を埋めるために就職前に何度か応援に駆け付けたとき、毎回、食卓にはうず高く卵が積まれていた。

他にも肉、魚、大豆などもおすすめされていたが、大関家の食卓には常に大量に常備されていた。

一緒に摂取するとよいといわれるたまねぎ、にんにく、ネギ、ニラも大関家では十分以上に摂っているようにしか思えなかった。

先生からはあれが良い、これはダメという話が矢継ぎ早に発せられた。
もう聞いているだけで何が何やら、何が良くて、何がいけないのか訳が分からなくなってきた。

こうしてレクチャーが一通り終わると、それぞれが何かを学んだようだった。
自分の気に入った部分を切り取って、それをやろうと決めたようだった。

迦皇(かのん)の目にはこう映った。

多分逆に太る。

迦皇(かのん)にはシステム開発で似たような経験を何度もしていたのだ。
ダイエットとは明らかにジャンルが異なるのに一生懸命になればなるほど逆の結果が出るというものだ。

システム開発だとこんな感じだ。

システム開発の重要な工程にヒアリングがある。
システム開発の範囲に関連する人とたちが思い思いにああしてほしい、こうしてほしいと注文が入る。

その多くは2つに大分できる。

1つは、以前のシステムは使いづらくてしょうがなかった、もっと使いやすくしてくれればそれでよいというやたらぶっきらぼうなものだ。

もうひとつが、やたら細かいものである。
どのような感じかといえば、日付の入力はカレンダー入力にしてほしいとある人が言えば別の人は直接入力がよい、また別の人はスマホでおなじみの年月日てそれぞれ選択肢から選ぶドロップダウンという方式を主張する。
ちょっとPCの操作に慣れた人がいるとショートカットキーを割り当ててほしいなんて言う人も出てくる。
さらには、本日とか前年同日とかをボタンで一発で表示できるようにしてほしいなんて言われることもある。
みなの言い分を何とか実現しようとすると、複雑になり、画面も込み合い、結果として操作も面倒なものになる。
こういった機能は全体を通して共通化されていればよく、多少の不便を伴うことがあったとしても割り切って使ってもらう方が全体として満足してもらいやすくなるのである。

ところが、相手の話をうまく聞き取ることができず、あれもこれも実現しようとするエンジニアが多くいるものだ。

それが反映されたプログラムは「条件分岐」がものすごい量になる。
条件分岐とは「もしも〇〇ならば△△を実行する」という感じで「IF文」というものがその中でも代表的だ。

これが多く積み重なって結局どれにも該当しないとか、条件そのものが複雑すぎて正しく条件を規定できていなかったなど仕様上の不備が発生することもよくある。

厳密に作らないといけないようなイメージのあるシステム開発だが、実は一番大事なのは「だいたいこんな感じ」という大まかな流れなのだ。

100回に1回くらい発生するものは、それを人の手で対処するときの手間によってはシステムに組み込む必要があるか悩ましいところだが、1000回に1回とか、過去に一度だけあったといったものまで考慮する必要はないのである。

レクチャーが終わってから、頃合いを見計らいトリサミットソン先生に迦皇(かのん)は質問してみた。

「今日伺った話ですけど、とても細かくて複雑なのでなかなかうまくできそうもないのですが・・・」

「し～～っ」

先生は周りに聞こえないように小さな声で教えてくれた。

「本当は、ひとつの指針を立ててあとは無心に続けるだけでよいことなのはわかっているのよ。ただ、太ってしまっている人はそれができないから痩せられないの。だから、少しでもダイエットに興味を持ってもらえるようにあの手この手を繰り出さないといけないのよ。」

「確かに・・・」

「でも、うまく伝えるのは本当に難しくて、細かな断片情報を過大評価して逆効果ってことも多いの。それで、太った原因としてそこを指摘すると、この間言っていたことと違うなんてキレられちゃって、結構大変なのよ」

「そうなんですか・・・。何かシステム開発と共通点が多いような・・・」

「アメリカにいたころなんて、和食はヘルシーとか言って、天むすだけでもカロリー高くて仕方ないのに、肉汁で作ったバーベキューソースに、アボカド乗せて食べてる人とかいたのよ」

「もはや、それって和食でさえないような・・・」

「今の子風に言えば『それな』って言いたくなっちゃったわよ。大関さんのところはそれと比べれば大したことないわよ」

To Be Continued...

■登場人物紹介■

大関萌華(おおぜきもか)

美咲と同じエンジェルスシンジケートで経理課に勤める。
Hカップの巨乳の持ち主といえば聞こえがよいが、肥満の家系に生まれ育つ。
子供のころのあだ名は横綱。
コルセットで急にカッコよくなった美咲にいち早く気づきコルセットダイエットを決意する。
美咲と同じ電車で通勤している。
美咲より数駅遠い町で祖父母と両親、兄3人と暮らす。

水判土迦皇(みずはたかのん)

元フリーのSE。
萌華(もか)の兄の塁の友達の弟。
萌華(もか)が片思いを寄せている。

浦埼美咲 (うらさきみさき)

主人公28歳。独身。彼氏あり。
恵比寿のアパレルメーカー(エンジェルスシンジケート)でネットやカタログ向けの画像加工を行う部署でお仕事中。
自宅は大都会埼玉の大宮駅から少し先のJRの駅からすぐのところに家賃8万円の1LDKに乗り換えなしで職場に通えるというだけの理由で一人暮らし。
性格は周りから周りからちょっとちやほやされてみたい気もするけど、目立つのは苦手という結構ありがちなタイプ。
案外見栄っ張りな一面もある。

本庄歓波(ほんじょうわいは)

エンジェルスシンジケートの珍入社員でどこまでも問題児。
自分の気に入ったものにはとことん固執するのにそれ以外はとことんずぼら。
早合点で超短絡思考でおバカを絵にかいたよう。
自分勝手な性格と誤解されやすく取りつきづらいイメージを持たれ孤立しがち。
しかし本当は・・・。

岩槻陽菜

23歳。
美咲の勤める会社で派遣社員をしている。
社内ではかなりイケているルックスの持ち主。
美咲は彼氏さんの「陽菜ちゃんってかわいいよね」の一言でやきもち持ちを焼いたことから、勝手に美のライバル視している。
陽菜本人はどう思っているかは定かではない。
というかまだ未設定。

阿倍沃(あべよう) 商品開発部長

会社で一番の美人で、モデルもこなし、仕事もできる。
社長の愛人という根の葉もない噂もある。
女子社員は陰で「倍沃」(べよう)と呼んでいる。
本人はそれに気づいているが、そのことはまんざらでもないらしい。
なぜなら倍沃(べよう)はコルセットダイエットの一番人気のバーヴォーグ(Burvogue)の漢字名だからである。
そして今では美咲にとってのコルセットの師匠でもある。

戸田由喜枝

正社員なのになぜか不定期出勤で誰もが一目置く存在。
ミシンの達人であっという間にあらゆる服のお直しをしてしまう。
ミステリアスな存在である。

秋ヶ瀬翔太

美咲の彼氏で同僚。
お人好しで頼まれたら断れない性格。
美咲にだけはなぜかやたら強気。
それ以外は未設定。

須賀谷メロ、森掛(もりかけ)桜、倍賞泉花(せんか)

WEB営業部WEB企画課の三人組
リーダー格で意地悪な須賀谷メロ
嘘付きの森掛(もりかけ)桜
強欲の倍賞泉花(せんか)
社内ではいわゆる腫物だが、本人たちは・・・

神園社長

美咲が務める会社(エンジェルスシンジケート)の社長。
高校生の娘がいる。

妻沼WEB営業課課長

美咲の直属の上司風。
課付きの課長なので実際には部下はいない。
理屈っぽく行動力はない。
ハゲデブで脂ぎっている

川里経理課長

萌華(もか)の直属の上司。
寡黙でなんでも他人事の態度。
貧相なガリガリ出っ歯。

大関一家(年齢順)

　祖父：寅(とら)
　祖母：桂(かつら)
　父　：健人(けんと)
　母　：貴理子(きりこ)
　長男：塁(るい)
　次男：コナン
　三男：三斗(さんと)
　長女：萌華(もか)

トリサミットソン社(やしろ)先生

旧姓は小川。
両親が経営する白蓮総合病院の内科医。
ダイエット外来を担当している。
大関一家に毎週土曜日ダイエットレクチャーを実施。

■作者紹介■

)プロクビレイター(のAbooです。
世界中のウエストをくびれさせることが野望のプロのクビレイターです。
クビレイトに欠かせないものといえばコルセット
コルセットで肋骨を引き締めることでアンダーバストからヒップにかけて整形級のボディラインを作っちゃおうっていう痩身術です。
世間ではコルセットダイエットなんて呼ばれています。