私は美容室で髪を扱ってもらう事はあるけれど、
愛しく頭の前から髪をかきあげながら撫でて貰ったのは人生で二人だけ。
一人は父親。
遠い遠い遥かに遠い記憶の中で。
もう一人は言わない。
何があっても言わない。
そうして三人目は今生ではもう現れない事を知っている。
私は誰かに愛でるように頭を撫でられる事を実は嫌う。
何処かの国でもそうらしい。子どもの頭を撫でる行為は侮蔑に当たるらしい。
確かにそうだと思う。
子どもが大人より劣っていると一体誰が決めたのか。
それ故私は誰かにそうさせる事はない。
但し1つだけ例外がある。
深い深いその底から心をゆるした人にのみ。
もちろん指導教官にだって差し出さない。
二人目で今生で最後の人は、
大人になってから出逢った人。
だから尚の事。
もしかしたら父親より心をゆるしたかもしれない。
父はもう旅立ったから、
今生に存在するのは唯一人。
唯一人。