デブ活卒業 #コルセットダイエット早く人間になりたい【第87話】久しぶりの朝は？

ついに免許も取れて、今週からみんなと同じ出勤時間になった萌華(もか)。
ただ一つ違うのは、今までは駅までじいちゃんが送ってくれたが、今は自分の車で行くようになったことだ。

今日は少し時間にゆとりを持って家を出た。

月極の駐車場に停めてから駅まで歩いてもまだ、時間に余裕があった。

この1か月間周囲に迷惑をかけまくったから少しでも役に立ちたいと思って来た。
川里経理課長と顔を合わせると開口一番に、これでこれから朝が楽になると言われた。

迷惑をかけてしまったなという反省と、もしかして自分は会社で役立っているのではないかという自負とが複雑に湧いてきた。
始業時間になるとすぐに、森掛(もりかけ)が萌華(もか)のところにやって来た。

「大関さん。マウスが壊れてしまったので交換してください」

彼女は3台のマウスを持ってきた。
3台も同時に壊れたということか。
普通に考えてそんなことはあり得ない。

もしかしたらOSのアップデートでマウスを認識しなくなってしまったのではないか。
そう考えた。

しかし、迦皇(かのん)が入社してからはIT関連は彼の仕事で、萌華(もか)の経理となんとなくパソコン担当という状態ではなくなったはずだった。

ただ、萌華(もか)としてはこれはチャンスでもあった。

備品ロッカーに予備のマウスが3台あるのを確認し、迦皇(かのん)のところへと向かった。
迦皇(かのん)の席の島は美咲と陽菜がいる。
陽菜のすぐ後ろが歓波(わいは)だ。

萌華(もか)だけ席が離れていた。

迦皇(かのん)のいる島を見ると、美咲がいなかった。
「今日は美咲さんは」
「美咲先輩は、急遽春日部倉庫です。」

さすが主任になると外出もあるのかと感心した。

萌華(もか)は迦皇(かのん)に問いかけた。

「マウスが同時に3台壊れてしまったようなんですけど、これってOSのアップデートか何かあったんですかね」

「何か特殊なマウスなんですか」

「いえ、普通のHIDデバイスドライバ動くものですけど。」

「じゃあ、何かインストールしてしまったんですかね」

「なんかボタンは押せるのだけどカーソルが動かないって言うんです。しかも、webチームの3人ともです。」

「もしかして、画像加工アプリが悪さしてるのでしょうかちょっと調べてみましょう」

迦皇(かのん)は似たような不具合を訴えている人がいないか検索してみた。

「特に問題なさそうですね。とりあえず僕のノートパソコンに差してみましょう。」

マウスは差し込むとすぐにHIDデバイスとして認識され、スタンダードマウスとしてマウントされた。
しかし、確かに森掛(もりかけ)の言う通り、マウスカーソルが移動しなかった。

3台が3台とも同じ状態だった。

迦皇(かのん)が1台のマウスを裏返してレーザー照射部を見た。
そこには何か白濁したものが固着していた。

眼鏡用のマイナスドライバーで剥がそうとしてみたがまったく剥がせなかった。
他の2台も裏返すと同じように白いものががっちりとくっ付いていた。

萌華(もか)は迦皇(かのん)と森掛(もりかけ)の席へ赴くと、迦皇(かのん)が尋ねた。

「このマウス、裏側にこんな白いものが詰まってしまっていてそれで使えないようですけど、何か心当たりありますか」

「わからないです。とにかくこれじゃあ仕事にならないので何とかしてください」

「そうですか、でも原因がわからないとまた同じことが起きるかもしれないですよ。」

「今までそんなことなかったです誰かが瞬間接着剤を付けたんです。」

横から須賀谷も割って入ってきた。

「しかもこれゼリー状瞬間接着剤ですよ。ひどくないですか」

倍賞がさらにたたみかけてきた。

「私たちの時間返してくださいこのせいで今日終わらなくなったらどうしたらいいんですか」

萌華(もか)は迦皇(かのん)と顔を見合わせた
普通に考えてありえないことだ。
誰かが意図的にやったとしか思えない。

萌華(もか)が尋ねた。

「でも、これって誰かがわざとやったんでないとこんなことにならないと思うんですけど・・・」

「そんなの決まってるじゃない。こんなことするの歓波(わいは)ちゃんしかいないでしょ」

「そ、そうなの私にはそんな風に思えないけど・・・」

「大関さんは本庄歓波(わいは)の裏の顔知らないからそういうこと言えるのよ」

歓波(わいは)は会話が聞こえているようだったが無視していた。
萌華(もか)はあることに気が付いた。

3人はなぜそれがゼリー状の瞬間接着剤だと知っていたかだ。
どう考えても自作自演のようにしか思えなかった。
しかし、この3人は一度噛みついたら離れない蛭のようなしつこさで、スパムメールよりも速く噂を拡散させる。
萌華(もか)はこれ以上関わりたくなかった。
迦皇(かのん)に押し付けるのも気が引けた。

「歓波(わいは)ちゃんを犯人呼ばわりするのはよくないと思うけど・・・」

「大関さんは知らないかもしれないけど、歓波(わいは)ちゃんはいつも私たちより早く来て、いつもひどいことしてるんだから」
「そうよ、しかも最近は倍沃(べよう)に取り入って私たちをはめようとしてんのよ」

「僕が見る限り、本庄さんはそんなことするように思えないですよ。」

「水判土(みずはた)さんには、わからないわよ。あの子男の前だと態度変えるから」

ここまではっきりと言い切られるとその嘘にある種清々しささえ感じてしまう。

「わかりました。じゃあ、こうしましょう。今度からいたずらできないように帰る前に、キーボードとマウスを僕に預けてください」

「水判土(みずはた)君の方が先に帰るときはどうすればいいのよ」

「その時にはその日の残業監督担当の課長にお願いしてください。これでどうですか」

「べ、別にそこまでしなくても・・・ねぇ」
「私たちは歓波(わいは)ちゃんがこういうことするのやめてくれればいいだけのことなんで・・・。」

3人の態度に萌華(もか)は自分が学校でいじめに遭っていたころを思い出し、涙が込み上げてきた。
一瞬歓波(わいは)と目が合ったが歓波(わいは)は微動だにしなかった。

「念のため聞きますけど、こんなことしたのは本庄さんですか」
迦皇(かのん)が言った。

「ワイ、そんなことしないっす」

「そうですか、犯人が誰であれ、こんなことがあるとリソースの浪費でしかないですね。大関さん、もしあれだったら、防犯カメラなんか設置してみてはいかがでしょう」

萌華(もか)は迦皇(かのん)が遠回しに助け舟を出していることに気づいた。

「わかりました。調べて稟議書提出してください」
「この会社は稟議書はいくらからですか」
「10万円です。それ以下は経費申請書になります」
「それは役員会なしで即決できるということですね」
「はい」
「せいぜい3万円もあればカメラ4台と録画機まで買えると思いますので、ネットワーク設定などはこちらでやるので工事費は掛かりません。」
「そんな安くできるんですかなら早速お願いします」

歓波(わいは)をはめようとした3人の顔がみるみる青ざめていったのは言うまでもない。
阿倍部長、由喜枝さん、美咲、萌華(もか)、歓波(わいは)の5人はコルセットで結ばれた強い絆があることを3人は知らないのだ。
どんなに陥れようと画策したところで5人に通じるはずがない。

それにしても久しぶりに朝普通の時間に出勤できたと思ったとたんとんだ災難から始まって、「何なんだこの会社は」と憤る萌華(もか)であった。

To Be Continued...

■登場人物紹介■

浦埼美咲 (うらさきみさき)

主人公28歳。独身。彼氏あり。
恵比寿のアパレルメーカー(エンジェルスシンジケート)でネットやカタログ向けの画像加工を行う部署でお仕事中。
自宅は大都会埼玉の大宮駅から少し先のJRの駅からすぐのところに家賃8万円の1LDKに乗り換えなしで職場に通えるというだけの理由で一人暮らし。
性格は周りから周りからちょっとちやほやされてみたい気もするけど、目立つのは苦手という結構ありがちなタイプ。
案外見栄っ張りな一面もある。

大関萌華(おおぜきもか)

美咲と同じエンジェルスシンジケートで経理課に勤める。
Hカップの巨乳の持ち主といえば聞こえがよいが、肥満の家系に生まれ育つ。
子供のころのあだ名は横綱。
コルセットで急にカッコよくなった美咲にいち早く気づきコルセットダイエットを決意する。
美咲と同じ電車で通勤している。
美咲より数駅遠い町で祖父母と両親、兄3人と暮らす。

大関一家(年齢順)

　祖父：寅(とら)
　祖母：桂(かつら)
　父　：健人(けんと)
　母　：貴理子(きりこ)
　長男：塁(るい)
　次男：コナン
　三男：三斗(さんと)
　長女：萌華(もか)

本庄歓波(ほんじょうわいは)

エンジェルスシンジケートの珍入社員でどこまでも問題児。
自分の気に入ったものにはとことん固執するのにそれ以外はとことんずぼら。
早合点で超短絡思考でおバカを絵にかいたよう。
自分勝手な性格と誤解されやすく取りつきづらいイメージを持たれ孤立しがち。
しかし本当は・・・。

阿倍沃(あべよう) 商品開発部長

会社で一番の美人で、モデルもこなし、仕事もできる。
社長の愛人という根の葉もない噂もある。
女子社員は陰で「倍沃」(べよう)と呼んでいる。
本人はそれに気づいているが、そのことはまんざらでもないらしい。
なぜなら倍沃(べよう)はコルセットダイエットの一番人気のバーヴォーグ(Burvogue)の漢字名だからである。
そして今では美咲にとってのコルセットの師匠でもある。

秋ヶ瀬翔太

美咲の彼氏で同僚。
お人好しで頼まれたら断れない性格。
美咲にだけはなぜかやたら強気。
それ以外は未設定。

水判土迦皇(みずはたかのん)

元フリーのSE。
萌華(もか)の兄の塁の友達の弟。
萌華(もか)が片思いを寄せている。

岩槻陽菜

23歳。
美咲の勤める会社で派遣社員をしている。
社内ではかなりイケているルックスの持ち主。
美咲は彼氏さんの「陽菜ちゃんってかわいいよね」の一言でやきもち持ちを焼いたことから、勝手に美のライバル視している。
陽菜本人はどう思っているかは定かではない。
というかまだ未設定。

戸田由喜枝

正社員なのになぜか不定期出勤で誰もが一目置く存在。
ミシンの達人であっという間にあらゆる服のお直しをしてしまう。
ミステリアスな存在である。

神園社長

美咲が務める会社(エンジェルスシンジケート)の社長。
高校生の娘がいる。

妻沼WEB営業課課長

美咲の直属の上司風。
課付きの課長なので実際には部下はいない。
理屈っぽく行動力はない。
ハゲデブで脂ぎっている

川里経理課長

萌華(もか)の直属の上司。
寡黙でなんでも他人事の態度。
貧相なガリガリ出っ歯。

トリサミットソン社(やしろ)先生

旧姓は小川。
両親が経営する白蓮総合病院の内科医。
ダイエット外来を担当している。
大関一家に毎週土曜日ダイエットレクチャーを実施。

■作者紹介■

)プロクビレイター(のAbooです。
世界中のウエストをくびれさせることが野望のプロのクビレイターです。
クビレイトに欠かせないものといえばコルセット
コルセットで肋骨を引き締めることでアンダーバストからヒップにかけて整形級のボディラインを作っちゃおうっていう痩身術です。
世間ではコルセットダイエットなんて呼ばれています。