7 血縁の記憶 | 南域結界☆ ジェルソミーナ

7 血縁の記憶

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 気がつくと、夕焼けに染まる、城門の前にまで来ていた。
 マーカス・キーツは、そこで立ち止まった。

 兵士が彼の姿に気がついて、見張り小屋の角で、背すじを伸ばすのが、視界に入った。
 オレンジ色の夕焼けが、道ゆく馬車の窓ガラスに、反射している。
 大気が、足元から冷たかった。

 彼は、今朝がた見た夢を、思い出す。
 眠りから覚めて、またぼんやりとしていて、布地の底に落ち込んでいく……瞬間……
 ふと見えた、幻想とも思い出ともつかぬ、夢だ。
 彼はポケットの中に、右手を差し入れた。
 冷たい痛みが、右手に触れた。


 ――同じ頃。
 同じ敷地内を、歩く、ジェルソミーナの姿があった。
 髪を高く結い上げ、淡いブルーのすっきりとした、最新・最流行のドレスに身を包み、左手に……あのリボンを巻いて歩く、姿だ。
 この日、彼女は、パストラル皇女の命令で、無理やり舞踏会に、参加させられていたのである。

 風はまだ冷たく、吐き出す息が、夕陽に溶けた。彼女は、ずり落ちたショールを、かけ直した。
 いやに冷えこむ。
 オレンジ色の夕陽だけは、冬のものとは思えない、ゆるやかな暖かさだ。
 渡り廊下から、大臣たちの、豪快な笑い声が聞こえてくる。

 舞踏会の華やかな輝きが、窓ガラスをやぶって、あふれ出しそうだった。
 渡り廊下の、無数の宝石。きらびやかな貴婦人たちの姿、笑い声。

 ジェルソミーナは歩き出した。ランタンの火が、いよいよ額を照らし始める。
 小砂利を踏みしめる度、つま先が痛い。
 舞踏会はまだ、始まったばかりであった。
 開宴の時刻に遅れた客が、数名、彼女の背を追い抜いて行った。

 薔薇の茎で編まれた、アーチの通路を抜ける。庭園には、冬に咲く花が、集められている。
 雪のように降り積もるのは、厚ぼったい花びらをもつ、小ぶりで清楚な白い花だ。


 ――マーカス・キーツは、すでにそこで、いつもの作業に取り掛かっていた。
 夕陽はもはや、西の森に沈みかけ、残っているのは黒みを増した空と、わずかに残る、扇状の光ばかりである。
 彼の手元を、木立の中から、マイエル灯の淡い光が、照らしていた。
 誰も近づかない庭園の、最も奥まった一角であった。

 横長のベンチに足を組み、膝の上で、なにやら作業をしている人影がある。
 ジェルソミーナは、思わず、立ち止まってしまった。
(……キーツ様……?)


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