6 血縁の記憶 | 南域結界☆ ジェルソミーナ

6 血縁の記憶

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「その、訪問しない中央政府高官、っていうのは、「うち」の宰相閣下のことだあなー」
 さりげなく老軍人が、故郷の訛り言葉で言った。

「あんまり、敬意を表する、って感じの方じゃないからねえ」
 うっかり帝都の誰かに聞かれでもしたら、即座に、『背教者』として袋叩きにされ、切り刻まれたあげく、裏山で野犬のエサにでもされていただろうが、
「おほほほほ。ガトー将軍、三橋堂の芋ようかん、ですのよー」
 幸運にも? シトラビンスは、全く、人の話を聞いていなかった。

 パストラル『広報部』の、古めかしいシャンデリア、赤い絨毯。
 広いフロアの一角。
 間借りをする感じで、植え込みの向うに、『諜報部』のオフィスと、諜報部長・ガトーの机はあった。
 ……が、あまりの「仕事の無さ」に、諜報部員の二人は、朝から……ほのぼの、お茶時間に突入しているようだ。
「おー。お茶の渋みが、変わったね。新茶かい」
「おほほほほ」
 "広報部長"の朝の日課、新聞朗読は、あと十分で終わる。
 それが終わったら、"諜報部長"、ガトー将軍は、昼寝の時間だ。

「暇だよ、准佐。なにかこう変わった、おもしろい機密はないかい」
「そうですわねー」
 眠り猫のようなほほえみを絶やさず、シトラビンス准佐は、ようかんを切り分ける。
 優美な手つきで、つまようじを添え、
「でも……今は、これといって、おもしろい丸秘情報もございませんのよ。そうですわねー……特殊部隊でおたふく風邪が大流行なことぐらいかしらー?」
「うむ……そうか。……それは困った、いや。それにしても美味いな……かたいが……」
「あら、いやですわ将軍。敷紙は食べちゃ駄目ですのよ。お外しにならないと……おほほほほ」

 一方で、間借りをしている、広報オフィスは、早朝から、大忙しだ。
 役所の鋼鉄の門が開くと同時に、市民が続々と押し寄せ、今も、カウンターの呼び鈴が鳴りやまない。
 連休明けの、午前中は、猫の手も借りたい異常事態なのだろう。

 ガトーが大きな欠伸をすると、机の下で、ガトーの飼っている老犬も、一つ大きな欠伸をした。
 だるい後頭部を、背もたれに埋めながら、
「まあ……特使団が来ても……閣下のお姿を一目見たら、奴らの気も変わるだろう」
「なんの話ですの」
 横から手酌で、シトラビンスが、お茶を注ぎ足した。
「いや……ようかんが、うまくて、ねぇ」
「あら将軍、私の分をご存知ありません?」
「シトラ、もう一杯、お茶を頼む」
「まあ……っ。おほほほほ」

 シトラビンスが色の白い、うりざね顔を上げると、視線の先――
 窓の奥、林を越えた辺りに、皇帝の住む居城と、いかにも寒そうな、薄い白雲が浮かんでいた。
 城へと続く、螺旋階段を登るのは、赤い花束を胸に抱えた……王女付き・フィーネの姿であろう。
 そして、遥か手前、城壁の上をクッキーをかじりかじり、特殊部隊のジュンクリフ中尉が、散歩をしている。

「ガトー将軍」
 丁寧に、茶葉を、茶漉しに移し入れた。
 ガトーは、音をたてて湯呑みをすする。
「うむ」
「そろそろ。雪が止んでも、いい季節ですわねー」
「……競艇の季節だなあ」
「今年こそ、勝ちましょうね」
「むむ……」
 シトラビンスは、長い睫毛の目を上げた。


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